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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第5章 冒険者編
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起こさないでください

 ビスコ村の名物親爺が切り盛りする酒場「酔いどれモズクカニ」は、今日も大勢の冒険者や兵士達で活気に溢れていた。

 ただ1箇所、店の片隅のテーブル席にどんよりと座る男女3人組を除いては・・・


 「赤毛のソニアが音頭をとって、返り討ちに合うとは思わなかったぜ」

 酒場の親爺が3つのエールを差し入れして、話を聞こうとした。

 「面目ないね・・・」

 真っ赤な髪も、濡れネズミのようにペタンと張り付いて、意気消沈したソニアがエールをすすった。

 「ソニアが悪いわけじゃねえんだ、俺ら全員が油断した結果なんだよ・・・」

 スタッチが鎧下一丁で寒そうにエールを飲み干した。前回よりさらに貧相な格好になっている。

 「アラーム(警報)の呪文結界を素通りしたのか、無効化したのか・・・」

 レンジャーのハスキーは、自分の張った呪文結界が、役に立たなかったのがショックの様だ。もちろん装備はスタッチ同様にボロボロだ。


 「何があったか話して見ろよ。ヒントが掴めるかも知れないぜ」

 親爺の誘い水に乗って、3人がポツリポツリと語り始めた。

 「豚男爵の丘に着くまでは順調だったんだ・・・」



 ソニアを盾役に加えて3人になったパーティーは、目的の丘まで最短ルートで移動していた。

 二人の時は遭遇を避けて遠回りもしたが、隠密の苦手なソニアが居ることもあって、邪魔するモンスターは殲滅する方針で突き進む。3人の連携も上手くいき、グレイウルフの群れや、リザードマンの哨戒部隊なども蹴散らして来た。

