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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第5章 冒険者編
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フレンドリーファイヤー!

 「ディテクト・マジック!」

 ビビアンが玄関ホールで探知呪文を唱えた。

 「特に目ぼしい魔法反応は無いわね。遺跡全体に微弱な「結界」反応があるけど、これは耐久年数を上げるために建材に保存の効果を付与したり、防虫や防獣の効果を付与したりすれば、どこにでも出るから」

 「ざっと見たとこ扉にも床にも罠はなさそうだ。俺は屋外が専門なんで構造物の罠については万全じゃないけどな」

 ハスキーが自嘲気味に報告した。

 「よし、私が扉を開けるぞ。各自準備はいいな」

 パーティーの全員が頷いたのを確認して、ソニアがゆっくりと石造りの両扉を押し広げた。


 「十字路、正面に2体、左右は見通せず未確認だ。正面の2体は剣盾の骸骨戦士、たぶんランク2のスケルトンファイター辺りだな」

 スタッチが慣れた様子で状況を後衛に報告する。スケルトンファイター2体なら、今の装備でも余裕だ。

 ソニアとともの前進しようとタイミングを計っていると、後ろから呪文の詠唱が聞えてきた。


 「我が身に流るる魔力の奔流よ、今こそ炎となりて焼き尽くせ!ファイアーボール!」

 「ここで範囲魔法とか、何、考えてんだーーー」

 前進しようとしていた二人は慌てて後ろに跳び退る。


 ビビアンから放たれた火炎の球弾は、一直線に正面に飛ぶと、骸骨戦士の間で炸裂した。

 爆風と熱波がソニアとスタッチにも吹き付ける。

 幸い、バックステップをしたお陰で、怪我は負わなかったが、熱いものは熱い。


 「おい、ビビアン、無茶するんじゃねえ」

 あまりの暴挙にスタッチが苦言を呈するが、肝心のビビアンは清々しい笑顔を浮かべていた。

 「良い仕事したわ、スケルトンなんて瞬殺よね」


 正面を見ると、粉々に吹き飛んだ2体の白骨死体が散乱していた。

 「あれじゃあ、盾は使い物にならないね」

 残念そうにソニアが床を見つめていた。木製の盾は、爆風で割れた後、炎で燃えてしまっていた。剣だけは黒い煤がついているが、なんとか使えそうだ。


 「前衛2体までならアタシらが抑えるから、ビビアンは単体攻撃魔法で援護しておくれな」

 本当は、雑魚には魔力の温存をしておいて欲しいが、それを言っても聞くビビアンではないので、せめて自分達に被害が出そうな範囲魔法は遠慮してもらいたいソニアであった。

 「まあいいわ、私が全部倒しちゃったら、アンタ達がいる意味ないものね」

 この地下墓地での初撃破を華麗に決めて、ご機嫌のビビアンは承諾した。

 大人な3人は肩を竦めると、戦利品を漁りに前進するのであった。



 「ぴゃあ」

 「主殿、侵入者に火力馬鹿が混じってる、どうする?!」

 まさかあそこで遠距離から範囲攻撃呪文を打ってくるなんて。しかもスケルトンファイターの弱点である火炎属性だよ。


 「弓隊は扉の後ろに速やかに後退。中央ホールの盾隊も部屋の隅に隠れて、いや、ダメかファイアーボールの効果範囲から出ないと巻き込まれる・・・バーン以外の盾隊は玉座の間まで後退」

