幸せの黄色い
夏の上月第4週木の日、正午
やっと皆が二日酔いから復活した。まだ頭が痛いメンバーもいるみたいだけど、日常行動に支障がでるほどではない。
「はい、どんどんスキャンするよ」
「ぴかっ!」
コアもばっちり目が覚めて、眷属の進化をチェックしている。
「隠密ゴブリン異常なし、アップルチーム異常なし、五郎〇チーム・・・」
「ぴろりん♪」
おっと、牙猪部隊が進化してるようだね。
ブリザード・タスカー:吹雪牙猪
種族:魔獣 召喚ランク4 召喚コスト160
HP33 MP11 攻撃13 防御7
技能:掘削、突進、冷気耐性、乗騎、蹂躙New
特技:タスク・チャージ、トランプル(踏みつけ)
備考:トランプル 使用MP3 蹂躙攻撃の際に追加で+10ダメージ
蹂躙 自らより小さいサイズの敵を蹴散らして通過できる。進路にいる敵に10ダメージ
牙猪部隊も、魔獣化して逞しくなった。特に蹂躙攻撃は使いどこによっては凶悪な威力を発揮しそうだよね。今度、どこかに真っ直ぐな通路を作っておこう。
「またマスターが悪巧みしてるっす」
「なんでわかった?」
「真剣に考え込んでいるけど、口の端が上がってるっすよ」
「ワタリに隠し事はできないな」
お互い、裏の稼業が染み付いてしまっているから・・・
「ギャギャ(闇に生きる漢同士の阿吽の呼吸ってやつですね!)」
「お前の考えそうなことは、言われなくてもわかるさ・・というやつだな」
「ギャギャ(それそれ、それですよロザリオさん)」
まずい、アズサとロザリオが食いついてきた。うちのメンバーには腐女子はいないと思ってたのに。
「とぅるる」
いやいや、コア、わざわざコールセンターの「貴腐人」に連絡とらなくていいから。あの人、本当に仕事ほったらかして取材に来そうだからやめてね。
この手のギャグは封印しよう。こっちに跳ね返ってくるとダメージが半端ないから。
気を取り直してスキャンを継続しよう。
「エキドナチーム異常なし、穴熊父兄会と穴熊婦人会・・」
「ぴろりん♪」
今回はメインで活躍したからね。進化も当然だよ。チルドレンは途中で回復の為に戦線離脱したから次回にお預けだね。
ツンドラバジャー・フレンジー:荒ぶるツンドラ穴熊
種族:獣? 召喚ランク3 召喚コスト90
HP19 MP7 攻撃9 防御3
技能:爪New、掘削、運搬、耐寒New
特技:フェイクデス、ローリングクラッシュ、
フレンジーは凶暴な、という意味らしい。元々、穴熊は巣穴を守るために、小さい身体で巨大な外敵に戦いを挑む好戦的な性質がある。その方面へ進化したみたいだね。
これ以降のメンバーに進化した者はいなかった。リザードマンとか戦闘に参加できなかったしね。フィッシュボーン方面への侵入者は、その後まったくない。
魔女の呪いが怖くてリベンジには来ないようだ。攻勢が止まったのは有難いんだけど、誰も来ないのも寂しいよね。ほどほどに獲物が呼べる餌を撒いとく必要があるってことか・・・
「大頭、魔女の井戸に変な生き物が飛んでたんだけど、あれ新入り?ジャジャ」
ベニジャがすらっと爆弾発言をしてきた。
「え?精霊の泉(井戸バージョン)に何か来てた?」
「うぇ?」
どうやらコアが酔っ払ってる間に何か来たらしい。敵性反応がないから見逃したっぽいね。
「しょぼん」
ダンジョンの管理にミスがあったから、コアが落ち込んでいる。酔っていても、警報を出しそびれる事はないと僕も思っていたけど、こんな抜け穴があったのか。
なるほど、こういうミスが起こりうるから「貴腐人」や「男の娘」は敬遠されたんだね。ダンジョンコアがコントロールを維持できない状態が続けば、不確定要素が入り込む可能性が跳ね上がるわけだ。
まあ「ドジっ子」はさらにその斜め上を行く事故というか人災が付きまとうわけだけど。
「コアはしばらく禁酒だね」
「こくり」
本人が一番ショックを受けているから、ここはそっとしておこう。
「あたい、なんか不味いこと言った?ジャー」
「いや、知らせてくれて助かったよ。新入りになるかどうかは、まだ未定だけど、話をしに行こう」
一晩ほっといたわけだから、急がずに地下水路経由でフィッシュボーンに移動した。
水中呼吸の呪文を頼むついでに、ルカにも同行をお願いした。
フィッシュボーンの魔女の館に入ってみると、そこには確かに奇妙な生き物が飛んでいた。
全長は30cmほどの小さい竜で、背中に蝶の様な綺麗な翅が生えている。それをゆっくりと羽ばたかせながら、空中を逆さまになって浮遊していた・・・ちなみに竜の体は黄色い・・・
「ウッドストック?」
「それは鳥のはずですー」
ルカは知っているらしい。
「じゃあ、あれは何?」
「たぶん、たぶんですけどー、フェアリードラゴンじゃないかなーって」
そういうルカにも自信がないようだ。
確かに小さな竜の身体に蝶の翅と言えばフェアリードラゴンだけど、逆さになって飛ぶものなの?
