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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第4章 リザードマン編
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基本は1時間3千円

 「なにか嫌な雰囲気だねえ」

 最初に異変に気がついたのはトロンジャだった。

 「上は諦めて放棄したんじゃねえのか?」

 若頭は初めて見るので、寂れてるとしか思わなかった。

 「どこがどうってわけじゃないんですけどね、ちょっとお前たち、3人ぐらい若いの走らせな」

 女族長の指示を受けて、物見が3人放たれた。

 

 「姐さん、てえへんだ、入口にやばい物がありやすぜ、ジャー」

 「やばいだけじゃ分からないよ、はっきりお言い」

 「へい、入口の両脇に杭に刺さった頭蓋骨が立ってやす、ジャ」

 「・・・・・」

 いきなり黙り込む女族長に、訝しげに若頭が尋ねた。

 「下弦の爺さんにしてはやり口があざといな。例の助っ人ってやつかい?ジャー」

 「ち、違いますよ、きっとあの小娘の嫌がらせに決まってます」

 早口にまくし立てるトロンジャは、かなり動揺しているようだ。

 「敵に呪術師がいるとやっかいだが、そんな話はねえんだろ?」

 トロンジャは若頭には死霊使いのことは話していなかった。魔女の話になれば援助を断られる可能性があったからだ。

 「ええ、ええ、呪術師がいるなんて話はこれっぽっちもありませんよ」

 もっと厄介なのがいるかも知れないとは思ったが、口には出さないトロンジャであった。

 「なら虚仮威しは無視して、先に進むぜ、ジャー」

 そういって若頭は入口の頭蓋骨をポンと叩いた。


 「「あっ!」」

 トロンジャとその手下が一斉に声をあげた。

 それにびびった若頭が、ギョっとして振り向く。

 その背後に紫色に立ち上る、不吉な煙と、その中に浮かび上がって睨みつける頭蓋骨の姿が、若頭以外の全員にはっきり見えた。

 「なんだお前たちまで、死神でも見たような顔つきしやがって」

 唖然とする手下を叱咤する若頭だったが、配下の士気が著しく落ちているのには気がついた。

 「三日月の槍」の連中など、顔面蒼白だ。

 「これから出入りだっていうのに、湿気た面してるんじゃねえぞ、おら、ジャー」

 無理やり、配下の者を奥へと進ませた。


 最初の広間は荒れ果てていた。床も壁も乱雑に掘り返されており、あちこちに引っかき傷や血糊で描いた文字が書きなぐられている。

 「こりゃあ、ひでえな。もう下弦の爺さんは生きてねえな、ジャー」

 あの厳格で配下をきっちり統率していた老族長が、本拠地をこんな状態で放置するわけがない。死んだあとに何者かが入り込んで荒らしたのか、例の助っ人とやらが本性を現して乗っ取ったのだろう。

 「お前ら、先を見てこい、ジャー」

 すっかり怯えて使い物にならなくなった「三日月の槍」の手下は放って置いて、若頭は自分の配下を奥の通路の偵察に送り込んだ。


 魚の骨で例えれば背骨にあたる中央通路の壁も、無数の傷や血文字で埋め尽くされていた。

 不気味な通路を、左右の小部屋を確認しながらゆっくりと偵察していくと、4つ目の小部屋で骸骨戦士が襲ってきた。あわてて報告に戻って、増援を連れてその部屋を探索するが、なぜか何もいなかった。

 「びびって物陰を見間違えたんだろうぜ、ジャー」

 「そんな、確かにいたんです、怖ろしい姿をした骸骨の戦士が、ジャジャ」

 懸命に訴える「凍結湖の鮫」の兵隊を遠目に見ながら、「三日月の槍」の手下達は、こそこそと噂話をしていた。

 「やっぱり魔女の仕業だ、ジャー」

 「警告されてるうちに逃げたほうが良い、ジャジャ」

 「もう手遅れかも、ジャー」

 最初の広間から先へは、魔女の呪いを恐れて誰も進もうとはしなかった。トロンジャさえ、

 「若頭はもう魔女に印をつけられちまったよ。くわばらくわばら」

 などとつぶやいて側に寄ろうとしなかった。


 周囲がなんとなく自分を忌避しているように感じる若頭は、腹をたてて配下に厳命した。

 「いいか、泣く子も黙る「凍結湖の鮫」の一員ならば、影に怯えてちんたらするんじゃねえ!次は何かに出会ったら、必ず仕留めて正体を暴け、わかったか!ジャー」

 「へいっ!ジャー」

 腕に自信のある4人がチームを組んで、強行偵察を行うことになった。

 だが、5つ目の部屋の扉を開けた瞬間、先頭の2人が奇声をあげながら、後衛の2人に襲いかかってきた。突然のことに驚いた2人は、咄嗟に応戦するが、どこからか飛来する短弓に削られて、倒れてしまう。

