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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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この地に生きるすべての

 ツンドラ・エルフのアイスオーク討伐隊は、予定通り2日後の夜半にヘラジカ湖畔に到達した。


 「明朝、日が昇るまでここでキャンプする。各隊は交代で見張り番を出し、野生動物の襲撃に備えよ」

 軍隊長の女騎士は、隊全員に声を掛けると、自分の小隊の野営準備に取り掛かった。


 簡単な夕食が済むと、各小隊の士官が集まって明日の軍議になる。


 「アイスオークの居住地まで、あと2日。次の野営地は敵の哨戒範囲内になるだろう。どこか好条件な場所を知らないか?」

 すでに腹案はあったが、一応各家の士官にも意見を聞いておく。同じ意見がでれば、それを採用して、その家の貢献度を上げる。面倒ではあるが、協力してくれた各家に配慮するには必要な手順ではあった。


 「その前に疑問があるんだけど、侵攻ルートを南寄りに遠回りしたのは何故なんだい?」

 アイン・レッドベリーが、不躾な発言をした。軍隊長の決めたルートに、質問ではなく、疑義を挟むのは通常なら叱責される行為だ。迂回でなく遠回りと評していることから、このルート選択が間違えていると言っているのと同じだった。

 だが、この討伐隊の最大派閥であるレッドベリー家の馬鹿息子に、わざわざそれを指摘する士官はいなかった。

 ある者は保身の為に、ある者は追従の為に、そしてある者は・・


 「馬鹿に何言っても無駄だからな」

 小さな呟きは、両隣の士官にしか聞き取れなかったが、暗黙の了解で取り沙汰されることはなかった。


 「侵攻ルートを南に迂回させたのは、一つにはオーク達の警戒網を避ける為だ」

 女騎士は出立前の作戦会議で述べた理由を、もう一度繰り返した。


 「そんなに警戒する敵じゃないでしょう。もう戦力なんか残ってないだろうし」

 「早期に発見されて、分散されると面倒だ。できれば強襲をかけて一網打尽にしたい」

 これも事前に説明してあったことを繰り返す。


 「本当の目的はそれじゃないでしょ」

 アインの発言に、初めて他の士官が興味を示した。女騎士は、ただ眉を片方上げてみせただけだった。


 「侵攻ルートを南に遠回りさせたのは、ここからさらに南に下った場所を調べるためだよね」

 その発言に、他の士官がざわめき始めた。ベテラン士官だけは苦虫を噛み潰したような顔をしている。


 「先に訂正しておこう。貴殿の言った、ここから南の何かは、長老会議で調査を許可されなかった。ゆえにそれは無い」

 「あわよくば、敵性勢力に遭遇・攻撃されて、やむなく反撃とか考えてなかった?」

 「南の何かは、その存在をひた隠しにしている。この領域は現状は空白地帯になっていて野生動物しか活動が確認されていない。偶発による遭遇はありえない」

 正体不明の勢力との交戦の可能性を示唆された士官達が、動揺するのを強い口調で押しとどめる。


 「まあ、いいや。でもここまで来たら、ちょっと覗いて見たいよね、何がいるのか、もしくはあるのか」

 アインの誘いに女騎士は何も答えない。


 「黙りということは、すでに手配済みだった?例えばそこのシルバーリーフ家のベテラン士官に、周囲警戒と称して偵察に行かせるつもりだったとか」

 他の士官の視線が、ベテラン士官と女騎士に集中する。その非難の色を含んだ視線を無視して、答えた。


 「だったとしたら貴殿はどうするのかな?」


 「その役、ボクがやるよ」

 「なんだと?」

 予想外の答えに女騎士の平静な態度が初めて崩れた。


 「だから、南の脅威を調べる役はボクがやってあげるってこと」

 なんでもなさそうな雰囲気でアインは言うが、長老会議の決定に表立って反抗すれば、処罰は免れない。

 女騎士は、目まぐるしく思考をめぐらせた。この男、何を考えているのかと。


