谷に住む北欧の妖精
「農耕の得意な種族を誰か知ってる?」
ライ麦のオートミールで作ったスタミナ丼は皆には好評だったけど、僕は納得していない。あれが米だったらもっと美味しくなったはずなんだ。あと醤油があれが完璧なんだけど、それが難しいのはわかってる。
なので地道に農耕から始めようかと思いたったので、得意な種族を眷属化したい。
「前の部族は狩猟と採集だけだったっす」
スノーゴブリンは不得意と。
「エルフは森の恵みがあるから、自力で畑を耕すことはしなかったな」
エルフは耕作の経験無しと。
「この周辺の部族は皆、漁と猟で生きておりました、ジャー」
リザードマンも不得意と。
「やっぱし、畑を耕すのは人族が得意だと思うよ、アタいは、ジャー」
だよね、でも人族って眷属化できるのかな?
「・・・むり」
やっぱり無理かー、でも人族だけ別枠なのは、それはそれで不思議なんだけど。
「れべる」
あーー、確かに人族はランクじゃなくてレベル表記だね。ランクが上がらないから進化もしないのか。
レベルが上がれば強くはなれるけど、種族は人族のままみたいだね。
「主殿、種族ではなくクラスで適任がいるだろう」
「ドルイドのこと?確かに大地や植物には詳しそうだけど、アイスオークと喧嘩しない?」
「侵攻してきた連中だとわだかまりもあるが、召喚された眷属なら戦友になれると思うぞ。まあ「女騎士ブヒブヒ」とか擦り寄ってきたら、軍隊式の性格矯正を施してやるがな」
ロザリオがニヤリと笑った。
「じゃあ、それでいこう。コア、ここにアイスオーク・ドルイドを技能:農耕でカスタムして召喚して」
「らじゃ」
目の前の床に魔法陣が浮かび上がると、その中心にアイスオークが姿を現した。
「ようこそ、僕らのダンジョンへ、君の名前はノーミンだ」
召喚されたアイスオークは知性のある瞳で僕らを見渡すと、一礼してきた。
「おっす、オラ、アイスオークのノーミンだ」
「「なんか、すごいの来た」」
「さっそくで悪いけど、この周辺で農耕するとしたら、どこで何を栽培すれば良いかな?」
「そいつは、まずこの辺りの土地っさ検分してからだなあ」
ダンジョンを見て回りたいという希望を叶えて、ついでに護衛役としてケンとアグーをつけた。
しばらく周囲の観察をしていたノーミンが戻ってきて、報告してくれた。
「どこも土は悪くねえ。そんでもやっぱ今あるライ麦の畑さ広げるのが一番だなあ」
あーー、ライ麦畑ね・・・あれは、まあ、うん、でも問題ないっちゃないか。
「広げるとしたらやっぱりライ麦がいいのかな?できれば違う穀物か果樹が欲しいんだけど」
「食べる分さ困らねえなら、ちょこっと毛色の違う穀物さあ植えてみっか。うめえ具合にライ麦食いに来た鳥っ子が運んでくれた種子が芽を出しちょるで、移植さして殖やすのも良かんべさ」
共通語を話しているはずなのに理解ができなかった。
「んだ」
コアの翻訳でやっと意味が通った。
「じゃあ、それでよろしくね」
畑を耕すのに人手が要りそうだったので、やんまー・こまつチームを増援として追加した。
ノーミンは、ライ麦畑の隣に耕作予定地を確保すると、やんまー達に声を掛けた。
「そしたら、こっからあそこまで耕してくんろ」
ゴーサインがでると、やんまー達は先を争って地面を掘り返し始めた。グレイブディガー7頭とタスカー1頭は、瞬く間に2面分の畑を耕してしまった。
「はあ、すごいもんだな、あっという間に出来あがっちまっただよ。さすがだなや」
メンバーの土木作業の素早さに驚くノーミンであった。
だが、そんな彼らを遠くから観察する2人の冒険者がいた。
「相棒、見えるか?」
「ああ、ホーク・アイの呪文を使ってやっとってとこだがな」
ビスコ村の酒場で話をしていた2人組だった。