「いえ、普通はもっとふつーですー」
フェアリードラゴン自体が普通ではないけれど、その中でもあれが特殊なのは理解できた。
「君は誰?」
そっと尋ねてみた。
すると彼?は逆さのまま、てってってっと宙を舞った。その軌跡に黄色い燐粉が舞い、一つの文字を形作った。
『λ(ラムダ)』
「それが君の名前?」
彼?はその場でくるりと縦に回転した。
「ラムダは精霊なんだ。ここが気に入った?」
再びくるりと回った。
「それは良かったよ。好きなだけいていいけど、スキャンだけさせてね」
くるり。
フェアリー・ドラゴン・イエロー:妖精竜(黄)
種族:精霊 ランク5 眷族化コスト 不可
HP25 MP40 攻撃1 防御1
技能:言語学、生物学、魔法学、魔法耐性、無詠唱、飛行
特技:精霊魔法(無属性)Lv6、インビジビリティ(透明化)
備考:透明化 使用MP1 視認不可。攻撃行動をとると、その瞬間に解ける。
うん、なんだろう、すごい知識の宝庫なんだろうけど、それを引き出せないもどかしさがあるよね。
眷属にできないようだから念話もだめだし、無詠唱があるから話さない気満々だよね。
「それでも低級の泉で、フェアリードラゴンが来るなんてすごいですー」
ルカは興奮してラムダに一生懸命アピールしているけど、彼?はマイペースで浮遊していた。
「無属性魔法が使えるなら「鑑定」の呪文も持ってるかもしれませんー」
鑑定結果をどう伝えてもらうかが問題だけどね・・・
結局、ラムダはルカと同じようにゲスト扱いで登録した。魔女の館に彼?用の止まり木と餌台を設置して、コオロギとリンゴジュースを置いておいた。ルカによればフェアリードラゴンは花の蜜と昆虫を食べるらしい。
ラムダも好き嫌いはないようで、お腹が空くと餌台から少しずつ食べているようだ、逆さまに浮いたままで・・・
ヘラジカの湖畔にて
「そうか、アイン隊は行方不明か・・・」
悲痛な顔をして部下の報告を聞いていた女騎士が、最後にポツリと呟いた。
「はっ、本隊8名、分隊4名ともに帰還しませんでした」
アイスオーク討伐自体は、想定外の自爆行動があったものの、死亡者は出さずに遂行できた。負傷者もクレリックの治癒呪文ですでに回復している。
ただ、別行動をとったレッドベリー家の部隊が、まるまる行方不明というのはマズい。
せめてアインだけでも戻ってきてくれないと、里に戻ってもいらぬ謀議の疑いを掛けられるのは間違いない。
「どうする、探しにいくか?」
ベテラン士官が提案してくるが、それも現実的ではない。
「2小隊を飲み込む相手だ、4小隊で行っても2次被害がでるだけだな」
中立の2家の士官も、救助活動には否定的だった。
彼らは別働隊未帰還の責任を追求されることはないし、本来の目的を無事に達成した今は、できるだけ早く里に戻りたいのだろう。
「なら里に増援を要請するか?・・・ダメか、討伐隊に出し惜しみするような連中が、他家の部隊を探しに兵を出すわけがなかったな」
「そういうことだ。レッドベリー家はわからないが、他からは増援はないだろうな」
しばらく考えたあと、女騎士が結論を出した。
「討伐隊は予定通り里に帰還する。シルバーリーフ隊は偵察に出た別働隊を、ここであと3日待ってくれ。食料は全部隊の予備を残していくから大丈夫だろう。3日待って連絡がなければ撤収してくれ」
「了解しました」
各部隊が移動の準備を始めるなかで、女騎士はベテラン士官に小声で話しかけた。
「いつも面倒なことを頼んで、すまん」
「なに、いつもの事だ。それにこの役はうちの隊しかできないしな」
中立の2家に依頼すれば不満がでるし、軍隊長の自分が残るわけにもいかなかった。長老会議への報告の際に、彼がいないのは不安だが、他に選択枝がなかった。
「とにかく長老会議の追及は、不可抗力で押し切れ。馬鹿息子が勲功欲しさに無理強いしたのは、中立派も証言してくれるはずだ」
「だが、私達の作戦も聞かれてしまっているのだが」
「そういう可能性もあったというだけだ。幾つもある行軍予定を全て伝える必要はない」
「それで通ればいいがな」
息子を見殺しにした女を許さない家があるからな・・・
女騎士の足取りは重かった・・・
DPの推移
現在値: 3164 DP
スキャン:x44 -44
残り 3120 DP
召喚リスト
その49 ブリザード・タスカー
その50 ツンドラバジャー・フレンジー
本文参照のこと
なお、フェアリードラゴンは眷属化してないのでリスト化はされない。




