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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第5章 冒険者編
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赤毛のバーバリアン

 ここはナビス湖畔にあるビスコ村。開拓村としては大きめの規模を誇っているが、村民は100人程度しか居ない。だが、それに倍する冒険者と、守備隊が駐屯している為に、北限の前線基地として活気がある。

 そんな開拓村に3つある酒場の一つ、「酔いどれモズクカニ」に馴染みの冒険者二人組がふらふらと入ってきた。

 まるで幽霊に出会ったような青白い顔をして、着の身着のままで武器も帯びていない。普段と違う二人に酒場の親爺が声を掛けた。


 「おい、お二人さん、湿気た顔してるが盗賊にでも身ぐるみ剥がされたのかい?」

 いつもなら冗談を返してくるはずの二人が、げっそりした顔つきで俯いてしまった。かなりの重症だ。

 親爺はゴブレットにエールを注ぐと、二人のテーブルに運んでいった。


 「こいつは俺のおごりだ、何があったか知らないが元気だせ」

 二人は黙ってエールを飲み干すと、ぼそっとつぶやく。

 「すまねえ、おやっさん・・・」

 「盗賊じゃないが、身ぐるみ剥がされちまった・・・」

 それを聞いて親爺の方が驚いた。

 この二人は、ノリで仕事を引き受けて無茶することはあるが、それをなんとかこなしてしまうぐらいには腕が立つ。それを殺さずに無力化して、装備だけ奪うほどの集団が存在するらしい。