「亜人と獣が5・6匹か?」
「アイスオークらしいのが1体と、それに従っている牙猪が1頭、穴熊が7頭かな」
「獣の数が多いな、テイマーかな?」
「ドルイドの様にも見えるから、召喚獣かもな」
「LVが高いドルイドだとするとやっかいだな」
彼らの目的は噂の真偽を確かめつつ、あわよくば墳墓の盗掘を狙っていた。
まったくの空振りもありえたので、今回は他の冒険者には声を掛けずに2人だけで探索するこにしていた。そのために極力、移動途中では戦闘を回避してここまでやってきた。
普段なら活発に行動しているリザードマン達が、なぜか大人しかったのも有利に働いて、無事に目標の丘にたどり着けたが、そこで奇妙な1団を発見したのであった。
「どうする相棒、殺るか?」
前衛の戦士風の男が、隣で鷹の目の呪文で偵察している相方に尋ねた。
「もう少し様子を見よう。仲間がいるとやっかいだ」
弓を背にしたレンジャー風の男が答えた。
やがてアイスオークと獣達は、麦畑の奥の洞窟に姿を消した。
5分ほど待って、他に何も出入りしないのを確認すると、2人の冒険者は、今、耕されたばかりの畑に近づいていった。
「あのアイスオークは、ここで1人で暮らしているのかな?」
戦士が畑の土を蹴りながら疑問を口にした。
「ドルイドの隠者なら、有り得るな。その場合でもお供の獣はわんさかいるけどな」
彼もレンジャーなので、ドルイドの能力には詳しい。牙猪を複数けし掛けられて、後方から高LVの攻撃呪文で援護されるとやっかいだった。
「奇襲は無理か」
「耳や鼻の利くのが警戒してるだろうからな」
戦士は少し考えたが、突撃以外の選択支が思い浮かばなかった。
「囲まれると数で押し切られる。戦うならまだ洞窟の中が良さそうだ」
「無視する手もあるぞ」
2人でも勝ち目はあると思うが、今回の目的はアイスオークの討伐ではない。穏便に迂回する選択も示唆してみた。
だが、戦士はやる気になっていた。
「墳墓に潜っている最中に後ろから襲われると危険だ。ここは排除しておこうぜ、相棒」
確かにそう言われてみれば納得せざるをえない。幸いな事に、道中で戦闘がほぼ無かったので、用意した魔法薬などの備品も手付かずで残っている。
「わかった、行こう」
二人は慎重にライ麦畑の中に分け入っていった。
「きゃっち」
「え?キャッチャーが冒険者を2人捕まえたって?」
「げっつ」
とうとう冒険者がやってきたのか。いつかは来ると思っていたけど、思ったよりは早かったのかな。
しかしダンジョン初の冒険者をキャッチャーで撃退とか、どうなんだろうか。
「あ、もしかして失神してるだけで、止め刺してない?」
「ん」
そうか、人族は吸収してもリストに載らないだろうし、説得して眷族化もできないし、どうしようかな。
「よし、身包み剥いで放り出そう」
「ぽいっ」
「主殿、いいのか?吸収すればDPにはなるのだろう?」
「彼らには口コミで噂を広めてもらおうと思って」
「なるほどな、本格的にダンジョンとして動き出すのだな」
「まあ、彼らがここをダンジョンとして報告してくれるかは怪しいけど、何かあるらしいってのは人里に伝わると思うんだよね」
「その真偽を確かめにより多くの冒険者がやってくるな」
「やっぱりダンジョンには、攻略に来る冒険者が付き物だし」
「だが主殿は、簡単に攻略させる気はなさそうだな」
「もちろんだよ、優秀な眷族が守ってくれているんだからね」
ロザリオと僕は、悪い笑みを浮かべて頷きあった。
DPの推移
現在値: 2719 DP
召喚:アイスオーク・ドルイド・カスタム -375* (修正前はLv6で計算していた)
撃退:冒険者LV6x2 +360
残り 2704 DP




