今度生まれてくるときは
「これが古代オーク帝国の貴族の墓かー。思ったよりしょぼいなあ」
アインは地下に降りる階段を覗き込みながら、好き勝手な事を言っていた。
「斥候を出しましょうか?」
クレリックの一人が進言してくるが、アインはそれを止めた。
「弓兵じゃあアンデッドに相性が悪いし、君たちを偵察任務には使えないよ。先導役を少し先に歩かせて、見える位置から本隊が援護する形で行こう」
アインは、その軽薄な口調に反して、理にかなった戦術を運用する。世間では馬鹿息子と言われているが、配下の忠誠度は低くない。
2名の弓隊が小剣とバックラーに装備を変えて、6mぐらい先を警戒しながら進んでいく。その後ろに2名のクレリック、真ん中にアイン、最後尾に魔術兵の3人が続いている。
「階段の途中に左右に分岐があります。どうしますか?」
斥候の報告を聞いてアインが少し考えてから指示を出した。
「全部は回りきれないね。分岐は中を覗いて待ち伏せがいなければ無視しよう」
「よろしいのですか?分岐の奥が広がっていたら、そこから敵が回り込んでくるかも知れませんが」
「この人数で雑魚まで相手にしてられないよ。魔力は温存して、最深部を目指すよ。ラスボスを倒せば、残りは散ってくさ」
「了解しました」
「小隊長が早く合流してくれると、戦術の幅が広がるんだけどねえ」
分隊が壊滅したことをアインはまだ知らない・・・
「この先、小さなホールになっていて両扉があります。地下墓地への入口と思われます」
斥候から再度、報告が入る。大袈裟な紋章などはなく、簡素なレリーフがあるだけらしい。
「斥候は罠の発見、魔術兵は魔法の探知をして。何もなければ隊列を組んでから、前進よろしく」
アインの指示を受けて、各自が行動したあと、安全が確認されて扉が押し広げられた。
前方には十字路、その先にあった両扉は開かれており、縦長のホールが見える。さらにその奥にある扉も開かれており、部屋に通じているのが遠目に見えた。
その縦長のホールの中央に、銀色のスケルトンが立ちはだかっていた。
ミスリルチェインを着込み、ミスリルソードを携え、鋼鉄のカイトシールドを構えるその姿は、骸骨でなければ、エルフの騎士に見間違えたかも知れない。
しかも何故か狐のお面をしていた・・・
アイン達も、一瞬声がでなかった。それ程、彼らの予想を越えた者が存在していたからだ。
「銀の守護者・・・いや、そんな馬鹿な。ここは不浄のオークの墓だ、精霊の守護者がいるわけない。しかも狐面だし!」
我に返ったアインが、配下に指示をだす。
「前衛は前進して十字路手前を確保!クレリックはサクレッド・フレイム2連!」
「はっ!」
弓兵が近接武装で前進するのと同時に、クレリックがやや前に出て、謎の骸骨騎士に聖属性の単体攻撃を放つ。
しかし、飛来した聖なる炎は、骸骨騎士の掲げた盾に阻まれて、ほとんど効果をあげなかった。
「敵、アンデッドではありません。聖属性に反応せず」
クレリックからの報告と共に、敵の反撃が返ってきた。
遠距離から、4本の矢が飛来し、前衛の1人に集中して突き刺さる。そこに骸骨騎士が突進し、1刀の元に切り倒した。
「下がれ!」
アインは前衛の弓兵を下がらせて、小ホールに引き込もうとしたが、敵はその誘いには乗らず、すぐさま縦長ホールへと引き返していく。
「奥の弓兵士は雑魚だろう。クレリック、ホーリーバースト2連!」
だが、その呪文攻撃は、詠唱が終わる前に奥の扉が閉められてしまい無駄に終わる。
銀の骸骨騎士は、縦長ホールで悠々と次の攻撃を待ち構えていた。
「小癪な! 魔術兵、クレリックと交代してウィンド・カッターを威力増しで叩き込め!」
頭に血が上ったアインは、虎の子の魔術兵を十字路に3人展開させて、ブーストした単体魔法での攻撃を指示した。
それを見たロザリオがニヤリと笑う。
「今だ、騎兵隊の出番だぞ」
「ぱっぱらー」
「1号騎、2号騎発進!続けて隊長騎発進せよ!」
「「ギャギャグヒィ」」
左の兵士待機所から、2騎の騎牙猪兵が手作りランスを構えて突撃を開始した。
詠唱中に横合いから奇襲を受けた魔術兵は、回避するか詠唱を継続するか数瞬迷った。咄嗟に後ろに跳び退った一人は轢かれずにすんだが、残りの2人は運に見放された。
「ギャギャギャ!(ランス・チャーージ!)」
木製だが、鋭く削り出されたランスの穂先が胸に突き刺さり、ダメージと共に呼吸困難を引き起こす。