 「私が出る」

 「ロザリオは待って。敵を分断しないとどっちにしろまずい」

 「ならどうするのだ?」

 「コア、中央ホールにスケルトンファイター・カスタム(火炎耐性)を3体召喚、武装は鋼鉄の剣、木の盾に変更」

 「ん」

 「バーン隊は2体が扉正面、2体は部屋の隅で待機。こちらの合図で扉を開けて交戦、前衛二人を中央ホールに引き寄せてから残り2体も参戦して」

 「カタカタ」

 「コア、耐火SFCを階段に召喚、武装は合わせて」

 「ん」

 「中央ホールが4対2になったら、退路を断つ用に玄関ホールに侵入させて」

 「ん」  「カタカタ」

 「ミコト達もスタンバイよろしく」

 「「ピュイピュイ」」

 コアの合図で作戦開始だ。


 「れでぃ」

 「「ゴー!」」



 ソニアとスタッチが並んで十字路まで前進した。

 「左右も少し長い廊下で、両方とも扉で終わっている。敵影は無し」


 そういやファイアーボールが爆発したあとで、扉が開閉した様な音が聞えたが、気のせいだったか。


 慎重に近づくと、燃え残った剣は鋼鉄の剣のようだった。

 「スケルトンのクセに良い武器つかってるじゃねえか」

 俺なんか安物の鉄の剣に格下げされたっていうのによ。

 「1本失って2本手に入ったんだから文句ないだろ」

 ソニアはそういうが、俺は最初の冒険で黒鋼の剣を失ってるんだぞ、畜生、あれさえあれば・・・


 鋼鉄の剣を拾おうと十字路を横切ったとき、正面の両扉が開き始めた。

 「敵襲かい?」

 「奥の部屋にスケルトンが2体いる。装備は剣盾で同じ・・・盾に奇妙な紋章あり」

 見た目は最初の2体と同じだが、今度の骸骨戦士の盾には、焼印ででもつけたのか、焦げた紋章が描かれていた。

 大きな丸の上に小さな三角が3つ、弧をえがいて並んでいる紋章だ。


 「呪文が付与されてる様子もないし、ただの識別用だろう。範囲呪文はいらないぞ」

 ビビアンに釘を刺してから、ソニアと一緒に交戦する。

 「はっ、雑魚だね」

 ソニアがバトルアックスを叩きつけると、骸骨戦士は受けた盾毎、後ろに吹き飛ばされている。俺の前の奴も攻撃が通用しないと思ったのか、後ろに下がり気味だ。

 徐々に押し込んで、大きなホールまで侵入したときに、奴らの企みがわかった。


 「ソニア、新手だ。あと2体来たぞ」

 部屋の隅にいた骸骨戦士が2体、戦いに参戦してきた。

 「こいつら、雑魚なのにしぶといね」

 普段なら、2撃で始末できるスケルトンファイターだったが、思いのほか盾を上手く使ってねばる。こちらの武装が1線級でないのも影響して、4対2だと手こずりそうだった。


 「4体になった。援護頼む」

 ここで虚勢を張ってもしかたがない。素直に後衛陣に援護射撃を頼んだ。


 「まかせなさい!我が身に流るる・・・」

 「「ストップ、ストップ!ファイアーボール禁止で!」」


 前衛陣の心からの叫びに、ビビアンも詠唱を中断してくれた。舌打ちが聞こえたのは気のせいだろう・・

 「しかたないわね・・・出でよ炎の矢、我が敵を撃ち抜け!ファイアーアロー!」

 同時にハスキーも特技を発動した。

 「鳴り響け弓弦、木霊せよ矢音、ツインシュート!」

 2人の放った援護射撃がそれぞれの前衛の正面の敵に突き刺さる・・・だが・・・


 「嘘でしょ、レジストされた?!」

 ビビアンの放った火炎矢は骸骨戦士に命中はしたが、何の効果も与えられなかった。

 「やはりスケルトンに弓矢は鬼門だな」

 ハスキーが同時に放った2本の矢は、両方とも命中したが、刺突半減の効果で、ほとんどダメージが入った様子がない。


 さらに二人の後方から、何かが接近してくる音が聞えてきた。

 「後ろからだと!」

 いち早く察知したハスキーが振り返ると、階段を降りてくる1体の骸骨戦士が目に映った。


 「新手だ、骸骨戦士1体追加、退路を断たれた。盾剣持ちで紋章ありだ」

 「すぐに消し飛ばすわよ、ファイアーボール!」

 ハスキーが前衛に敵の増援を告げている間に、詠唱を済ませたビビアンが、階段を降り切った骸骨戦士に火炎球を叩き付けた。

 近距離の爆発に、慌てて顔をカバーするハスキーだったが、収まった爆風の跡に、平然と立っている骸骨戦士に驚愕した。


