延長は30分千円
少し時間が遡る。
僕らは近隣の部族に、禁忌の地と認識してもらう為の偽装工作を、突貫工事で進めていた。
「ハクジャ、獣の頭蓋骨とか保存してない?」
「たまに狩った猪やヘラジカの骨は加工する為に大事に保管しておりますが、頭蓋骨は探してみませんと、ジャー」
「あるだけ欲しいから、よろしくね」
「承りました、ジャー」
その間に、メインの罠を張ろうかな。
「コア、中央通路の壁に混乱の壁模様を設置して」 「ん」
普通は9mx9mx3mの部屋の壁に設置して、部屋の中にいると不安が募ってきて混乱するタイプの罠なんだろうけど、今回はこれを通路の壁に設置する。
慎重に探索しながら進めば、壁模様の影響を受けるには十分な時間が掛かるはずだ。ただし、通路の壁だけに奇妙な文様が描かれていると、警戒されるだろうから、玄関広間の壁にも偽物の文様を描いておく。
「この偽装工作は、親方チームとアズサに頼むね」
「キュキュ」 「ギャギャ(はい)」
親方達は張り切って壁に引っかき傷や穴を開けている。アズサは血抜きした鮭の生血をつかって、壁に血文字を描いていた。
「コア、中央通路の3番扉に、触れると幻覚(部屋の中に骸骨戦士)を設置」 「ん」
「さらに6番扉の部屋に、混乱ガスの罠を設置」 「ん」
そこにハクジャが頭蓋骨を4つほど持ってきてくれた。
「こんなもので宜しいですか?ジャジャ」
「上等、上等、そしたら2つを杭に刺して入り口の両側に立てておいて」
「なるほど、警告の代わりですな、ジャー」
「ちゃんと警告もでるようにするよ。コア、入り口に杭が立ったら、両方の頭蓋骨に、触れたら幻覚(紫色の煙に浮かぶ頭蓋骨)を設置」 「・・・ん」
「親方、広間の壁画が完成したら、7番扉の部屋の天井に屋根裏部屋のスペース作っておいて」
「ん」 「キュキュキュ」 「ん?」
広間の壁画がまだ満足いかないって?渾身の傑作を作るわけじゃないんだから、適当な所で切り上げてよ。
6番部屋の向い部屋にあたる7番には、隠密に忍んでもらって、6番のガスを吸って混乱した敵を後ろから奇襲してもらう予定だ。瞬殺できれば、死体はコアが吸収して、痕跡を残さないで恐怖心を煽ることができるだろう。その際に隠密の隠れ場所として7番部屋に屋根裏部屋が必要なんだ。
リザードマンの本拠地の特性として、屋根は枝を組んで木の葉などで覆った造りだから、そこに何かが隠れているとは思わないはずだ。
このフィッシュボーンだけは、尻尾の辺りは完全に丘をくり貫いた造りなので、天井にも土の部分が存在するからこそのデッドスペース活用になる。
最後に、その尻尾の部分にあたる族長の部屋の改装に着手しよう。
ここは魔女の部屋になる予定だ。中央通路の混乱の壁模様で、できるだけ戦力を削って、最後の大物を呼び込んで止めを刺す為の仕掛けを施す。
ただし、物理的にタコ殴りしただけではダメで、できれば恐怖心から何人かが逃げ出したあとで、大物は撃破というのが理想かな。
まあ、逃げ帰って噂を広めてくれるのは、後詰の兵隊でもいいから、奥まで来たのは全滅でも悪くはない。そこらへんは臨機応変でいこう。
なので族長の部屋を改装する事を皆に伝えたら、混沌の坩堝と化した。
まず、コアが部屋の中央に、でかい大釜を設置した。
「どろりぃ」
魔女といったら大釜らしい。しかもまた由緒正しいアンティークを選んできた。
設置リスト:錬金・製薬
魔女の大釜(北欧レプリカ):北欧の嵐の主神が戦の趨勢を占ってもらったという魔女の使っていた大釜のレプリカ。錬金や製薬に微修整が付加される。175 DP
単なる小道具なのにえらく高くついたような気がする。まあ後々使うかもしれないからいいけどさ。
次にハクジャにもらった頭蓋骨の残りを、壁にトロフィーのように飾りつける。
するとそれに対抗するかのように、アサマとワタリが般若と鉄仮面を持ち込んできた。どうやらロザリオの仮面品評会で落選したのが腑に落ちないらしい。壁に飾って出来映えを競っているようだ。
さらにそこにベニジャと若い衆が参戦してくる。
「下弦の弓月」には工芸が得意な者が多かったらしく、亀の甲羅から短弓が削りだせて一人前という仕来りがあるらしい。若い衆が器用に、亀の甲羅の端材から、呪術師が使いそうな見事な仮面を彫り出してみせた。
ベニジャは・・・お約束で、手先が不器用で、木の破片に穴を3つ開けて仮面と言い張った。
「穴が3つ三角に並べば人の顔って、心霊写真じゃないんだから」
それでも薄暗い部屋の壁に掛けると、大釜の火が揺らめいて、それらしく見えるから不思議だ。作った本人が一番怖がっていたけど。
あとは一番効果の確実な鏡の罠を設置する。
これは設置場所を決めると、そこに適切なサイズの鏡ごと罠が出現するらしい。魔女の部屋の入り口の両脇に、向かい合わせに設置してみた。すると等身大のアンティークな姿見が2つ現れて、上手い具合に合わせ鏡を形作った。
こっちの世界にも、合わせ鏡の伝説はあるそうで、無限の鏡の連なりを覗くと魂が吸い込まれると言い伝えられているらしい。その伝説を知っていれば、この鏡を無視するのは難しいに違いない。
信じていれば間を通り抜けるのに躊躇するし、信じていなければ、無理にでも中を覗き込もうとするはずだ。そこを仕留める。
魔女もしくは魔女の使いを誰が演じるかで少し揉めたけど、ハクジャの意見でロザリオに決まった。
なんでも有名な魔女の伝説では、骸骨の戦士を操る人物がいるそうだ。なので護衛として2体のスケルトンファイターを両手槍カスタムで召喚して長柄の武器を持たせて立たせてみた。
ロザリオはなぜか大釜の前に胡坐をかいて座り込み、親方の毛繕いを始めた。
「悪役を演じるなら、こうでなくてはな」
いや、それ白い猫だったような・・・
「あとは無能者を落とす落とし穴が必要か・・・」
トリップしているロザリオはそっとしておこう・・・
最後にスケルトンファイターを1体、熱耐性カスタムで召喚して、ある場所に密かに配置して準備を終了した。
改めて部屋の中を見渡すと、その混沌具合に目眩がしてきた。
これはあれだね、首都圏の繁華街にある基本料金3千円、延長は30分千円の魔女の占い館だ。
ただし占いの結果はすべて「大凶」だけどね。
DPの推移
現在値: 2979 DP
設置罠:触れると幻覚x3 -150
設置罠:混乱のガスx1 -150
設置罠:混乱の壁模様x1 -250
設置:大釜 -175
設置罠:鏡を覗くと混乱x2 -600
召喚:スケルトンファイター・カスタムx2 -120* (長柄武器の技能がなかったのでカスタム)
召喚:スケルトンファイター・カスタムx1 -60
変換:ロングスピアx2 -20*
残り 1454 DP




