風呂は命の洗濯
「魔女の占い館だあ?お前が魔女か?ジャー」
訝しげに若頭が尋問する。
「私はただの露払いだ。我が主は忙しいのでな」
銀色の骸骨は、ハリネズミの毛づくろいをしながら、悠々と答えた。
「ここに住んでいたリザードマンの連中を知らねえか?ジャー」
どう見ても怪しいが、会話ができるなら情報を引き出そうとダメ元で聞いてみた。
「彼らの行方を占って欲しいのか?」
お前らがどうこうしたんじゃねえのかって聞いたつもりだったが、相手は尋ね人と解釈したらしい。
なんと答えるか聞いてみるのも一興か・・・
「ああ、奴らがどうなったか占ってくれ、ジャー」
「よかろう、しばし待て」
そう言って銀色骸骨は目の前の大釜に薪をくべて火力を上げた。
ぐつぐつと煮えたぎる大釜からは、異臭が漂い始める。
「おい、まだ占えないのか、ジャー」
しびれを切らした若頭が怒鳴ると、銀色骸骨が答えた。
「せっかちだな、だがもうよかろう」
そうつぶやいた銀色骸骨は、骨だけの指先を大釜に向けた。
「そこに彼らの運命が姿を現すだろう」
「そこにって、大釜が茹だってるだけ・・・・おい、おい、おい、嘘だろう、ジャジャジャー」
若頭が目にしたのは、煮えたぎる大釜の中から、骸骨の腕が突き出したからだ。
それは大釜の縁に手を掛けると、力を込めて身体を引き上げた。全身から湯気を立てながら立ち上がる骸骨に、配下の猛者達も思わず後ずさる。
「ば、馬鹿言ってんじゃねえ、これが奴らの成れの果てなら、お前らが殺ったんだろうが!ジャー」
火に弱いスケルトンがなぜ大釜の中で動けるのかとか、大釜の中で茹でられている肉は何の肉なんだとか、若頭の思考はパニック寸前だった。
「心外だな、我らは言われた通りに占っただけだというのに」
意に介さずといった風情で銀色の骸骨、いや魔女の使徒が話かけてきた。いつの間にか部屋の隅にいた骸骨戦士2体が、後ろに控えている。
「さて、占いの代価をいただこうか」
ハリネズミを足元に降ろすと、ゆっくりと立ち上がりながら魔女の使徒が威圧してきた
「代価がいるとか聞いてねえぞ、ジャー」
嫌な予感がして、無理だとわかっているのに抗弁してみる。
「占いがタダの訳が無かろう。代価を確認せずに頼んだのはお前だ」
ああ、そうだな。お為ごかしに品物を渡して、後で代金をせびるなんて、俺らの稼業の常套手段だ。それにまんまと引っかかるなんて、俺様もヤキが回ったらしい。
「何が欲しいんだよ、ジャー」
聞かなきゃ良かった。魔女が求めるものなんてロクなもんじゃないのはわかりきっていた。
魔女の使徒が、すっと腕を上げると、俺様の後ろの配下の一人を指さした。
「占い1つにつき、魂を1ついただこう」
その時、俺様は一瞬、ほっとしたんだ。自分の魂と指定されなかったことに。配下の一人で済むことならってな。
そしてその考えは後ろの連中にも伝わっちまった。特に指を差されたと思い込んだ連中は、死神に取り憑かれた様な顔つきになっちまった。
ここまで追い詰められたら、殺るしかねえ。例え魔女の使徒だろうが、本人でなきゃ何とかなる、いや、何とかするしか道がねえ。そして御大が出張ってくる前にトンズラする。
心を決めた若頭が、配下に突撃の号令を出そうと身構えたその時、魔女の使徒が言った。
「気をつけろよ、既に無限鏡の回廊は開かれている。迂闊に飛び込むと戻れなくなるぞ」
その言葉に視線を誘導された配下の兵隊2人が、左右に据え付けられた鏡の奥を覗き込んでしまう。
「馬鹿野郎、罠だ、見るんじゃねえ!ジャー」
叫んだものの、既に鏡を見てしまった二人は、恐怖に駆られて絶叫すると、後ろにいる仲間に斬りかかっていった。
「クソッタレめ、こうやって偵察部隊の兵隊を削ってやがったな、ジャー」
「おっと、それ以上前に出ると、鏡の回廊を横切る事になるぞ、いいのか?」
ちっ、ブラフとわかっていても突破しづらいぜ。だが弾除けに使える兵隊は同士打ちの真っ最中だ、俺様が行くしかねえってことだ。
「鏡を覗き込まなきゃ効かねえのは、お見通しなんだよ!ジャジャー」
思い切って前に進めば、合わせ鏡は何事もなく通過できた。
「ほら、見やがれ!何ともねえ・・・ぬおおお」
若頭は床に掘られた穴に下半身まで埋もれていた。
「うむ、愚か者には落とし穴が似合いだな。親方達に突貫工事で掘ってもらったが、役に立ったぞ」
ロザリオはニヤリと笑うと、ミスリルソードを振りかぶった。
「占いの代価、貰い受ける」
