長靴下のビビ
「まあ、あれだな。相手がお前達より1枚も2枚も上手だってことはわかった」
「酔いどれモズクカニ」の親爺が3人に言い聞かせる。
「リベンジは諦めて地道に稼げ。お前達なら間に合わせの武器防具でもリザードマンぐらいは楽勝だろう。しばらくは小金を稼いで装備を買いなおすんだな」
酒場の親爺の忠告に、3人は大人しく頷こうとした、その時、背後から甲高い少女の声が聞こえた。
「そこで引き下がったら、本当の負け犬よね」
容赦ない発言に男二人は怒って相手を探したが、ソニアは目を丸くして闖入者を見つめていた。
「ビビアンかい?」
ソニアの言葉にスタッチが反応した。
「知っているのか、ライ・・ソニア」
「ああ、何度か組んだことがある。アンタ達も聞いたことはあるだろう、「真紅のビビアン」と呼ばれるソーサラーさ」
ビスコ村の冒険者ギルドでは有名な炎の元素使いだが、本人を見るのは初めてだった。しかも実物はこんな・・・ちっちゃい少女とは・・・
「なんか失礼なこと考えたりしてないわよね・・・燃やすわよ」
真紅のビビアンは身長のことに触れられるのを嫌うらしい・・・
「お嬢ちゃん、事情も知らないのに口出しは困るな」
酒場の親爺は有名な冒険者と聞いても気にすることなく、煽るような少女の発言を諌めた。
「事情は聞いたわ。そこの柱の影で」
「それって盗み聞きなんじゃあ」
「煩いわね、聞かれて困ることなら他所で話しなさいよ」
確かに酒場で愚痴をこぼしていたのは間違いない。
「で、ビビアンさんは俺達を笑いにきたのかい?」
どことなく下手に出ながらハスキーが尋ねた。
「違うわ、アンタ達のリベンジに、この私が手を貸してあげるって話。どう?嬉しいでしょ、感謝しないさいよね」
胸を張って威張るビビアンだったが、どうみても14歳ぐらいにしか見えなかった。
髪は綺麗な栗毛で、左右2本に束ねており、丈の短い緑のローブを羽織っていた。ローブというよりケープに近い長さなので、すらりとした足どころか、キュロットスカートまではみ出している。
ちなみに膝上まである靴下を履いていた。
ツインテ・ニーハイの中二病少女だ。
「「それはそれでアリだ」」
スタッチとハスキーはストライクゾーンが広いらしい。だが、ソニアの前で小さくて可愛らしいと褒めるのは迂闊としか言いようが無い。
二人同時にアイアンクロウをこめかみに決められて悶絶することになる。左手も握力が変わらないのは、さすがバーバリアンと言えよう。
ことがパーティー編成の有無に関わってきたなら、自分の領分ではないと、親爺はカウンターの後ろに下がっていった。
一抹の不安を覚えながら・・・
「改めて自己紹介するから、脳細胞に刻み付けて置きなさいよ。私はビビアン・ルージュ、炎のソーサラーでLVは7よ」
「ワタシはソニア、バーバリアンLv7だ」
「俺はスタッチ、ファイターLv6だ」
「俺はハスキー、レンジャーで同じくLV6だ」
他の3人を見渡してビビアンがつぶやいた。
「装備がしょぼいからLV相当の働きは期待できないわね」
図星を指されて3人が答えに詰まる。
「まあ、いいわ。壁さえいれば、この私の攻撃魔法で全て蹴散らしてあげるから。敵から奪えば、少しはマシになっていくでしょ」
この少女、年上相手に容赦がない。だが、現状では頼るしかない大人は、黙って聞いていた。
「アンタ達の失敗は、敵にできる術者がいるってわかってるのに、何の準備もしないで、ただ脳筋のごとく突入したことよ」
ビビアンは遠慮もなしに古傷をえぐってくる。
「魔法の探知、防御、カウンターは私がやるわ。3人の役目は敵の雑魚を寄せ付けないことだけよ。どう、それぐらいはできるんでしょ?」
何度か組んだことのあるソニアは、ビビアンの背伸びした物言いにも慣れていたが、ずけずけ言われたハスキーは、悔しさを堪えながら聞いていた。
ふと横を見ると、相棒のスタッチも拳を握り締めて耐えていた。
やはりお前も悔しいか、そう思って横顔を見ると、スタッチの口元には笑みが浮かんでいた。
「・・・こいつ、少女に詰られて喜んでやがる・・・」
この瞬間、二人の友情に微妙な距離が開いた。
「ソニアは装備は予備があるわね。そっちの二人には私が適当なのを買ってあげるから、感謝しないさい。いいわね、借金返すまでは死んだりしたら許さないわよ」
ビビアンの属性にツンデレが足された。
「さあ、豚男爵の丘に出発よ。男爵だろうとドルイドだろうと、私の魔法で焼豚にしてやるわ」
その頃のダンジョンでは
戦利品の分配で忙しかった。
「女戦士の胸当て誰か着れる?」
「さすがにミスリルチェインと交換する意味はないな」
「ギャギャ(騎乗するので重い鎧は難しいかと)」
「中量鎧だからそこまでは重くないけど、硬革鎧よりは重量はあるかな」
「オイラ達もパスっす」
高品質のブレストプレートなのに着れるメンバーがいない。そのうち重戦士も増やさないとね。
「バイキングシールドは誰が持つ?」
「スケルトン隊には上等すぎる、アップル殿のところにどうだ?」
「ギャギャ(私はトロル革鎧があるので、パイかティーに)」
「じゃあ二人で相談して決めといて」
「「ギャギャ(はい)」」
「またバトルアックスの不良在庫がでたよ」
「誰か斧使いにジョブチェンジしないっすか」
「ワタリは?」
「確かに斧を使う忍術もあるにはあるっすけど、クリティカルが出にくくなるっすよ」
「それは意味ないね」
「スケルトン部隊にカスタム・アックス隊を増やす意味もないしな」
武器が余ってるからといって、わざわざ特技つけてもね。弓兵みたいに特殊なのは別にして、盾を持つなら斧が剣に勝っているとこは無いんだよね。
そうか、斧使いの重戦士がいればいいのか・・・
脳裏に麦わらのブウが思い浮かんだけど、特に今、召喚する必要はないね。
戦士とレンジャーの装備はかなり品質が低下していた。剣と弓は量産するのに丁度良さそうな品質だったので、コアに分解してもらった。
変換リスト:武器
鋼鉄の長剣:鉄をさらに鍛えて作り上げた切れ味も耐久も上がった剣。威力は鉄の剣と同じだが。命中と耐久が上昇している。
威力7 耐久15 コスト20
樫の長弓: 丈夫な樫の木材で作った弓に、鹿の腱で弦を張ってある。丈夫さが取り得の汎用の長弓。
威力修正なし 耐久10 射程120m コスト10
矢(鉄の鏃):汎用の矢。 威力6 耐久1 射程修正なし コスト15(20本矢筒付き)
鋼鉄の長剣は盾兵の全員に、樫の長弓はロザリオと弓兵と隠密部隊に支給した。
「主殿、大盤振る舞いだな」
「長い間、しょぼい装備で苦労かけたからね」
「前回は扉の前で待機して終わってしまったから、次は新装備で武勲をあげてみせよう」
ロザリオ隊の士気が上昇したみたいだ。
骸骨なので表情は変わらないけどね。
「うらー」
DPの推移
現在値: 2159 DP
撃退:冒険者Lv6x2、Lv7x1 +605
変換:鋼鉄の剣x5 -100
変換:樫の長弓、鉄の矢x9 -225
残り 2439 DP