 そして仲間を襲った2人は、今度は同士打ちを始めると、すぐに相打ちで倒れてしまった。

 通路の先から戦闘の音が聞こえたので、すぐに増援をだしたが、そこには散乱する武器防具と、激しい戦闘の痕跡が残されていたが、4人の姿は消えうせていた。


 「馬鹿野郎、どっかに引きずり込まれただけだ、探せ探せ、ジャー」

 若頭が敵を探しだせと叱咤するが、配下の動きは鈍い。

 「魔女が魂を湖に沈めたんだ、ジャー」

 トロンジャの手下達には何が起きたのかわかっていた。魔女が生贄の戦士を冥底湖に引きずり込んだのだ。

 「姐さん、このままだと俺らも・・・ジャジャ」

 「声が大きいよ、知らん振りしてここで後詰をするんだ。魔女に目をつけられたらどうするんだい」

 トロンジャ自身が、本当に魔女がいると思い込んでいた。よく見ると左手の指を魔除けの形に組んでいる。

 「魔女の警告を無視して、呪いの印をつけられた誰かさんが、湖の底に沈んだら、こっそり逃げ出すよ、いいね」

 「さすが姐さんだ、俺らはどこまでもついていきやすぜ、ジャジャー」

 「褒めてもなにもでないよ」

 「三日月の槍」の手下達は、左手で魔除けの形を組みながら、暗い瞳で若頭を見つめていた。


 「なんだってんだ、畜生め。この先に何が巣食っていやがる、ジャー」

 あの後、4人組を2つ送り出したが、その全てが帰ってこなかった。戦闘音や奇声は聞こえるのに、、敵の正体もわからなければ、味方の消息も不明だ。だんだん配下の兵隊が命令を聞かなくなってきている。

 誰だって不気味な通路の先に、死にに行きたくないのだ。

 本来なら「三日月の槍」の連中が率先して侵攻するべきなのに、彼らは何かに怯えて最初から奥へは足を踏み入れない。

 話が違うぞと言い掛けるが、彼らが揃って自分に向ける視線が、すでに死んだ者に向けるそれに思えて、気後れをしてしまう。

 若頭もすでに魔女の呪いに嵌っていたのである。


 このままジリジリ戦力を削られると、「三日月の槍」との戦力差が逆転してしまう。あの女狐のことだ、こちらが弱まったと思えば、手のひらを返して仕掛けてくるかも知れない。

 そうなる前に、ここに潜んでいる奴を炙り出して、「凍結湖の鮫」が〆る必要があった。

 「俺様が直接出張るしかねえ。おう、根性のあるやつだけついて来いや、ジャー」

 そう言い残して先頭に立って奥へと足を踏み入れた。

 「若頭、あっしらもお供しますぜ、ジャー」

 男気に感化されて5人の配下がつき従ったが、残りの十数人は互いに視線を送りあうと、その場でウロウロしていた。

 そんな「凍結湖の鮫」の兵隊に、トロンジャは優しく声を掛けた。

 「勇気と無謀は違いますからね。アタシは踏みとどまった皆さんこそが勇士だと思いますよ」

 意気地なしとなじられると思っていた居残り組は、優しい言葉を掛けられて救われた気分になった。既に彼らの忠誠は、若頭からトロンジャに移り始めていた。


 「ちっ、あれだけ発破かけたのに、ついてきたのは5人かよ、ジャー」

 士気を上げるために一芝居打ったのだが、予想外に付いて来る兵隊が少ない。だが、今更引き返して無理やりに連れて来ても弾除けにもならないだろう。

 やる気のある精鋭で、黒幕の首を取るしかないと心に決めた。


 問題の小部屋まで来たが、今度は扉が開かない。木製なので剣で破壊しようかと考えていると、中央通路の一番奥の扉が、軋み音をたてながらゆっくりと開いていった。

 「誘ってやがる、だがここで退くわけにはいかねえよなあ、ジャー」

 2列に隊列を組みかえると、ゆっくりと族長の間へと足を踏み入れた。


 そこは玄関広間よりは2周りほど小さめの三角部屋で、元は族長の部屋だったと思われた。

 だがしかし、今は怪しげな者たちに魔改造されており、混沌としていた。

 部屋の中央には巨大な大釜が鎮座していて、ぐつぐつと何かを煮込んでいる。漂う臭いは強烈で、決して味見がしたくなるような代物ではなかった。

 奥の壁には、呪術に使うような奇妙な品々が飾られており、仮面や頭蓋骨が、こちらを睨んでいる様な錯覚さえおぼえる。

 部屋の両隅には、巨大な鎌を携えた骸骨の戦士が、何かを守るように立ちはだかっていた。

 そして入り口の両脇には、等身大の姿見が2脚、合わせ鏡のように向かい合って立ててあった。

 大釜の向こうには、銀色の骸骨が、胡坐をかいて座っていて、その膝の上には何故かハリネズミが寝そべっていた。


 「なんじゃこりゃ」

 あまりにも予想外の光景に、若頭は思わずつぶやいた。

 するとそれに銀色の骸骨が答えた。

 「魔女の占い館にようこそ」

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