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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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母は強し

 「第2射、敵ドルイドの迎撃呪文により、効果ありません!」

 観測員から弾道射撃の着弾報告が入った。


 「さすがに、2射目はくらってくれないか。仕方ない、中距離まで前進して呪文戦に移行するよ」

 「了解しました!」

 風下の視認できない地形からの奇襲は、そこそこ戦果をあげたようだけど、敵の増援が出てこないのが不思議だね。


 「敵残存戦力は、アイスオーク・ドルイド1、穴熊3です」

 召喚獣を4体倒したのに、まだ立ち止まって戦うってのも、おかしな敵だね。助けもこないし、これはハズレかな。

 「魔術兵、召喚獣を狙え、ウィンド・カッター3連、用意・・・」


 「待って下さい!穴熊がロストしました」

 「報告は正確にせよ。逃走か?帰還呪文か?」

 「わかりません、土埃が舞い上がったと思ったら視界からロストしていました」

 なんだろう?穴でも掘ったのかな?でもそんな一瞬で姿を隠せる穴は掘れないと思うけど。


 「なら目標をドルイドに変更、用意・・・」


 「敵ドルイド、呪文を行使しました。フォッグ・クラウド(霧の雲)と思われます!」

 視界を困難にする広範囲呪文か。逃げられると面倒だな。


 「魔術兵、霧の中心地を目標にウィンド・バースト3連、用意・・・撃て!」

 「「「ウィンド・バースト!」」」


 3重の風の旋風がドルイドのいた辺りに炸裂した。吹き荒れる突風に、霧の雲も吹き払われてしまう。

 「敵・・・消滅・・・?」

 畑には何もいなかった。ドルイドの死体さえも残っていない。

 「良く確認して。死体も残らないのは変でしょう」


 観測員が慎重に接近すると、彼らのとった行動が判明した。畑に塹壕を掘って、ウィンド・バーストを回避したのだ。

 ウィンド・バーストはその名の通り、目標地点から渦巻状に風の刃が広がっていく呪文だ。水平及び上空には効果が高いものの、その性質から下方には影響を及ばない。


 「こちらが風使いがメインと見極めての回避行動か、やるね」

 すでに塹壕から掘ったトンネルで、洞窟の方向に避難したようだ。反撃もないし、はぐれドルイドだったみたいだね。


 「それでもアイスオークは殲滅しなきゃね。小隊長は居る?」

 「はっ、お側に」

 「弓兵を3人預けるから、逃げたドルイドを殺っといて」

 「了解いたしました」

 「こっちは墓暴きに行くから、後から合流してね」

 「ははっ」


 さて、本命のオークの貴族の墓に潜ろうかな。

 アイスオークの主力部隊が壊滅したとかいう話だけど、眉唾だよね。大方、墓に住み着いたレイスとかに、斧だけで斬りかかって負けたんだろうけど、犠牲者もヘタするとレイスになるからなあ。

 どんどん増えて、手がつけられなくなったんだと思う。

 こっちは光属性の呪文が使えるクレリックがいるから、レイスとか鴨以外の何者でもないんだよ。


 「というわけで、とっとと終わらして凱旋しよう」

 貴族の溜め込んだ財宝が残ってるといいけど・・・盗掘にあっていませんように。


 8人の部隊は、階段の降り口へと向かっていった。


 「さて我々もドルイドを追うか」

 アインの本隊を見送ったあと、小隊長は配下の3人に声を掛けた。


 「せっかくの畑がボロボロですね」

 出たばかりの芽も、風の呪文で根こそぎ引き飛ばされていた。


 「なに、オークが耕した畑など、大地にとって穢れも同然。我々は清めただけさ」

 「それもそうですね」

 ハハハハ

 笑い声を響かせて、4人の部隊は麦畑の奥に分け入っていった。



 ライ麦の穂の中に消えていった4人の背中を、じっと見つめる瞳があった。

 いや、それは麻の袋に開けられた二つの並んだ穴であり、実際には何かが見えているわけではない・・・はずだった・・・

 荒らされた畑に打ち捨てられた案山子が、吹き飛ばされた種から生えた芽をじっと見つめている。

 広がりすぎた畑を前に、これだけは守ろうと誓った、新芽だった。

 明日には、苗として広い畑に植え替えられるはずだった。

 それを・・あいつら・・穢れだと・・・


 案山子の目から黒い涙が滴り落ちる。


 ・・・許さねぇ・・・


 その時、ライ麦畑の中から、麦わら帽子をかぶった案山子が、姿を見せた。

 一瞬、二人の案山子の視線が交差する。

 4人の向かった先に首を傾ける麦藁帽子。

 涙を払ってうなずく黒の案山子。


 今、守るべきものを踏みにじられた案山子おとこの復讐が始まる・・・ 



 その少し前・・・


 「ぷぴゅー」

 え?何?奇襲された?

 「めでぃー」

 怪我人が出たのか、侵入者反応がないからダンジョン外だね。ノーミンか!

 「負傷者は洞窟に退避させて!ケン、チョビ、癒しのリンゴを回収して罠部屋に至急持ってきて」

 「ん」  「「バウバウ」」

 敵の正体が分からないな。冒険者の来ないサイクルだったから油断したね。


 「もふぅ」

 負傷したのは、やんぼーとまーぼーか、かなり深い矢傷だけど助かるかな・・・

 「主殿!穴熊チルドレンが瀕死とは本当か!」

 「ロザリオは持ち場から離れちゃダメだよ、そこに居て」

 「しかしだな」

 「治癒能力の無いメンバーが来てもやることないから。敵はどこから攻めてくるかまだわからないんだ」

 「・・・わかった、私が敵を討てば良いんだな」

 「まだ死んでないからね」


 とはいえ危険なのは間違いない。穴熊婦人会が運んできたけど、ぐったりしていてリンゴも齧れそうにない・・・どうしよう。

 するとやんままが癒しのリンゴを齧り取ると、細かく噛み砕いてから口移しで、やんぼーに飲ませた。

 すぐにおおまつが、同じように、まーぼーに口移しをする。

 やがて瀕死だった2匹が、なんとか自力でリンゴを齧れるまで回復した。


 「さすが、おっかさんっす」

 ワタリの言う通りだね。ほぼ自分と同じ大きさの子供を引っ張って運ぶだけでも大変だったろうに・・・

 穴熊婦人会の背中にも数本の矢が突き立っていて、戦場の過酷さを物語っていた。


 「ノーミン達はまだ退避してこないの?」

 そこへトンネルを掘って抜け出してきたノーミン達が戻ってきた。


 「もうしわけないだ、エルフに奇襲をくらっただよ」

 敵はエルフなんだ、こっちがダンジョンだってわかってての侵攻なのかな?

 「ぶひぃ」

 ああ、ノーミンはアイスオークか。「貪欲の氷斧」の生き残りと間違えたのかな。


 「たとえ誤認だったとしても、モフモフを傷つけたことは万死に値すると思わぬか、主殿・・・」

 いや、まあ、その罪状はどうなんだろうね。警告なしで殺す気で撃ってきたみたいだし、手加減はしてあげないけどね。


 「つまりは極刑だな」

 もう、それで良いです。

 「よし、敵はエルフだ。遠距離戦になるとねばるから、一気に蹴散らせ。モフモフの敵は生かして返すな!」

 「「「キュキュギュギュグヒィバウ!!」」」


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