「グヒィグヒィ!(タスク・チャーージ!)」
鋭い2本の牙が足に突き刺さり、細い魔術兵の身体を、錐揉みさせながら吹き飛ばした。
そのまま廊下を端まで走りぬけた2騎を追う様に、バックステップで逃げた魔術兵が十字路に戻って範囲魔法を詠唱し始めた。
そこに隊長騎が突撃してきた。
「ギャギャグヒィグヒィ!!(チャーーージ!!)」
背後からランスに貫かれ、牙で突き飛ばされた魔術兵は、床に叩きつけられる前に死亡していた。
「弓兵は骸骨騎士の足を止めろ!クレリックは魔術兵の救護を!」
アインが叫ぶが、床に転がった魔術兵は3人とも息絶えていた。死亡を確認したクレリック達は、廊下の奥で反転して、再突撃の準備を終えた3騎を見て、慌てて小ホールに引っ込んだ。
既に半数が倒されて、敵側はほぼ無傷・・・
アインはこの時点で戦闘の継続を断念した。
だが、その決断は遅すぎた。
「アイン様!後ろ!」
クレリックの警告と、頚椎に走る激痛は同時だった。
いつの間にかアインの背後に忍び寄っていたチョビが、首筋に噛み付いていた。助けに走り寄るクレリックにも、リュウとガイルが襲い掛かる。
「こ、この犬畜生がああ!」
アインは本性を現して、口汚く罵りながら、腰の剣を抜いてチョビを切り捨てようとした。
チョビはすぐさまアインから離れると、リュウの支援に走り去る。
痛みに耐えながらチョビの後を追おうとするアインの喉元に、灰色の閃光が奔った。
「ゲハッ」
先ほどの牙攻撃より、深く重い一撃を喉元に受けて、アインは気管に詰まった血を吐き出した。
焦点の定まらなくなった瞳で、灰色の狼を睨みつけるアイン。
「ボクが・・こんな所で・・・ゲホッ・・・認めない・・認め・・」
そこにケンの必殺技、スクリュー・バイトが炸裂した。
喉笛を噛み千切られたアインが、血を撒き散らしながら、ゆっくりと床に倒れた。
クレリックは抵抗を続けていたが、チョビが加勢した方は、すでにリュウによって床に引き倒されており、2頭に蹂躙されるのに、それほど時間はかからなかった。
もう1人のクレリックは、同僚が床に引き倒されたのを見て、恐怖に駆られて逃げ出した。
遺跡の奥に向かって・・・
そこには弓兵を難なく切り倒して、待ち構えるロザリオの姿があった。
「何故だ、お前はエルフの里の守護者ではなかったのか!」
クレリックの必死の問いかけに、ロザリオが冷たく宣言した。
「私はモフモフと我が主の守護者だ」
モフモフとは何かと聞こうとしたクレリックの胸を、ミスリルソードが貫いていた。
「次に生まれ変わるときは、モフモフがお勧めだぞ」
そう告げて、ロザリオは剣の血糊を振り払った。
戦場を見渡して、敵の生き残りがいないことを確認してからロザリオが話しかけてきた。
「主殿、終わったぞ」
「バウバウ」
「ご苦労様。死体はコアが吸収するから残った装備だけ回収しておいて」
「了解した」
さてこれで、エルフの2小隊が行方不明になったわけだけど、エルフの里はどう出るかな・・・
その頃、男爵の丘を遠くから見つめるエルフの兵士の姿があった。
「レッドベリー家の連中が丘の中に消えてから1時間、まだ戻ってこない・・・指令では内部の偵察は禁止されているので、このまま待つしかないか」
兵士は長期戦になる覚悟を決めて、潜伏場所を少しでも楽に見張りができるように手を加え始めた。
DPの推移
現在値:2209 DP
吸収:ツンドラエルフx2 +90
吸収:ツンドラエルフ・ソーサラーx3 +375
吸収:ツンドラエルフ・クレリックx2 +360
吸収:ツンドラエルフ・ノーブルx1 +245
撃退:R3x5、R5x4、R6x2、R7x1 +1330
残り 4609 DP
召喚リスト その44
ツンドラエルフ・クレリック:凍土樹人・神官
種族:亜人 召喚ランク6 召喚コスト360
HP30 MP24 攻撃6(+武器) 防御5(+防具)
技能:耐寒、剣、詠唱、盾、祈祷
特技:精霊呪文(光Lv6)、神聖呪文Lv5
その45
ツンドラエルフ・ノーブル:凍土樹人・貴族
種族:亜人 召喚ランク7 召喚コスト490
HP35 MP28 攻撃8(+武器) 防御6(+防具)
技能:耐寒、剣、盾、騎乗、礼法、教養、紋章学
特技:精霊呪文(光Lv3)、血の契約
備考:血の契約 古き血脈の力により力あるものと契約できる




