観測されなかった出来事
夏の上月第4週木の日、夜明け。
ダンジョンはゾンビに占領されていた。
二日酔いで「アー」とか「ウー」とか唸りながら、水をがぶがぶ飲むゾンビに・・・
「酒は飲んでも飲まれるなだだよ」
皆と同じだけ飲んでいたようなノーミンは、ケロっとした顔で、二日酔いゾンビを見渡していた。
「ノーミンは、お酒強いんだね」
今だに寝ているコアを抱えて、見回りをしていた僕は、感心したように声を掛けた。
「大殿は酒は嫌いだか?」
昨日の夜も、酔っていなかった僕に、尋ねてきた。
「限度があるでしょう。翌日の頭痛を考えたら、ああは飲めないよね」
アルコール度数が低いから、ジュース感覚でガブ飲みした、落ち武者達の成れの果てが、転がっている。
「確かにそうだで。まんず、ほっとけば良いだよ」
ノーミンの足元には、リンゴジュースしか飲まなかった穴熊チルドレンが、元気に付き従っていた。
「そいだら、荒れた畑を直しに行って来るだ。新しい呪文さ、覚えただで」
へー、ドルイドのLvが上がったんだ・・・・
「って、ちょっと待った!ノーミン、ランクが上がったの?」
「んだな」
「いやいや、そんな簡単に流すとこじゃないよね?」
「そうだか?見たとこ、他にもランクアップした仲間達さ、いっぱいいるだで」
「おいおい、いっぱいいるんだ・・・」
ふと横を見ると、体毛が灰色から白に生え変わったケンが、あくびをしながら歩いていた。
「ケンもなんだ」
「バウ?」
ケン本人は時期外れの換毛期ぐらいにしか考えてないようだ。
「チョビ達は?」
「「バウバウ?」」
チョビ、リュウ、ゲイルはケンとは真逆に、体毛が灰色から黒に生え変わっていた。
「コア、起きて、お仕事の時間だよ」
抱えていたコアを揺すってみる。
「ごふん~」
いや、月曜日の朝のOLじゃないんだからね。
「コア、目を覚まして、皆をスキャンしないと」
「げらぽ~」
それ妖怪しか見えないから・・・
「すーちー」
それ麻雀牌が透視できるだけだから・・・
「・・・えい」
かなり投げやりだったけど、ノーミンにスキャンがかかった。
アイスオーク・ドルイド:氷豚人ドルイド
種族:亜人 召喚ランク6 召喚コスト360
HP30 MP24 攻撃6(+6樫の杖) 防御6(+2革鎧)
技能:斧、冷気耐性、杖、詠唱、農耕CS、同調New
特技:アイスストーム、ドルイド呪文Lv6
備考:追加呪文 プラント・グロウス(植物成長)Lv6 使用MP6
おおー、追加された呪文は、植物を成長させる効果がありそうだね。さすが農耕カスタム。これで収穫が短期間でできるし、収穫量も期待できそうだ。
技能の「同調」は、召喚獣や使い魔達と同調して行動を取れるらしい。同じ目標を集中して攻撃したり、一斉に撤退するのが可能になる技能だそうだ。
「・・・やあ」
次はケンとチョビ達に同時にかかった。
ウィンター・ウルフ:冬狼
種族:魔獣 召喚ランク5 召喚コスト250
HP40 MP15 攻撃15 防御5
技能:噛みつき、追跡、嗅覚、冷気無効New、同族支配New
特技:スクリュー・ドライバー、コールドブレスNew
備考:コールドブレス(冷気の吐息) 使用MP5 効果範囲10m(前方扇型)冷気15ダメージ
シャドウ・ウルフ:影狼
種族:魔獣 召喚ランク5 召喚コスト250
HP35 MP20 攻撃13 防御5
技能:追跡、嗅覚、隠密、奇襲New、クリティカルNew
特技:トラッピング、シャドウ・メルト(影紛れ)New
備考:シャドウ・メルト 使用MP4 影の中に潜んで気配を遮断する。成功率95%
「かっけー」
コアが目覚めた・・・中二の病に・・・
確かに属性狼の定番中の定番が出現したね。しばらくケン達のランクが上がらなくて、狼はもう進化しないのかと思っていたら、2階級特進でした。
種族も魔獣になってるし、もう別物なのかもね。防御力に難があるけど、攻撃力は一級品だよ。
スキャンで確認の終わったノーミン達は、畑仕事に繰り出していった。前回の反省を踏まえて、ケンとチョビが護衛と警戒に付いて行く。
リュウとガイルは出口の見張りである。
「畑も案山子もボロボロだでな」
ノーミンは吹き飛ばされた苗をできるだけ回収し、うな垂れて元気のない案山子の汚れをふき取ってあげた。
その間に、穴熊チルドレンが畑を綺麗に掘り返していく。
畝ができあがったら、萎れた苗を丁寧に植え替えていった。
その様子を案山子がじっと見つめている。
「こっからが、オイラの腕の見せ所だ」
そういうと、萎びた苗に向かって呪文を唱え始めた。
「草よ、木よ、花よ、種よ、大地に育まれし全ての命よ。目覚めよ、そして生い茂れ!プラント・グロウス!」
ノーミンの詠唱とともに、畑に植え直された苗が、見る見るうちに生長していく。
「ギュギューーーーギュ!」
穴熊チルドレンが、何故か傘を勢い良く広げる動作をしている。どうやら誰かに植物成長のおまじないだと教え込まれたようだ。
そのお陰でもないだろうが、畑の苗は立派な姿に成長していた。
「よし!上出来だ」
あっという間に隣のライ麦と遜色ないほどの麦畑に育った苗を見渡してノーミンは満足そうに呟いた。
案山子もどこか嬉しそうに緩やかな風に揺られていた。
召喚リスト
その46 アイスオーク・ドルイド LV6
その47 ウィンター・ウルフ
その48 シャドウ・ウルフ
本文参照のこと




