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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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それぞれの思惑

 針葉樹林に囲まれたエルフの里。普段は静けさに覆われているはずのその場所で、何か騒ぎが起きていた。

 先日、アイスオークの本拠地を討伐した女騎士が、知り合いのベテラン士官を見かけて声をかけた。


 「騒がしいが、何かあったのか?」

 「おっと、丁度探していたところだ」

 ベテラン士官は、人目に付かない場所まで女騎士を引っ張っていった。


 「お前さんの言った通り、波乱が起きたぜ」

 ニヤリと士官が笑った。その笑みを見て、女騎士には何があったのかが分かった。

 「あの家が痺れを切らして暴走したか」


 先の第二次討伐で、嫡男を失ったレッドベリー家は、一貫して捜索隊の派遣を要請していたが、受け入れられなかった。

 責任を取らせようとしたスノーホワイト家も、長老会議でお咎めなしと決定した。実際には処罰も無いが、褒賞もなかったので骨折り損ではあったのだが、レッドベリー家はそれでは納得しなかった。

 その結果、長老会議の決定に逆らって、独自に捜索隊を派遣したのである。

 表向きは嫡男の救出、そして裏では政敵の弱みを握るために部隊を送り出したのだ。


 「それで捜索隊の規模は?」

 「1個中隊だそうだ。すでに2個小隊も失っているのに豪勢なことで」

 「ある意味正しい選択だ。2個小隊がロストしているのに、それ以下で捜索しても二次遭難する可能性が高いからな」

 だが、二人の予想では、この捜索隊も戻ることはないと思われた。


 「それで、私を探していたという事は、動けるようになったのか?」

 「その通り。あの家の裏工作が成功したのか、他の家が罠として用意したのかまでは分からないが、長老会議がオークの丘への接近禁止を解いたのさ」

 「その通達があったのは捜索隊が出る前か後か」

 それによって長老会議の思惑がわかる。


 「出た後だそうだ」

 となれば、後から接近禁止令が解かれたとしても、レッドベリー家の独断専行は失点だ。その上で後続が追うのを抑制しないのであれば・・・


 「よし、追いかけるか」

 「そう言うと思ったぜ、こっちは1個小隊ならすぐ出れるぜ」

 「こちらは私を含めて3人がいいとこだな」

 第二次討伐隊には、無理して1個小隊に仕立て上げたが、今回はそれをする必要が無い。


 「少数精鋭で問題ないだろう。こっちもベテランで固めて行くしな」

 「お前の右肩は大丈夫なのか?」

 「脱臼しただけだ。治療も受けたし、もう動かしてもなんともない」

 「ならば、すぐに出よう。できれば捜索隊がオークの丘に突入する前に捕捉しておきたい」


 シルバーリーフ家とスノーホワイト家の混成部隊は、速やかにエルフの里を出立した。

 


 その頃、ビスコ村の冒険者ギルドでは珍しい指定依頼をめぐって、冒険者達のにらみ合いが続いていた。


 「オークの丘の調査か・・・例の真紅が失敗した件だったよな」

 「六つ子は生還したらしいぜ、奥まで行けなかったそうだが・・・」

 「報酬は破格だが、俺達だとパーティーLVが足りないか・・・」

 「美味い話には裏があるってね、くわばらくわばら」

 興味はあるが、手を出しかねる、そんな状態が続いていた。


 「はっ、皆そろって臆病風に吹かれて。そのデカイ身体は張りぼてかい?」

 威勢のいい啖呵に、掲示板の前に屯していた冒険者達が辺りを見回すが、誰もいない。

 と思ったら、彼らの股を潜り抜けて、一人のハーフリングが掲示板に近づいていった。


 「誰もやらないなら、おいらに任せなよ。はい、これ」

 素早く依頼票を剥がすと受付嬢に差し出した。

 受付嬢はちらっとハーフリングを見ると、何も言わずにカウンターの奥の男性職員に合図した。

 小さく頷いた職員は、ハーフリングの襟を掴んで釣り上げると、そのままギルドの外へ運び出した。


 「ちょっと、なんだよ。仲間ならこれから集めるんだって。おいらが声を掛ければ5人ぐらいすぐだって。なんなら例の負け犬4人組・・・あーーーー」


 静かになったギルドでは、受付嬢が、剥がされた依頼票を丁寧に元の位置に張りなおしていた。


 そこに一人の冒険者が、息せき切って走りこんできた。

 「よかった、まだ残ってた」

 受付嬢が冷たい視線を投げかけるが、その表情がわずかに和らいだ。

 「戻ってらしたんですね」

 問われた女性冒険者が、呼吸を整えながら答える。


 「うん、ただいま。その依頼、ビッグファミリーが責任もって引き受けるよ」



 偶然か、必然か。3つの勢力が同時に一つの場所に向かって動き出した。

 ある者は、魔女の伝説を確かめるために・・・

 またある者は、行方不明の同族を探し出すために・・・

 そしてある者は、暗黒邪神教団の企みを暴くために・・・


 それらが、最後には一つの答えに行き着くことを彼らは知らなかった。


 そう、答えの方だって、そんなことになってるなんて知らなかったのだから。


 

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