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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第5章 冒険者編
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囚われたエルフの手記

 「ライッ、ライッ、ライッ、はい、ストップー」

 「すとぷぅ」

 「ピュイ」

 ただいま絶賛、引き上げ作業中です。

 

 水牢に落とした冒険者達は、とは言ってもほとんどは自分から飛び降りたんだけど、ミコトチームの電撃で麻痺させたあと、首をきゅっと絞めて気絶させた。

 溺死したらそれまでと思ってたんだけど、失神すると肺に水が入りづらくなるようで、4人とも蘇生に成功した。

 問題は気絶した身体を水底から引き上げる作業で、ミコトチーム、クロコチームにベニジャまで手伝ってもらって、ロープを掛けて皆で引っ張り上げた。


 「うわ、なんか少女が混じってるんだけど」

 引き上げた冒険者の中に、ツインテールでニーハイソックスを履いた少女がいた。

 「どうやらこの娘が火力馬鹿の術者のようだな」

 「この年齢で冒険者で、しかも中級レベルの火メイジとかすごいね」

 俗に言う魔法少女ってやつかな?


 「主殿、この娘、見た目の年齢ではないぞ。どうやらエルフの血が混じっているようだ」

 「え、ハーフエルフなんだ。ぱっと見、人族と見分けつかないけど」

 耳も尖っていないし、髪の色も、金髪というよりは落着いた栗毛色だし。

 「人族側の遺伝が色濃くでたのか、クウォーターなのかはわからんが、エルフの血が流れているのは間違いないな」

 ロザリオにはわかるらしい。


 「まあ、僕は種族で差別はしないよ。エルフも人族もハーフエルフも、皆まとめて侵入者です」

 「ふっ、主殿は潔いな」

 「ロザリオはエルフが攻めてきたらどうする?」

 「むろん戦うさ。エルフが同族と争わない種族だと言うのは幻想だ。部族同士の支配領域を争って、下手すると同じ部族の中でさえ、戦いは起きるからな」

 「そういうものなんだ」

 「今、私が守るべきものは、主と眷属仲間だけだ」

 そう言ったロザリオは、どこか遠くを見つめているようだった。


 「ギャギャ(その少女が目を覚ましそうです)」

 「あ、まずい。アズサとロザリオで女性二人は武装解除して。男二人はもう、裸にひん剥いていいや、3度目だしね。それで二人ずつ牢屋に入れておいて」

 「了解っす。男は素破にするっすか?」

 「騎士の情けだ、パンツぐらいは残してやってくれ」

 「そうだね、パンツとブーツは残していいや」

 「ギャギャ(少女の緑のブーツはマントとお揃いなので魔法の品みたいですけど)」

 「それはボッシュートで」


 慌ただしく身包み剥ぐと、男女別々に牢屋に放り込んだ。

 この牢屋、鉄格子はあるんだけど、格子の扉は鍵が掛からなくて出入り自由だ。牢屋の中の壁には、手枷足枷が鎖に繋がって残ってはいるけど、今は犠牲者は弔ってあって、何も繋がれてはいない。

 ロザリオの入っていた牢屋の壁には、遊び心で伝言を残しておいた。そこに少女達を入れておく。

 「さあ、冒険者が目覚める前に撤収、撤収。牢屋番のバーン達は隣の部屋で待機ね」

 「「ラジャー」」




 「ねえ、起きてよ、起きてったらぁ」

 誰かに揺り動かされて、意識が戻っていった。

 ここは・・・その瞬間、全てを思い出した。


 「敵は!ビビアン、無事だったか!」

 自分を懸命に揺さぶる少女は、僅かに涙ぐんでいた。

 「よかった、死んでしまったのかと思った・・・」

 ビビアンはずぶ濡れの服を着てはいたが、装備は全て無くしていた。アタシもほぼ服だけだ。


 「他の二人は?」

 最悪の事態も覚悟してビビアンに尋ねたが、どうやら無事ではいるらしい。

 改めて周囲を確認すれば、ここは牢屋のようだった。斜め向かい側にも別の牢屋があり、そこから二人分のイビキが聞こえてくる。なるほど、無事は無事だな。


 牢屋の中を調べると、かなり古い造りだとわかった。鉄格子も錆びていて、力を込めれば引き抜けそうだ。何より格子の扉の鍵は壊れて空きっぱなしだ。

 「これ、閉じ込めた意味なくないかい?」

 ビビアンはただ頭を振って答えなかった。少し考えたらアタシにもわかった。

 「武器も防具もなけりゃあ、牢屋から出ても逃げ出せないか・・・」


 「ここに掠れてるけど、誰かのメッセージが残ってる・・・」

 ビビアンが壁の隅に何か見つけたらしい。そばに寄ってみるが、アタシには読めない文字だった。

 「落書きじゃないのかい?」

 「ううん、これエルフ語」

 「ビビアンはエルフ語が読めるんだ、さすがだね」

 それには答えず、指先でなぞりながら、とぎれとぎれになった文字を解読しようとしている。


 「ここに繋がれて・・15年たった・・・もはや生きて帰ることは・・もしこのメッセージを見るものがいたなら・・・牢の突き当たりには隠し扉が・・・外につながって・・・」