 「あれが例の豚男爵の丘かい?」

 ソニアはここまで来たのは初めてのようで、物珍しそうに周囲を見渡している。

 「状況は変化なし・・いや、耕した畑に案山子が一つ立っているな・・」

 鷹の目で偵察するハスキーが、前回との相違点を報告してきた。

 「どういうことだ?やはりアイスオークのドルイドが畑作してるだけなのか?」

 てっきり畑は偽装で、おびき寄せた冒険者を幻術で捕獲する術者が存在すると思っていたスタッチがつぶやいた。

 「そのドルイドもどきと直接やりあったわけじゃないんだね?」

 「ああ、ドルイドとお供の獣とは剣は交えてない」

 「てっきり偽ドルイドだと思い込んでいたが、この様子だと本物の隠者の可能性もあるのか。すると本命は別にいるのか?」

 その疑問に答えられる者は3人の中にはいなかった。


 「どっちにしろ、このままドルイドもどきのねぐらを襲えば、前回と同じ罠に掛かるかも知れないんだろう?なら簡単だよ、別のルートから攻略すれば良いさ」

 ソニアはそう言って丘の中腹に開いた地下への階段を指さした。

 「確かに、俺達の狙いも最初は豚男爵の墓暴きだったしな」

 スタッチはソニアの意見に同意した。

 「ドルイドがグルの可能性もあるが、幻術使いに不意を打たれるよりはマシか・・・」

 慎重なハスキーは暫く悩んでいたが、結局、ソニアの案にうなづいた。


 「よし、準備はいいね」

 「「おう」」

 ヴァイキングシールドを構えてバトルアックスを握りながらソニアは先頭に立って歩き始めた。

 その後ろを、軽装備になってしまったが、武器だけは使い込んだ鋼鉄の剣を構えたスタッチが続く。

 最後尾は、丈夫だけが取り得の樫の長弓を保持したハスキーが、周囲を警戒しながら歩いていく。


 やがて3人は地下に降りる階段の開口部にたどりついた。

 「かなりの数の人族もしくは亜人が出入りした痕跡が残っている。獣の足跡もいくつかある」

 ハスキーが周囲の地面を調べて報告してきた。


 「まだ中にごっそり居そうかい?」

 「入った足跡と出た足跡を比べると、圧倒的に入った方が多いな」

 「冒険者だったら交渉で、亜人だったら追い払うしかねえな」


 正直に言って、同業者に先を越された可能性は低いと思う。ここに目を付けたのは俺達ぐらいのはずだ。

 亜人だとすると、アイスオーク、エルフ、リザードマンのどれが来ていてもおかしくないので、逆に絞りづらい。

 「とにかく相手を確認してから決めようじゃないか」

 そう言って階段を降りていくソニアの後を、二人は追いかけていった。


 「右に通路が分かれているね」

 ソニアは分岐を見つけて立ち止まった。ハスキーが調べると、狭い通路が先に繋がっているが、途中が廃材などで向こう側から封鎖されているという。

 廃材の撤去には時間がかかりそうなので、一旦は無視する。ただ、封鎖した向こう側に何者かがいるのは間違いないので、余裕ができたら探索することで意見が一致した。


 さらに階段を下ると、今度は左に分岐が現れた。

 「こっちの通路はしっかりした造りだね。古墳の一部かも知れないよ」

 確かに通路の大きさも揃っている。階段はまだ下に続いているが、先にこちらを確認しておいた方が良さそうだ。


 左の分岐の先には、予想外の光景が待っていた。

 綺麗な水を湛えた泉と、水辺に生い茂る草花、そして可憐な花に囲まれた野営跡があった。


 「ここで野営したのは多くて4人、焚き火を焚いて一晩過ごしたようだな」

 ハスキーが野営跡を調べた結果だった。

 丁寧に燃え残りを処理しているし、魚を焼いた串の残骸が土に深く刺し込まれていた。アイスオークやリザードマンだとここまで綺麗に片付けはしないだろう。

 「冒険者かエルフの一団がここで野営した可能性が高いな」

 ざっと部屋を調べたところ、出入り口は階段に繋がるさっきの通路だけのようだ。ここにアラーム(警戒)の呪文結界を張れば、安全に野営できそうではあった。

 「キャンプの候補地も見つかったことだし、もう少し先を調べておくよ」

 ソニアに比べて体力の落ちる二人は、連日の強行軍で疲労していたが、男として先に音を上げるわけにもいかず、黙って後に続いた。


 階段はやがて玄関ホールらしき部屋の前で終わっていた。どうやらここが豚男爵の墳墓で間違いないようだ。


 「遺跡があったのは嬉しいんだが、何も居ないのは予想外だね」

 部屋の奥には、重厚な石造りの両扉があるが、その先は間違いなく地下墓地かそれに類する遺跡であろう。この部屋にも戦いの傷跡が多数残されているが、その勝者も敗者も姿が見えない。


 「正直、ここに来るまでに術者と一戦交える予定だったんだけど、あてが外れたね」

 ソニアが残念そうにつぶやいた。

 遺跡の内部に篭られているとしたら、不案内な遺跡の探索に加えて、幻術使いの奇襲を警戒しないといけなくなる。できれば後顧の憂いは断っておきたかった。

 「キャンプして誘い出してみるかい?」

 二人の表情には疲れが見えるし、このまま遺跡に潜るより休憩を取った方が効率が良さそうだ。

 身包み剥がれて開拓村に逃げ帰ってから、1泊してすぐにリベンジに舞い戻ったスタッチとハスキーが反対するわけもなく、3人は泉の横の野営跡地に戻った。


 「アラーム(警戒)の呪文結界を、階段との交差点とこの部屋の通路出口の2箇所に張った」

 これで8時間以内に敵対生物が結界に足を踏み入れれば、寝た子も起こすベルの音が鳴り響く。3人は交代で見張りを立てることにして、最初の2時間半はソニアが起きている事になった。

 疲労困憊の二人を先に寝かせようと気遣ったのだ。

 ベンチの様に並んだ石に腰掛けて、小さな焚き火の番をしていたソニアだったが、2時間ほど過ぎた時点で急激な睡魔に襲われて意識を失ってしまった・・・


 そして気がつくと、3人揃って身包み剥がれて丘の麓に転がされていた。



 「それじゃあ、何が起きたのかもわからねえのか」

 「「「面目ない・・・」」」

 親爺のあきれ声に、3人はうな垂れるしかなかった。



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