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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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ドメスティックバイオレンス

 その不気味なうめき声は、深淵から響き渡ってきた。


 「・・・アーーーー」


 その声に引き寄せられるように、1匹、また1匹と巨大な蛙が集まってくる。


 「・・ッカアーーー」


 集まった大蛙の群れは、声の主を守るように集団を形成し始めた。


 「オッカアーー、どこにいっただーー」


 群の中心には、家出した妻を捜す半魚人の姿があった・・・


 巨大な亀の背中に乗って、次々と大蛙を引き寄せる半魚人は、全身を青緑色の鱗で覆われ、禍々しい三つ又矛を手にしていた。

 頭は魚と両生類を掛け合わせたようなギョロ目で、手足には鋭い鉤爪に水かきがついていた。

 その姿は伝説の水棲精霊ヴォジャノーイそのものであった。


 ヴォジャノーイは深淵の主に仕える戦士であり、水棲生物を従える力を持つと言われている。その呼びかけに答えて、続々と大蛙が結集してきた。


 「もう浮気しないから、帰ってきてけろーー」


 本人は蛙を呼んでいるつもりはないらしいが・・・



 地底湖から出現した大蛙の集団は、3つの塊に分散した。

 一つがその場で地底湖の外周を確保し、二つ目が階段を登ってフィッシュボーンに侵攻。最後の三つ目が地下水路に潜っていった。

 階段では「下弦の弓月」の若い衆が、押し寄せる大蛙の群と戦っていた。


 「畜生、こいつら限がねええ、ジャー」

 「あきらめるな!すぐにお嬢達が助っ人つれて来てくれるはずだ、ジャー」

 「それまで持たねええ、ジャジャー」


 大蛙は全長が3mはありそうな巨体を揺らしながら階段を登ってくる。通路が狭い為に、1体ずつしか上がってこないのがせめてもの救いだが、若い衆も全員で切りかかることができない。