狂乱して襲いかかってきた仲間2人を、残りの3人が制止しようと始まった同士打ちだったが、正常な3人が気後れしているうちに、あっさり一人が斬り殺された。
事此処に至って、本気をだした2人だったが、狂乱した元仲間を倒した時には、もう一人も瀕死だった。 すがるように若頭を見ると、そこには四方から槍や剣を突き立てられて、半分、地面に埋まっている亡骸だけがあった。
銀色の骸骨が、何か囁くと、若頭の遺体が、徐々に徐々に地面に吸い込まれていく。
「逃げろ、魔女に食われるぞ・・・」
瀕死の仲間が血を吐きながら叫んだ。
「お前も一緒に・・・」
抱き起こそうとしたが、力なく振り払われた。
「俺はもうダメだ、シャーク・ファングを2発くらってる。助からねえ・・」
「凍結湖の鮫」部族の特技シャーク・ファングは、剣による傷から出血を強いる継続ダメージ系だ。
時間をかけて血止めをするか、治癒の呪文か、ポーションでも飲まない限り、徐々に体力を失っていく。
「頭に、若の最期を伝えるんだ、いいな・・・いけ・・」
1人になった兵隊は、一目散に玄関広間へと駆け出した。彼の使命は魔女の部屋で起きた事を広間にいる者たちに伝えることだ。
後方からはカタカタという骸骨が歩く足音が響いてくる。通路の床に散乱した武器に足をとられたりしながら、広間に通じる扉を押し開けた。
その瞬間、両足に激痛が走った気がした。
見下ろすと、矢が2本突き立っている。通路の後方には弓をつがえた骸骨戦士が並んでいた。
「助けてくれ、若頭は魔女に魂を食われて死んじまった。仲間も死霊に取り付かれて、生き残ったのは俺だけだ。奴らが来る、助けてくれ、ジャー」
だが、魔女の怒りを買うことを恐れて、誰一人手を貸そうとする者はいなかった。
「悪いけど、魔女を怒らせたのは、若頭とお前さん方だ。とばっちりは御免ですよ」
自分が助っ人を頼んで、「下弦の弓月」を攻めた事は棚にあげて、すっかり若頭を悪者にしたてあげてしまったトロンジャだった。
「さあ、巻き添えを食う前に撤退だよ、みんな付いておいで」
「「へい、姐さん、ジャー」」
血を流しながら這いずる仲間を見捨てて、トロンジャとその手下達は、本拠地から逃げるように去っていった。
彼らの姿が、完全に見えなくなった頃、
「はい、皆、お疲れ様」
僕の掛け声で広間に倒れこんだリザードマンが立ち上がった。
「どうやら、ばれなかったみたいです、ジャー」
「なかなかの名演技だったよ、真に迫ってた」
広間に逃げ込んで若頭の最後を告げたのは、僕らの用意した偽の伝令だったんだ。
1人逃がしても、こちらの思うとおりに報告してくれない可能性もあったので、5人目もさっくり暗殺して、「下弦の弓月」の演技上手の兵隊さんにすり替わってもらった。
「バーンもお疲れ様、大釜の中は暑かったでしょ」
「ん」 「カタカタ」
彼はスケルトンファイターの耐熱カスタム「バーン」君だ。出番がくるまで、じっと茹だった大釜の中で体育座りをしていてくれた。
落とし穴はロザリオにせがまれたんだけど、魔女のコンセプトに合わないから却下した。そしたら親方達に頼んで手掘りしたみたいだ。深さ1mぐらいしかない、ただの落とし穴だけど、混乱しかけた若頭には有効だったね。
正面から戦えば難敵だったろうけど、下半身を封じてタコ殴りしたから、こちらに損害はでなかった。
結局、女族長は逃がしちゃったけど、しばらくは侵攻は無いだろうから良しとしよう。
「さあ、お腹も空いたし、宴会にしよう」
「キュキュ!」 「ぺこー」 「「ジャー!」」
DPの推移
現在値: 1454 DP
吸収:フロスト・リザードマンx16 +720
吸収:フロストリザードマン・エリートx1 +80
吸収:フロストリザードマン・キャプテンx1 +125
撃退:フロストリザードマンx41 +1845
撃退:フロストリザードマン・エリートx5 +400
撃退:フロストリザードマン・キャプテンx1 +125
撃退:フロストリザードマン・チーフx1 +245
残り 4994 DP
召喚リスト その41
フロストリザードマン・キャプテン:凍結蜥蜴人・軍隊長
種族:亜人 召喚ランク5 召喚コスト250
HP38 MP13 攻撃7(+武器) 防御5(+防具)
技能:剣、冷気耐性、半水棲、部隊指揮、軍隊指揮
特技:シャーク・ファング(鮫牙)
備考:鮫牙 使用MP2 治療を受けるまで継続ダメージ1(出血)




