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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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ギルドの裏ボス

 「所長、少々よろしいでしょうか?」

 ビスコ村の冒険者ギルドの受付嬢が、通りかかった所長を呼び止めた。

 「ああ、多少なら時間がとれるが、厄介事かね?」

 この有能なスタッフが、急ぎで話し掛けてきたなら重要事項であることは間違いない。そしてそれは往々にして、ギルドにとって面倒な事柄であることが多い。

 「今のところはなんとも。ですが早期の対処が必要かと思われます」

 「わかった、所長室で聞こう」

 そのまま受付嬢を伴って、所長室へと戻っていった。


 「それで話というのは?」

 「一つは領主様からの打診です。先月、初めての女のお子様が誕生なされたので、それを記念して湖の名前を変えたいとおっしゃっています」

 「親馬鹿の領主にも困ったものだな。まあ無名の湖もあるから適当に・・・」

 「それが、一番有名なナビス湖をご指名で」

 「おいおい、無茶を言うなよ。勇者伝説のあるナビス湖の名称を簡単に変えることなど出来っこないだろうに」

 ましてや湖畔にある開拓村は、湖の名前を取ってビスコ村になっている。


 「それですが、お嬢様のお名前は「ビスケッタ」様とおっしゃるそうで、村の名前は問題ないと」

 「ビスケッ湖にビスコ村か・・・親馬鹿領主め・・」

 最初から狙って娘の名前をつけたのか、名前の候補から閃いたのかは知らないが、余計な知恵を働かせやがって。


 「ダメだ、ダメだ。勇者伝説の水竜は「ナッシー」で広まっている。いまさら「ビッシー」になりましたは通用しない」

 「了解しました。ご領主様には、他の風光明媚な湖をお勧めしておきます」

 「ああ、そうしてくれ。ご令嬢の美しさにあやかってとでも言い繕っておけば良い」

 「はい」


 「次が本命ですが」

 「領主は前座扱いか」

 「三日月湖に冥底湖の魔女が住み着いたという噂が、フロストリザードマンの間で流れているそうです」

 なるほど、湖の名称変更など、前座だな・・・


 「その情報の信頼度は?」

 「噂が流れているのは、まず間違いありません。魔女かどうかが微妙ですが、高位のネクロマンサーの確率は高いかと」

 「こっちもか」

 「そちらにも?」

 「暗黒邪神教団かも知れない連中がオークの丘に篭っている可能性がある」

 「出所が同じということは?」

 確かに三日月湖とオークの丘は近場にあるが、それでも優に3kmは離れている。間に深い森もあるし、同じ勢力ということはないだろう。


 「別口だろうな。オークの丘の連中は魔女の手口ではない」

 「なるほど、では両方に調査依頼を出しますか?」

 「かなり危険な依頼になるな」

 「そのことを明示して依頼料を上乗せすればよろしいかと。あとは冒険者の自己責任ですし」

 あいかわらず、ドライな性格をしているな。そんなだから嫁の貰い手が・・・


 「何か?」

 凍りつくような視線で睨みつけてきた。

 「い、いや何でもない。そうだ、オークの丘の依頼は、調査の他に薬草の採集も出しておいてくれ。薬剤師から追加の注文が入っていたはず・・・」

 「それは既に手配済みです」

 「そしたら、夏至の夜のナイトシェイドの・・・」

 「それも手配済みです」

 「あとは・・・」

 「手配済みです」


 「・・・君がいれば、私はいらなくないかね?」

 「手配済みです」

 「おい!」



 ビスコ村の冒険者ギルドに新しい指定依頼が張り出された。物珍しさに大勢の冒険者が集まって、依頼掲示板を取り囲んでいた。


 「ちょっと、どきなさいよ。ぜんぜん見えないじゃないの」

 巨漢の多い冒険者の壁に阻まれて、掲示板が見れないビビアンが、大声を出していた。その身体をソニアが持ち上げて肩車する。

 「どうだい、これで見えるだろ」

 「ちょっと、子供扱いしないでよね。でもまあ、いいわ、やっと見えるし」

 何故かご満悦の少女に、ソニアが苦笑する。


 「えっと、調査依頼が2つ、三日月湖とオークの丘・・・採集依頼が2つ、薬草とナイトシェイド・・・最後が王都への往復書簡ね」

 ビビアンの呟きを聞いて、ハスキーが答えた。

 「王都への往復書簡とは珍しいな。大抵は領主宛ですますのに」


 北方辺境伯の居城までは片道2週間、それが王都までとなると1ヶ月はかかる。往復2ヶ月の依頼では、別口で用事でもなければ受け辛い。ましてや今は旅費にさえ事欠くありさまだ。


 「調査依頼はほぼ同額ね、にっくきオークの丘は薬草の採集依頼も同時にできるから美味しいけど」

 「だが、親爺さんとの約束があるからなあ」

 スタッチがボソッと呟く。


 「なによ、もう解禁でいいでしょ。装備も揃ったし、アンタ達も7LVになったんだし」

 ビビアンが言う通り、必要最低限の装備は揃えることができた。あと効率的な狩りを続けたので、スタッチとハスキーのLVが上がっていた。


 「だが、三日月湖のネタはアタシらが掴んだんだ。他の連中に譲るのもねえ」

 ソニアは魔女の調査に行きたいようだ。

 「それもそうね。あっちはケチがついてるし、ここはズバッと魔女の化けの皮を剥がしに行きましょう」

 あっさり三日月湖の調査に切り替えたビビアンは、指定の依頼表を剥がすと、受付に持っていった。


 「これ、お願い!」

 受付嬢は一瞬だけビビアンを見ると、依頼の受付を済ませた。

 「三日月湖の調査は慎重に行って下さい。万が一ですが、本物の魔女だった場合は交戦を避けて情報を持ち帰ってください。怒らせるとこの村ごと無くなります」


 「ちょっと、本気で本物が居るとか思ってないんでしょ」

 受付嬢の脅かしに、少しだけ不安になったビビアンが念を押した。


 「それを調査するのが、貴女方の仕事です」

 「ごもっともです・・・」

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