 「馬鹿な、フラグも立ててないのに、やってないだと!」

 「どういう意味よ、それとなんであいつは倒れないのよ!」

 「俺が知るか、魔法の専門家はビビアンだろ」

 「こんな常識外のスケルトンとか聞いたこと無いわよ・・・ってもしかしてバーニング・ボーン!?」


 聞きなれないモンスター名にハスターが首を傾げる。その間にもジリジリと後退して骸骨戦士との距離を開けていた。

 「スケルトンの上位種よ。火災で死んだ魂が悪霊化して甦ったアンデッドで、確かランクは6か7だったはず」

 「おいおい、そんなのが5体も出てきたらマズいだろ。しかも名前からしても火炎魔法が効かなさそうだ」

 「最初の2体が吹き飛んだから油断したわね。貴方の弓も効かなさそうだし、どうするの?」


 余裕が無くなったからか、ビビアンの口調もいつもの威勢が無くなっていた。しおらしくしていれば誰もが振り向くような美少女だ。ハスキーはこの娘だけでも脱出させなくてはと、思いを新たにした。


 「とにかく前の二人に合流しよう。4人なら1体を突破できる」

 確実を期すならハスキーが囮になってビビアンを後方に逃がすのが正解だが、それだと前衛の二人を見殺しにすることになる。さらには階段から1体降りてきたということは、見落とした通路があった可能性が高く、ビビアン1人で脱出できるかどうかも怪しかった。


 「わかったわ、殿しんがり、お願いね」

 そう言ってビビアンは十字路に移動していった。ハスキーも後方の骸骨戦士を牽制しながら、ビビアンの後を追っていった。


 二人が十字路で合流したとき、中央ホールの戦いは泥沼の様相を呈していた。

 「畜生、こいつら防御が硬いぜ」

 「無駄口叩いてないで、集中しないとバッサリやられるよ」

 お互い決め手のないまま、かすり傷だけが増えていった。

 「このままだとジリ貧だ、撤退しねえか?」

 「アタシもそう思うけど、向こうがさせてくれるかね」


 その会話が引き金になったのか、ホールの両扉がゆっくり閉まり始めた。

 「「まずい!」」

 すぐに反応したのは十字路のハスキーだった。閉まりかける扉を押し戻そうとして駆け寄った。ビビアンも一緒に移動するが、これは扉を押さえようとしたわけではなく、1人になるのが怖かったからだ。

 ハスキーが閉まる扉を押し止めようとした瞬間、通路の両脇の壁に、無数の隠し穴が開いているのに気がついた。


 だが、勢いづいた手は止まらずに、扉に触れてしまう。

 カチッ

 壁の奥で微かな作動音がしたのを聞き取ったハスキーは、全身のバネを使って、後ろにいたビビアンを後方へ蹴り飛ばした。

 「キャッ!何するの・・エッ!」

 突然の暴力に抗議の悲鳴をあげたビビアンの目の前で、左右の壁から突き出した無数の槍が、ハスキーの全身を貫いた。

 あそこに自分がいたら・・・串刺しになった光景を想像して、床に座り込んでしまった。


 槍衾に挟まれたハスキーだったが、LV6レンジャーの防御力は伊達ではなく、傷自体は軽傷ですんだ。

 だが、安全地帯に蹴りだしたはずのビビアンを見ると、今まさに落とし穴に落ちていくところだった。

 「なんでええーーー」


 悲鳴とともに大きな水音が聞えた。下が水面ならまだ助けられる。

 ハスキーは傷口が広がることも無視して、無理やり身体を引き抜くと、ビビアンの落ちた穴に飛び込んでいった。

 「あいつ無茶しやがって」

 「ああいう馬鹿は嫌いじゃないよ」

 後衛の二人が落とし穴に消えていき、階段への出口は落とし格子で遮断された。

 「絶体絶命ってことかよ」

 「4人揃えばまだ可能性はあるさ」

 二人は目配せでタイミングを計ると、後ろの槍衾を何本か叩ききって、一目散に落とし穴へと飛び込んでいった。


 ミコトチームの電撃で、4つの絶叫が水牢に響いたのは、そのすぐ後だった・・・

 DPの推移

現在値: 2439 DP

召喚:スケルトンファイター・カスタムx4 -240

変換:鋼鉄の剣x4、丈夫な木の盾x4 -100

撃退:冒険者LV6x2、LV7x2 +850

残り 2949 DP

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