小人の仕業
いつの間にか意識を手放していたらしい。
雨の中での重労働と、それから一時でも逃れられた安心感から、僕は小さなダンジョンのなかで眠っていた。
ふと気がつくと、耳元で誰かが何か話している。低い濁声の男性のようだ。
「おいおい、なっちゃいねえなあ。だから素人が首突っ込むとろくなことにならねえや。あとは俺らにまかせときな!」
「おい、野郎共。久しぶりの大仕事だ。ぬかるんじゃねえぞ!」
「「「へい!親方!!」」」
威勢のいい掛け声とともに周囲で沢山の何かが動き出したのが感じられる。もどかしくなりながら懸命に目をあけると、そこには12体ぐらいの小人達が、わらわらと土を掘り返していた。
小人たちは、それぞれ鶴嘴やスコップを持ち、頭には黄色い丸いヘルメットをかぶっている。何人かは猫車で掘り出した土を外に運び出していた。彼らは姿は小さくても、妖精としての能力なのか、みるみるうちにダンジョンを掘り進めていく。僕はおもわずつぶやいた。
「すごい!まるで夢みたいだ」
・・・・・
夢だった。
目が覚めると、そこは元の洞穴で、小人さんもいなかった。もちろん寝ているうちに広がってたりもしていなかった。
「だよね」 「ん?」
落ち込んでつぶやいた僕の独り言に、コアが返事をしてくれた。
それで思い出した。昨日は雨に濡れた麻袋を被ったまま寝てしまったから風邪を引くかも。
あわてて服を脱ごうとして、それがほぼ乾いているのに気がついた。しかも洞穴の中が暖かい。外を見ると、まだ暗いし雨も降り続いているみたいだ。
僕は両腕で抱きかかえていたコアに聞いてみた。
「コアが暖めてくれていたの?」 「ん」
光量を最低限にして、そのぶん発熱量をあげて洞穴内の温度を高くしてくれてたみたいだ。
「そうか、あのまま寝てたら凍死してたかも。ありがとう、コア」
「ん」
そのとき姫の得意げな声が、はるか遠くから聞こえた気がした。
「ダンジョンコアはダンジョンの維持・管理を司っていますの」
本格的なダンジョン操作を始める前に、まずは腹ごしらえをしとこう。
食料庫から転移してきたのは何故かじゃがいもの袋だけだったんだ。豚肉や黒パンは認可されなかったらしい。
なんだろう?食材と調理品の違いなんだろうか?まさかこの世界にはじゃがいもはあるけど、豚も麦も存在しないとかじゃないよね?
とにかく食料はじゃがいもしかないので、皮をむいて、芽をくり貫いて、厚切りにして茹でてみた。
包丁や鍋はどうしたって?全部軍曹におまかせです。雨で土を綺麗に洗って、拾った石でエッジを研いで包丁代わり。
盛り土で置き場をつくったら窪みに水をためて松明で加熱します。湯気がでてきたらじゃがいものスライスを投入して、数分まてばできあがりです。
熱々のうちにいただきます!
「うん、塩が欲しいね」 「・・」
「あと芯がまだ生だ」 「・・」
それでも暖かいものを食べられたので、少し元気がでてきました。
「コアも食べる?」 「んん」
だよね。
さて、人心地がついたのでダンジョン操作の考察を始めよう。
一応この崖に掘った洞穴はダンジョンとして認定されたみたいだ。高さ90cm、奥行き2mぐらいの小さいダンジョンだけど、コアの温度管理の能力が働く以上、他の操作もこの中でできるはずだよね。
まずはダンジョンポイントの確認からか。
「コア、DPは100のまま?」 「ん」
減ってないのは維持費がかからないわけだからありがたいけど、増えてないのは自然増加もしないってことか。まずは拡張からだな。
「コア、ダンジョンの拡張のコマンドは使用可能になってる?」 「んん」
「え、まじ?」 「ん」
まさかDPが足りない?いやいや最低限の拡張は5か10で出来るでしょう普通は。一部屋増やすのに100じゃ足りなかったら詰んでるって。
「コア、拡張ができないのはDPが足りないから?」 「んん」
よかった、そこまでハードじゃなかったよ。だとすると何か開放条件とかあるんだろうね。よし拡張は後回しにして、召喚を試してみよう。
「コア、現状で召喚できるモンスターは何かいる?」 「んん」
「え?まじ??」 「ん」
「それはどんな雑魚モンスターでも召喚に100DP以上使うってこと?」 「んん」
どういうことだろう?
「コア、モンスターを召喚できるようになるには何か条件が必要なの?」 「ん」
そうか、とにかく何から何までロックがかかってるんだ。それをはずさないと拡張も召喚もできないと。
・・・ハードだ。
気を取り直してロックの外し方を考えてみよう。
拡張はダンジョンの規模に比例して、出来ることが増えるはずだから、基準となる大きさまで掘ってみるしかないね。
チュートリアルコアルームが9mx9mx3mだったから、まずはそれくらいまで・・・ってすごい大変なんですけど。
召喚は逆に何をしたらロックが外れるのか見当がつかないよ。見たことがあるとか、戦ったことがあるとか、倒したことがあるではダメみたいだからなあ。
ぐるぐると思考の渦に巻き込まれていると、突然、コアが警報を発した。
「あ」
何か危険が迫ってきたことより、コアが「ん」以外の言葉を発したのに僕は驚いた。
「コアがしゃべった!」




