土属性
バッタ1号の旅立ちを見送った後、一つ思いついてもう一度群体を召喚してもらった。
「コア、群体を召喚。半数をダンジョンの出口から10m以内に散開、残りを予備としてダンジョン内に待機」 「ん」
床の魔方陣から呼び出されたバッタの群は、整然と2手に分かれると、外に出た個体は適当な場所で羽を休めているようだ。
ダンジョンの外にでた個体は細かいコントロールはできないけれど、最初の命令は守ろうとするし、数が減ったらコアが感知できるみたいだから簡単な斥侯にはなるね。心音停止で異常事態を知らせる兵士みたいだけど。
半分残した理由は、あまりバッタが密集してると違和感がありすぎて警戒されるかもが一つ。大型の獣が来たらめくらましに使うのが一つ。まあバッタを餌にする動物ならそんなに凶暴なのはこないと思う。ああ、でもリザードマンとか住んでたら喜びそうな気がするね。
しばらく何かしらの動物が釣れないか待ってみたけど、そううまくはいかなかったみたいだ。飽きてきて集中力が散漫になったころ、それが襲ってきた。
「あ」
コアの警報で素早く立ち上がり ゴスッ 天井に頭をぶつけた・・・
「ん?」 「大丈夫・・・ちょっとぶつけただけだから・・それより敵襲?」
「ん」 コアがバッタXを侵入者に向かわせる。
「って、あれ?後ろ?」
逆走して行き止まりの方へ向かうバッタを目で追うと、そこには土壁を破壊して現れたモンスターが、モシャモシャと我が兵士を喰らっていたのだ。
「どこから来やがった! ってこの言い草だとこっちが悪者の山賊で、向こうが正義の味方になっちゃうね」 「ん」
「この警戒網を抜けてくるだと! これでどう?」 「ん~」
え?奇襲をかけた敵が有利そう?なるほどー
「かかったな、後方を手薄にしたのはそちらに誘導する作戦さ。 よしこれで行こう」 「ん」
方針が決まったので、改めて進入者に対面する。奴はいまだにこちらの兵士をムシャムシャムシャと食べ続けていた。すごい食欲だ。だがそこに付け入る隙があった。
「チェリオ!」
僕は窮屈な体勢からスコップ軍曹を奴の首筋に力一杯打ち込んだ。エッジを尖らせた軍曹は、深く突き刺さり地面に奴を縫いとめる。もがいて逃げ出そうとするが、コアに指示された群体が次々とやってきて動きを封じていく。やがて足元でぐったりした感触が伝わってきた。
もぐらを倒した。 しーん
土竜は視力がほぼないかわりに聴覚が発達していて、通常は自分の掘ったトンネルに入り込んだミミズや昆虫を音をたよりに捕食しているんだ。
だからこれだけガサゴソと音がしてたら釣られて来るのも仕方がないといえるね。全長は30cmぐらい、灰茶色の毛皮にするどい前鉤爪、とがった鼻先には髭が探知機のように広がっている。
土竜にしては大きい方だけど、このサイズで10cmはあるバッタを3匹も食べきってしまう大食漢だ。
土竜は吸収せずに皮を剥いで毛皮にしよう。と思ったけれど皮剥ぎナイフがないね。さすがに軍曹のエッジだと解体は無理っぽい。どうしようかな・・・・よし噛みとってもらおう。
「コア、群体に指令して、この屍体の毛皮だけ残して中身を噛みとらせて」 「ん」
さすが演算速度Aランクのコアだ。難しい指示を易々とこなしていく。
「コアはすごいねー」 「ん!」
なんとなく喜んでいるのが伝わってきて、僕もほのぼのとした気持ちになれた。
足元にはグロい光景が広がっていたんだけれども・・・
さて、作業が一段落したから次の実験に移ろう。土竜を倒したときにシステム無音がしたから、たぶん召喚リストに土竜が増えたはず。だとしたらやる事は一つだ。
「コア、新しい召喚リストから土竜を選択、最低単位で召喚」 「ん」
再び地面に銀の魔方陣が現れ、中から先ほどの個体とそっくりの土竜が1体出現した。
「キューキュー」
ネズミのような鳴き声を出しながら指令を待っているようだ。
「おや、今度は普通に召喚されたね。よし、お前の名前はオオエドだ」 「キュー」
「コア、オオエドにおよそ1m立方の穴を掘らせて」 「ん」
さて土堀り職人の腕前拝見だ。
土堀り職人オオエド親方と設計技師のコアさんのタッグはすばらしい仕事をしてくれました。
少し登りのスロープを折り返し掘ることにより高さをかせぎ、残土は崖の外に排出口をつけて押し出します。
スロープは重ならないように綿密に計算されており、最後の1本を通すことにより連鎖で崩落して大きな洞窟になるように仕掛けてあるのです。
問題があるとすれば働きづめオオエド親方はすごい勢いで餌を必要とすることです。もともと土竜は12時間食事を取らないと餓死すると言われるほど燃費が悪い生物なので、それが眷属化して長時間労働にいそしんでいるのですからお腹も減るわけで。
そこは「お腹が減ったなら僕をお食べ」とばかりにバッタが列をなして待機してます。だいたい1時間ぐらいで6匹ムシャムシャ、2時間ほどで1m立方の通路ができあがりました。
「完成!」 「ん」 「キュ」
土まみれでドヤ顔のオオエド親方に、給金を支払いながら完成した通路をながめる。
「荒削りだけど、それが自然の風合いを引き出している。さすが匠の技だ」 「ん」
ムシャムシャ
親方は食事に夢中なようです。
「よし、この調子でダンジョンを広げていこう。まずは1㎥のブロックを奥につなげて9mほどの通路を作ります。コア、土竜を追加で2体召喚して」 「ん」
出現した土竜に「ヒビヤ」と「トウザイ」と名付けて作業に就かせる。
コアは3体の土竜に立体的な穴を掘らせる指示をだしながら、餌のバッタのコントロールも同時にこなしている。演算処理はまだ余裕みたいだけど、召喚のDPコストがあいまいだからこれ以上土竜を呼ぶのは止めておこう。
だいたい6時間後ぐらいには奥行き9mの立派な通路が完成した。工事の合間に、持ち運べなかった荷物をとりに戻ろうかとも思ったんだけど、僕一人だと索敵能力が無いに等しいから止めておいた。
親方達が作業の合間にムシャムシャ食べているのを見て、僕もお腹が空いているのに気づいた。じゃがいもの野戦焼きを食べてからずいぶんたったもんね。換気の関係で通路の出口に近いところで料理します。
じゃがいもの残りを皮を剥いて、火が通りやすいように少し薄めに切ります。 毛皮の為にバラしたモグラの肉から脂身を取り出し、スコップの上に乗せ、下から松明で炙って溶かします。ジュージュー音がし始めたら、先ほどのじゃがいもを並べて両面に焦げ目がつくまで炒めたら完成です。
「じゃがいもの鉱夫風フライ、できあがりー」 「・・」
「うむ、獣脂が臭みが強くてハーブが欲しいけど、塩のない茹でじゃがよりは旨みがある!」
なお、モグラの肉は雑食の為にかなり癖があり、さらに親方達が心配そうにこちらをうかがうので食べませんでした。
召喚リスト その2
ノーザン・モール:北方モグラ
種族:獣 召喚ランク0 召喚コスト 5DP
技能:掘削
特殊技能:アースソナー(地中探査) 使用MP 0
備考:難視覚、大食い




