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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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J1リーグを目指します

 あれから二日後、ツンドラエルフのアイスオーク討伐部隊は、里に無事に帰りついた。

 だが、出発時の半数になってしまった有様を見て、あちこちで陰口が叩かれていた。それらを無視して、女騎士は、兵士達に労いの言葉をかけると解散を命じた。

 その後、二人の士官を連れて、長老達へ報告に出向いた。


 「ではアイスオークの部族は滅んだということだな」

 「はっ、既に戦力は壊滅しており、残った非戦闘員は自滅覚悟の罠で氷河の下敷きになりました」

 少し事実とは違うが、概ねエルフ側から見た結果を報告した。


 「次に偵察任務に出た2小隊が、行方不明になった件だが・・・」

 「決まっておる、そこの白雪の仇花が、当家の跡取り息子を謀殺したのだ」

 レッドベリー家出身の長老が、激高して割り込んできた。


 「複数の証言が、アイン・レッドベリーの独断専行を示唆しているのに、謀殺とは穏やかでないな」

 「さよう、感情論で懲罰を言い渡しては、この会議の権威にも傷がつきましょう」

 「だいたい、行方不明というだけで死亡が確認されたわけでもなし、十年後ぐらいにひょっこり帰ってくるやも・・・」

 他家の長老達は、自分の勢力に損害が出なかったこともあり、殆どが事なかれ主義を貫いていた。

 その中で一人だけ、討伐軍の隊長の責任を追及しているのが、先ほどの長老である。


 「ならば、直にでも救援部隊を送り出すべきではないか。それをしないと言う事自体が、謀議があった証拠である!」

 かなり乱暴な意見だが、多少は事実を言い当てていた。

 つまり女騎士は、古代帝国の墳墓に何かが潜んでいるのを予想しており、そこに無謀な侵入を試みれば、手痛い損害を受けるであろうことを確信していた。

 世慣れたベテラン士官とその部下に任せれば、危険を回避しつつ相手の正体を掴めるかと思っていた所での、アインの横槍である。

 女騎士の唯一の誤算は、まさかアインまでもが戻ってこない事だった。

 彼女の評価では、あの馬鹿息子は、世間で言われているほどには無能ではなく、ただ単に我がままなだけだと信じていた。故に自信満々で、対応する配下まで揃えて行う偵察が、全滅で終わるとは思っていなかったのだ。


 声高にアイン分隊の行方不明を、軍隊長の責任と叫ぶ長老に、

 「お宅の馬鹿息子が、おもったより使えなかったせいですよ」

 と言ってやりたかったが自重した。

 曲りなりにも長老会議員に、暴言を吐けばそれだけで不敬罪に問われることもある。

 ましてや、向こうは感情論をまくし立てているように見せかけて、こちらの失点を誘い出そうしている可能性もある。

 長命種であるエルフの長老とは、よく言えば古狸、実際には魑魅魍魎と大差ないのだから・・・


 今回のアイスオーク討伐における、論功に結論がでたのは、3日後にシルバーリーフの小隊が里に帰還した、さらに次の日であったという。



 「しかし、戻ってきてもまだ論功が決まってないとは驚いたぜ。いい加減、老害は引退してくれねえかな」

 3日間の延長任務から戻ってみれば、いまだ長老会議は結論を出しておらず、参考人として証言を強いられたベテラン士官が盛大に文句を言う。


 「貴殿には迷惑をかけた。この埋め合わせはいつか必ず・・・」


 頭を下げる女騎士にベテラン士官は苦笑いを浮かべて答えた。

「おいおい、今回の件は不幸な事故だぜ。言ってみればアンタが指揮するキャラバンのうち、自信過剰な馬鹿な御者が、ルートを外れて近道しようとして盗賊のアジトに突っ込んでいった様なもんだろ。積荷の損害は補填しなきゃならないだろうが、馬鹿な御者の生死はほっとけばいいんだよ」


 ベテラン士官の的確な言い草に感心しながら、話を続けた。

 「それで、やはり帰還者は無しだったか?」

 「ああ、奴らの足取りは、丘の洞窟へ入っていったきり、ぷっつり途絶えたままだ。まあ丘の下に巨大迷宮でもあって、今も絶賛探検中な可能性もないわけじゃないが、望み薄だな」


 実はある意味真実に近づいたのだが、二人にはそれを確かめる術は無かった。


 「ただ、待機してから2日目に面白い事が起きたぜ」

 「なんだ?私は聞いていないぞ」

 「誰にも言ってないからな」

 そう言って、ベテラン士官はニヤリと笑った。


 「お前、長老会議にも報告してないのか?」

 あきれたように女騎士が呟いた。


 「人が任務から帰って、酒飲んで寝ようとしてるときに、報告に呼び出すような意地悪爺さん婆さんには話す義理もないね」

 「それで何が起きたんだ?」

 

 「昼過ぎに、人族の冒険者が丘の調査に来たのさ・・・」




  数日前のビスコ村冒険者ギルドにて


 「お、新しい指定依頼がでてるぜ」

 この村のギルド窓口には、常設依頼は山ほど張り出されているが、指定の依頼はめったに見ない。それが今日は2枚も張り出されていた。

 

 「薬草の採集依頼と新種のアンデッドの調査依頼かあ。簡単そうなのにパーティーLV25以上必須というのが気になるねえ」

 パーティーLVとは、全員のLVを合計した数値のことで、依頼の難易度の目安になる。しかも普通なら推奨で書かれるはずなのに、必須とあるのは何やらきな臭い。


 「きっとあれだよ、酔いどれ亭の自縛霊だよ」

 ここ2週間で、ある意味有名になった負け犬軍団が持ってきたネタならば、必須条件が高くなるのも納得である。彼らより弱いものが向かっても、返り討ちに遭うのが関の山だろう。


 「どうする?うちらならいけると思うけど、この依頼受けてみる?」

 パーティーメンバーは6人、全員が5Lvなので条件は満たしている。ただ、負け犬達は人数が少ない分、LVはこちらより高かったはずだ。それが負けたとなると、危険度は低くはない。


 「薬草の採集が高報酬なのは、最近、ヒーリングポーションの相場が値上がりしているからでしょうね。ギルドとしても恒常的に入手できる場所が増えるのは喜ばしいはずですよ」

 薬草はそのまま傷にすり込んだり、噛み締めたりしても使えるが、薬剤師が成分を抽出して配合すると、効果の高いヒーリングポーションになる。最前線のこの村ではいつも在庫が途切れがちな商品だ。


 「新種のアンデッドは1体倒して、死体の一部を持ち帰れば良いみたいだから、安全地帯まで釣り出して倒せばいいか。よし、この依頼を2件とも受けよう」

 リーダーらしい人物の一声でパーティーの方針が決定した。さっそく案内板から依頼票を剥がすと、受付に持っていく。


 「「「「「「 これ、お願い! 」」」」」」


 6人が綺麗に同時に話し掛けるが、ギルドの受付嬢は驚きもせずに微笑み返した。


 「はい、採集依頼と調査依頼ですね。パーティー名「ビッグファミリー」で受付ました。よい冒険を!」


 「「「「「「 ありがとう! 」」」」」」


 やはり揃って返事をする6人は、男性4人、女性2人の六つ子のパーティーだった。

 ちなみに家には双子の兄と三つ子の妹達がいる。


 母親曰く、「お産は3回だけだもの、普通よ」だそうだ。


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