 それ以上は読み取れなかったらしい。このメッセージを書き残したのが誰だか知らないが、その望みは何だったのだろうか。

 「名前もクランも分からない・・・」

 「確かに礼も、遺族への言付けもできないが、せっかく残してくれた情報だ。ありがたく使わせてもらおうじゃないか」


 鉄格子越しに様子をうかがうと、牢屋は全部で6箇所あり、右手奥には詰所に通じているだろう、覗き窓つきの扉があった。左の突き当たりは牢屋になっている。

 そっと格子の扉を開いて、左の牢屋を確かめる。こちらの格子の扉も鍵が壊れていて、中に入ることができた。奥の壁を調べると、確かに扉の大きさに線が入っているのがわかる。

 開け方はよくわからないが、ハスキーあたりなら得意だろう。


 静かに牢屋を出ると、男二人が高鼾をかいている牢屋に入る。なんでだか、こいつらはパンツ一丁にブーツだけという間抜けな格好をしていた。


 腹が立ったので乱暴に蹴って目を覚まさせる。

 「うお、いてっ」

 「ぐお、敵襲か」

 「馬鹿いってないで、ささっと起きな。やつらが来る前にずらかるよ」

 まだ良く状況を把握できない二人に、ざっと様子を説明した。


 スタッチは蹴ったことでまだ文句を言っていたが、ハスキーはさすがに立ち直りが早く、ビビアンの無事を確認すると、覗き窓のある扉に近づいていった。

 「隣に何かいるな・・音からして骸骨戦士3・4体・・・覗き窓を開けるのは流石に危険か・・」

 「3人で殴り込み掛けて武器を奪うか?」

 「無理だな、装備ありであれだけ苦戦したんだ。素手に裸同然じゃあ勝ち目は無い」

 スタッチも景気づけに言ってみただけで、成功するとは思ってなかったらしい。

 「とは言え、どうするかな」

 このまま待っていても状況は悪化するだけだろう。食料も無く、水もない・・・


 「実は先駆者がメッセージを残してくれていてね、突き当たりの牢の奥の壁に抜け穴があるのさ」

 それを聞いてハスキーは直ぐに調べに向かった。


 手持ち無沙汰のスタッチは疑問に思ったことを口にする。

 「でもよ、なんでわざわざ牢屋に脱出路なんか付けるんだよ。囚人が掘り抜いたっていうならわかるけどよ」

 「下衆な領主の牢獄には、夜中に囚人を自由にする為に秘密の扉があるもんさ。ここは豚男爵の墓場だったんだから、そういうことさ」

 「けっ、いけすかねえ豚野郎だぜ」

 「その点については同意するね」


 その間にハスキーが隠し扉の開け方を見つけたらしい。牢の壁が回転して、ポッカリと洞窟が口を開けていた。

 「だが、そうするとこの先は豚男爵の私室じゃないのかよ?」

 スタッチが気がついたように突っ込みを入れた。

 「その可能性は高いが、貴族が脱出路を用意しないわけもないし、外へも繋がっていると思う」

 「どうせ選択はできないんだ。男なら腹括りな」

 「別に俺はびびってるわけじゃねえぞ、ボス戦の可能性があるって言いたかっただけで・・」

 「そっちには行かない様にするから安心しな」

 尚もぶつぶつ文句を言うスタッチを急き立てるようにして、4人は隠し扉をくぐった。


 隠し扉を閉めれば真っ暗闇だ。

 ビビアンが指先に熱のない炎を灯して、明り代わりにする。

 狭い洞窟はやがてT字路になり、右は直ぐに壁で終わっていた。

 

 「この壁の先が男爵様の部屋ってわけかい」

 ソニアは無意識に腰に手をやったが、そこに使い慣れた戦斧は無かった。

 「残念だよ、装備さえ揃ってりゃ」

 他の3人も同じ事を思っていた。

 

 「だが、無い物は無いんだ。今は脱出するのが先だ」

 ハスキーはそう言って左に洞窟を進んでいった。

 やがてさらに狭くなった洞窟は、行き止まりになり、足元に地下水路だけが残っていた。


 「まさかこれを泳いでいくの?」

 ビビアンが不安げに尋ねた。

 「俺が潜って調べてくる。3分待って戻ってこなかったらあきらめて別なルートを探せ、いいな」

 水に潜ろうとするハスキーの腕を、ビビアンが掴んだ。


 「どうした?」

 「戻ってくるよね・・」


 いつもの高飛車な口調は鳴りを潜めて、今は年相応の少女に見えた。

 「大丈夫だ、ここが脱出路な以上、必ず外に通じている。ただ、長い年月で地下水が溜まって水路の様になっているだけだと思う」

 心配するビビアンを説き伏せて、ハスキーは水路を泳いでいった。


 実はそれ程楽観できる状況でもなかった。

 古い脱出路は崩落していてもおかしくないし、危険な生物が住み着いている可能性もあった。だが、それを言って少女の不安を掻き立てる意味もなかった。


 ハスキーはすぐに戻ってきた。

 「大丈夫だ、この先ですぐに縦穴にでる。どうやら古い井戸のようで、上に泳げばすぐ水面にでれるから、順番に来てくれ。ただ縦穴が狭くて二人が限界だ。ソニアが先頭で、縦穴の外を確保、ビビアンを押し上げるから引き上げてくれ。最後にスタッチが来てくれ」


 「わかったよ、古い井戸は登れそうなのかい?」

 「手掛かりは少ないが、狭いから手足を押し付ける方法で登れるはずだ」

 「なるほど、それはビビアンには無理だね」

 「なによ、アタシだってそれぐらい・・」

 ハスキーの無事な顔を見て、安心したのか、ビビアンの口調が戻ってきた。

 「まあ、試す分には問題ない。準備できたら行くぞ」


 ハスキーの先導で、4人は無事に脱出に成功した。


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