 「このままアイスオークの残党を根こそぎにしても、軍隊長でないボクには何の功績にもならないからね。だったら未確認の何かを偵察途中で発見した方がマシってもんだよ」

 どうやらレッドベリー家は、最初からその目論見で12名の戦力を送り込んできたらしい。


 「私が許可できないと言ったらどうする?」

 「それはお勧めしないよ。今ここでボクが軍隊長の問責投票を始めたらマズイでしょ」

 クランの軍律として、軍事行動中に指揮官の指揮能力に問題ありと士官から提議があれば、当事者以外の士官の無記名投票で、指揮官の交代が認められる。

 現状だと、私を擁護してくれるのはシルバーリーフ家だけになるだろう。最初の軍議で異議を唱えなかったのは、ギリギリで暴いて退路を断つ為か・・・


 「いいだろう、貴殿に南方面の偵察を頼もう」


 「さすが白雪の仇花、話が早くて助かるよ」

 「ですが、良いのですか?討伐戦の戦力が3分の2になってしまいます」

 レイニーブルー家の士官が、不安げに聞いてきた。


 「元々、この作戦は3個小隊で具申したものだ。それでは許可できないと言われたが、4個小隊なら十分制圧可能だと考えている」

 「だよね、ボクらの戦力はあてにしてなかったみたいだし、そこのベテランは途中で抜ける予定だったし、3個小隊でいけるいける」

 無責任なアインの発言に苦笑しながら、釘を刺しておくことを忘れない。


 「ただし、必ず帰りはここで落ち合ってもらうぞ。5日後の夜までには五体満足で戻って来い」


 「それはボクのセリフだね。討伐に失敗して、戦力が足りなくなった所為にされたら、いい迷惑だからさ。ちゃんと仕事はしてよね」

 話の展開に付いていけない中立派の2士官を、女騎士とアインが左右から宥めて納得させた。

 翌朝、レッドベリー家の2個小隊を残して、討伐隊の本隊は北に向かって出発した。


 「さあ、ボクらも行こうか」

 アインの号令で南方面偵察部隊は、古代オーク帝国貴族の墓があるという丘を目指して移動を始めた。

 レッドベリー家の士官が、アインに寄り添い小声で話しかけた。


 「・・・銀葉の手の者が監視していますが、いかがいたしましょうか・・・」

 「・・・泳がせておいて。軍監だと思えば気にならないでしょ・・・」

 「・・御意・・」




  その頃のダンジョンでは


 ノーミンとやんまー達が畑に水を撒いていた。

 淵から汲んだ水を、金盥に入れて慎重に畑まで運び、やんまー組が順番に水浴びすると、全身を震わせて雫を跳ね飛ばしていた。

 

 「如雨露があれば、楽なんだども、無い物はしょうがね」

 濡れ鼠になりながら畑を走り回るやんまー組に、ノーミンは話しかける。


 「お前さん達にも苦労さ掛けるべなー」

 「ギュギュギュ」

 それは言わない約束らしい。


 そんな牧歌的な風景が、一瞬にして戦場に変わった。


 「ギュギュ!」

 「敵襲だあ!」

 ノーミンとやんまー達に矢の雨が降り注いだ。

 「ギュ!」 「ギュギュ!」 「ギュー」

 「どこから射ってきてるだ!」

 視認できない位置から、曲射で狙っているらしい。しかもすごい矢の数だった。

 あっという間に全身に矢を受け、やんぼーとまーぼーが瀕死になる。それ以外のメンバーも多数の矢傷を負っていた。

 「皆、逃げるだ!ここはオラが!」

 仁王立ちになるノーミン。穴熊婦人会が瀕死の子供達を咥えて洞窟へと走り込む。

 そこに第2射が斉射された。


 「させて堪るだか!ワープ・ウッド!」

 木製品を曲げる呪文が、飛来する矢の軸を次々と捻じ曲げ、軌道をそらした。

 その隙に穴熊婦人会は無事に洞窟の中へと退避できたようだ。


 「お前達も逃げるだよ」

 だが、やんまー達3匹はノーミンの足元から離れようとしなかった。自分達は彼の護衛だとでもいうように・・・

 「皆・・・皆の力、オラに貸してくんろ!」

 「「ギュギュ!」」

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