 「相手は何人だった?」

 危険な部族なら守備隊と冒険者ギルドに報告すべきだ。そう考えて二人の重い口を割らせる。

 「たぶん、一人だ・・・」

 「たった一人にやられたのか?あれか、美人局つつもたせにでも会ったのか?」


 仲間とはぐれた女冒険者を保護したら、野営時に薬入りの酒を飲まされて、目が覚めたら荷物が無くなっているのは、たまに聞く話だ。

 この二人、仕事はできるが女に甘い。一番ありそうな話だと思った。

 だが二人は首を振る。


 「何にやられたのか俺らも良くわかってないんだ・・」

 「アイスオークのドルイドだと思ってたら、幻覚を掛けられていたらしい。正体も掴めないまま気絶させられた・・」

 「幻術使いか・・・どこら辺で出会ったんだ?」

 「豚男爵の古墳だ・・・」

 ここからかなり北に行った三日月湖の側だったか・・・最近他の噂を聞いたような・・・


 「おい、まさか冥底湖の魔女じゃないだろうな?」

 二人はお互いに顔を見合わせると、ブルブルと首を横に振った。

 「ありえねえよ、魔女に会って生き延びた奴の話を聞いたことがない・・」

 「俺らには財産でも、魔女にとってはガラクタだろうしな・・」

 失った装備を思い出して、再び二人は項垂れた。


 そこにゴブレット片手に赤毛の大女が割り込んできた。

 「おやおや、いつもは煩いぐらいに陽気な二人が、ずいぶんしょんぼりしてるじゃないか」

 彼女の名はソニア、この界隈では名前の売れた冒険者だ。酒場の親爺は、あとはソニアに任せることにしてカウンターの奥に戻っていった。


 赤毛のソニアは、落ち込む二人を励ますように話しかけた。

 「冒険者なら毎度毎度うまく行くことなんてないさ。赤字になる方が多いかも知れないね。だけどそこで泣き寝入りしたら負け犬さ」

 二人の目を覗き込む様に語りかける。


 「失敗は取り返せる。昔の英雄も言ってたろ、やられたら倍返しだ!ってね」

 ソニアは二人に語り続ける。

 「装備は盗られても、それが全財産ってわけでもないんだろ?ギルドに預けてある予備の武具でも無いよりマシさ。ちょっと前まではそれで稼いでたんだ、違うかい?」

 二人の目に力強さが戻ってきた。


 「アタシが手を貸してやるから、リベンジとしゃれこもうじゃないか」

 戦士がソニアを見つめながら言った。

 「だが、俺の鎧は2段階は防御力が下がるから前衛が厳しくなる」

 「だからアタシが盾を引き受けるさ。スタッチは攻撃重視で遊撃してくれれば良い」

 「俺は遠距離支援か」

 「ハスキーは弓が得意なんだから、前衛、中衛を壁にして敵の術者を狙い撃ちして欲しいね」

 そうソニアに言われると、やれそうな気になった二人だった。

 「だが、俺達のリベンジを手伝って、ソニアは何か得するのか?」

 何度かパーティーは組んだことはあったが、ここまで親身になってくれるほど親しかった記憶もない。


 「おせっかいだとは思うけどさ、あんたらが落ち込んでると、酒場の雰囲気が寂しくなるんだよ。酒は美味しく飲みたいからね」

 ソニアは、少し照れたように、理由になるのかならないのか微妙な言い訳をした。


 「「女バーバリアンがデレても萌えないぞ」」


 ハスキー&スタッチの息の合ったつっこみに、周囲の客も心の中で頷いたが、同時に二人に対しても心の中でつっこみを入れた。

 「口にだしちゃダメだろ」


 その直後、怒号と悲鳴が「酔いどれモズクカニ」の店内に響き渡ったが、店主はいつもの事と笑いながらゴブレットを磨いていた。




 その頃のダンジョンでは


 「二人で撃退ポイントが360に、中級装備が2セットと硬貨に宝石に魔法薬か、大漁だね」

 「うまー」

 キャッチャーで捕獲した冒険者の装備全てを没収したら、予想以上の収入になった。

 二人でこの辺境まで潜入するだけあって、Lvも高いし、装備にもお金がかかっている。

 「この剣は黒鋼製みたいっす」

 「ギャギャ(この革鎧もトロルの革が使ってあるみたいです)」

 「この盾は鋼鉄製のカイトシールドか、紋章はないが中々の業物と見た」

 「あ、アタいはこの弓もらおっと。木目の綺麗な白木の長弓なんてカッコいいじゃん、ジャー」

 「こら、ベニジャ、勝手に自分の物にしてはいかん、ジャ。マスター様、6本の魔法薬には全て共通語で書かれたラベルが貼ってありました。ヒーリングが3本、毒消しが2本、冷気耐性が1本です、ジャー」

 「お金は全部で金貨130枚分あっただ。宝石は4つで金貨200枚分の価値があっけど、換金すっと嵩張るから、そのまま取引に使うだよ」

 それ以外にも、丈夫で多機能なバックパックや、その中の冒険者キット、解体ナイフにマチェットやバールが手に入った。

 バールは素敵だよね。道具にしても凶器にしても活躍してくれる。

 武器や防具は分解して大量複製しようかと考えたんだけど、コストが高いとリストのまま死蔵する可能性もあるので、一品物は希望者に配布することにした。

 皆、それぞれお気に入りの武具があったようで、喜んでもらえた。


 「そういえば、あの冒険者達は無事に人里まで戻れたっすかね?」

 装備品は全部没収したから、食料も武器もなしで戻るはめになったはずだ。

 「彼らの保存食の残りから計算すると、人里までは2日から3日の距離だね。野営無しで強行軍すればなんとか届いたんじゃないかな」

 片方はレンジャーだったし、飲料水は湖で取れるから問題ないはず。

 「ギャギャ(戻ってくるとしたら明後日以降ですね)」

 「心が折れてないといいがな」

 「本人達は来なくても、噂を聞きつけて他の冒険者が来てくれれば良いさ」

 そうだ、撃退ポイントも入ったし、例のトラップを実装しておこう。


 「コア、癒しの泉の部屋を奥に少し拡張して、そこに眠りの花畑を設置して」

 「ん」

 「隠密チームで眠りの花畑の中心に、キャンプした焚き火の跡を偽装しておいて」

 「了解っす」

 「アップルチームは墳墓と製作室を繋ぐ通路を念入りに封鎖しておいて」

 「ギャギャ」

 「ケンチームは交代で墳墓とキャッチャーの出入り口を重点的に監視して」

 「バウバウ」

 「しばらくは皆も持ち場を長時間あけないようにね」

 「「「らじゃーー」」」 


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