 後方からの援護射撃も、味方に当たりそうでおっかなビックリで放つ為に威力がない。

 そして問題は大蛙の特殊攻撃だった。


 「ゲロッ!」

 重低音の鳴き声とともに、大蛙のでかい舌が真っ直ぐ伸びてくる。

 「こんちくしょうめ!ジャー」

 若い衆はギリギリで伸びてきた舌を槍で受け止めた。

 しかし次の瞬間、槍ごと引き寄せられそうになる。必死に両手を離すと、そのまま槍は大蛙の舌に持ち去られて、パクリと咥え込まれてしまった。

 ベキベキベキ

 嫌な音と共に、青銅製の槍の柄が折れて使い物にならなくなる。

 あれが自分だったらと思うと、若い衆の背中に冷や汗が垂れ落ちた。


 「ボケっとするな!槍を失くしたら後ろに下がれ、ジャー」

 仲間に叱咤されて、慌てて後方に下がろうとした若い衆の背中を狙って、大蛙の舌が伸びてきた。


 「あぶねええ!」

 警告も間に合わず、大蛙の舌がリザードマンを絡め取った。


 次の瞬間、引き寄せようとする舌より早く、2筋の射線が大蛙の口内に飛び込んでいった。


 「ゲゲロロ」

 装甲の薄い口内を2本の矢に貫かれて、大蛙は即死した。

 若い衆が驚いて後ろを振り向くと、2人のスノーゴブリンが、長弓を構えて立っていた。


 「次がくるっすよ」

 どこから現れたのか見当もつかないが、頼りになりそうな助っ人の登場に、若い衆が盛り返す。

 「待ってたぜ、旦那!ジャジャ」

 「よっしゃ、このまま押し戻すぜ、ジャー」

 息を吹き返したリザードマン達は、徐々に地底湖へと敵を押し戻し始めた。



 時を同じくして転送された騎牙猪兵3騎は、地底湖の開けた湖畔に次々と出現した。

 その前方には、フィッシュボーンに続く階段へ群がる4匹の大蛙の集団がいた。


 「ギャギャギャ(敵集団を確認、密集隊形のまま突撃する)」

 「ギャギョギャ(了解!)」


 「「「ギョギャー!(ウラー!)」」」


 地響きを立てて3頭の牙猪が突進する。その背にはランスを構えた3人のスノーゴブリンがいた。

 新たな敵の側面攻撃に、反応して向きを変えるのが精一杯だった大蛙達は、そのランスと牙のWチャージに跳ね飛ばされていく。

 3匹を蹂躙して駆け抜けていく騎牙猪兵の後ろから、生き残った大蛙が舌を放つが、その時にはもう射程外へ走り去っていた。

 隙を見せた大蛙に、若い衆とワタリ達の矢が降り注ぐ。

 「「クレセント・アロー!」」

 「そこっす」

 文字通りの矢の雨に打たれて、階段下の大蛙は全て排除された。



 その頃、地下水路を進むハクジャとベニジャは、正面から近づく黒い影を視認した。

 二人は尾っぽでシグナルサインを送りあうと、左右に広がって突き進んだ。


 地下水路に侵入した大蛙は4匹、縦に1列に並んで、両足の蹴りで水を力強く掻いて進んできた。

 そこに2騎が突っ込んだ。


 先頭の大蛙がベニジャに向かって舌を放つ。

 それをクロコがブレスで迎え撃った。

 勢いを殺がれた舌を、難なく避けると、ベニジャはすれ違い様に槍を突き刺した。

 お互いの慣性が上乗せされた槍は、大蛙の身体を貫いて重傷を与える。

 ベニジャは追撃をせずに、そのまま後方へ傷ついた獲物を置き去りにする。


 そのベニジャに2列目の大蛙が口を開けて迫る。

 だが、そこにハクジャが飛び込んできた。

 側面からの一撃は、見事に大蛙の片目を貫き、そのまま地下水路の壁に縫いとめてしまう。激痛で暴れる大蛙を、グレコが噛み付いて止めを刺した。


 その間に3列目の大蛙が迫ってきていた。

 ベニジャはハクジャ達を守ろうと地下水路の中央に立ち塞がる。

 その両脇を、青白い奔流がすり抜けていった。

 カティとメイだ。

 2体はベニジャの前に出ると同時に電撃を解き放つ。

 バリバリバリバリッ

 直進した電撃は水中で伝播し、最後方の大蛙にも命中した。


 「「ゲゲロッ」」

 電撃によって麻痺した2匹の大蛙は、科学の実験で随意筋に電流を流されたようにピクピクと両足を伸縮させていた。

 ベニジャが傷つけた先頭の大蛙も、ミコトの電撃でとっくに沈められていたのだった。


 2匹に素早く止めを刺すと、ハクジャ達は地底湖を目指して進軍していった。



 「あとは地底湖の周りに陣取っているのだけかな?」

 コアの投影してくれたダンジョンマップに映る敵性反応の光点が、残り6個になった。

 広い場所で囲まれると、あの舌がやっかいなので、ワタリ達にはハクジャ隊が合流するまで待つように伝えてある。


 「どうやら我々の出番はなさそうだな」

 ロザリオから少し不満げな声が届いた。


 「いや、そうでもないよ。地底湖に陣取っている6匹は、あきらかに何かが来るのを待っている体勢だからね」

 「ほう、これから真打の登場か。それは楽しみだ」


 その会話が引き金になったのか、マップに新たな光点が映った。

 「るるいー」

 「なんだこれ、デカイぞ」

 地底湖の水面が勢い良く盛り上がり、その中心から全長10mを越えるような巨大な亀が出現した。


 「ざぶーん」

 「津波警報発令!ワタリ下がれ!」

 「なんなんすか、あれ」

 あふれ出た水が地底湖畔にあった陸地を水没させてしまった。足場が無くなるとこちらが不利だ。


 巨大亀の背中には、三つ又矛を手にした半魚人が仁王立ちになっていた。それは身の毛もよだつほどの怖ろしい声で叫んだ。


 「間男はどこだあああーーー」



 「キュキュ?」

 「え?僕?」

 「ギャギャ(あれですね、ルカさんの関係者っぽいです)」

 「ああ、家出の原因の」

 「寝取ったことになってるっすね」

 「いやいや風評被害もはなはだしいよね」

 「その正論が通じる相手ならいいがな」


 家出した人妻を匿ったら、DV夫が押しかけてきた・・・

 「ぎるてぃ」

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