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妖怪ダッシュジジイ

編集しようとしたら2話が消えた…死にたい

 ボインボインの魔力に勝てなかった俺は、依頼を受け意気揚々と旅の支度を始めるため、冒険者ギルドを後にした。横目で見れば、相変わらず占い師の店は行列が出来ている。

 今回受けた依頼のクライアントはシャリア・マガルダ。ボインボインその人である。名前からして妖艶な雰囲気が漂ってくるとは恐ろしい。


 恐らく依頼をこなした暁には、金のない俺でもその姿を拝むことが叶うかもしれない。いやもしかしたらこれを切っ掛けに気に入られてしまい、ぜひ婿に……、なんてことがあるやもしれない。

 俺には強い冒険者になるという夢があるのにそれは困る。どうやって断ろう。しかしボインボインと共に迎える朝というのは捨てがたい気がするんだ。


 ーー差し込む朝日が眩しい。鳥の囀ずりを耳に寝返りを打てば、ふと柔らかな感触を頬に感じた。「おはようレリコン」優しくも、艶を含んだ声で挨拶をされた。「ああ、おはようシャリア……」そう返す俺に彼女は美しくボインボインで微笑む。ああ、なんて素敵な感触だろうかーー。


「おいあいつ見ろよ……」

「ガキなのになんてスケベなツラしてやがんだ」

「おう、ありゃやべえ……、完全にド変態だ。親の顔が見てみてぇぜ……」


 んんっ! ごほん!

 顔に出ていたらしい。

 おい親は関係ないだろう!

 お前らだって両親がスケベしたから生まれてきたんだろうが!





 さて、今回の目的地だが、シャケ草の群生地はここサンデルの町よりさらに北東。レイクの町に行く途中の川沿いにある。

 以前に、荷物持ちとして行ったダンジョンの近くだ。レイクの町までは乗り合い馬車が出ているため、運賃さえ払えば時間はかなり短縮出来る。持ち合わせは少ないが時は金成り。

 今回の依頼は実入りもいいし、行きだけでも乗り合い馬車を使おうと決めた。


 翌日の朝、余裕をみて4日分の荷物を揃えた俺は乗り合い所へと向かった。空を見上げると快晴だ。遠出するにはいい日だった。町の北側へ歩き、レイクの町行きへの乗り合い所を目指す。

 小さな看板が建っているのが見えた。既に二人ほど、レイクの町へ行く馬車へ乗り込み待っているようだ。軽く会釈をしながら俺も馬車へと乗り込む。


 俺以外の乗客は二人、一人はフードを深く被っておりその表情は伺い知れない。だがうっすらと見えるシャープな顎の形と、果実のような瑞々しい唇から少女だというのがわかる。

 もう一人は革の鎧を着こみ、大剣を持ち並々ならぬオーラを出している女性。赤毛を肩ほどまでに短くし、切れ長の瞳と整った鼻梁はその雰囲気とは裏腹に、上品さが見え隠れしていた。あとおっぱいがでかい。目が釘付けになってしまいそうだ。


 よかった。俺はついている。むさ苦しいおっさん達が殆どな場合の乗り合い馬車で、こんなセクシーなおっぱい戦士と相乗りとは……。

 たった1日ちょっとの馬車旅ではあるものの楽しくなりそうである。そんなことを考えていると御者台から声がかかった。


「おーい、お三方。そろそろ出発するけど準備はええかなー?」

「あ、はい。俺は大丈夫です」


 フードを被った少女と、革の鎧を着たおっぱいは軽く手を上げ御者のじいさんに了解の意を告げると馬車は進み始めた。





 ガタゴトと進む馬車に揺られ、ゆっくりとした時が流れる。東から昇る太陽が西へと傾きはじめている。ずっと馬車に揺られていると、さすがにそろそろ尻が痛くなってきた。

 俺以外の二人の女性は、ときどきボソボソと話し合っているようだった。何を話しているのかは気になるものの、おっぱい戦士のこっちを見るなオーラは凄まじい。

 だがどうしても馬車が揺られるたび、連動して弾む胸に目がいってしまう。


 素晴らしい馬車旅である。サンデルの町からレイクの町までは騎士団の頑張りのおかげもあり、野党や魔物も出没せずに安全な旅路だ。

 そのためこうして定期的な乗り合い馬車も出ており、そのおかげもあってこうした素敵な出逢いもあるというものだ。ちらりと胸を見る。


「………………」


 ギロッ。


「……………すかー」


 睨まれるとすぐさま顔を反らし、寝たふりをして誤魔化す。意図的に見てるわけじゃない。そもそもそんな自己主張をしといて見るなというほうがおかしいだろう。

 目の前にお宝の山をドドンと置かれ、それに目がいかない人間はいない。俺は悪くない。ちらり。


「…………………………」


 ギロッ。


「…………………………すかー」


 そんなやりとりを幾度か繰り返し、あと少しで夜営の目的地へと着く頃、ふとフードの少女と目があった。俺を見た瞬間、長い睫毛が揺れ、大きな金色の瞳が目一杯見開かれた。少女の口が開き、


「あなたは――……」


 ――その時だった。


 ゴゴゴゴゴと、馬車の揺れとは異質の揺れを感じ、思わず手すりを掴む。おっぱい戦士がフードの少女を庇うように上から覆い被さった。

 馬車の後方をみる。

 なんだあれは……! 

 今まで通ってきた道が、大地が、崩落しながらこちらへと近づいてきているのが見えた……。んなバカな!


 今まで通ってきたはずの道が、亀裂音を立て地中へと飲まれていく。まずい、このままでは馬車ごと飲み込まれる!


「じいさん! 進路を変えろおぉぉぉ!!」


 あらんかぎりの大声を張り上げ、御者台のじいさんへと伝えようと馬車の前方に振りかぶる。


 ……が、俺が見たのは既に馬車から飛び降り、恐ろしい速度で逃げ行くじいさんの後ろ姿だった。


 はっ、はええ! 新種の魔物かよ!


「きゃああああああああ!」

「イルーダ様っ!」


 ふと体が軽くなり、気付けば俺達は崩落した大地と共に、暗闇の中へと落下して行った。


「うわああああぁぁぁぁぁぁー……!」



………

……




「いててて……。くそっ」


 荷物がクッションになり、それほど強くは打ち付けなかったはずなのに身体中が痛い。目を開けて周りを見れば、真っ暗な闇が広がっていた。

 上を見上げる。日が少し差し込んでいるのがわかった。あんなところから落ちてきたのか。……そう言えば他の二人は?


 目を凝らし更に辺りを見渡すと、二人は重なりあうように倒れていた。

 俺は立ち上がり足元に注意しながら彼女達のほうへと駆け寄り声を掛ける。


「おい! 二人とも大丈夫か?」

「うっ……」


 二人とも息はあるな。よかった。

 おっぱい戦士のほうは大丈夫そうだが、フードの少女は気を失っているようだ。おっぱい戦士はすぐに目を開き辺りを見渡したあとに、俺を見た。


「大丈夫か? 手を貸す、起き上がれるな?」

「……えぇ、ありがとうございます」


 おっぱい戦士は立ち上がるとそのままフードの少女を仰向けに寝かせ、怪我がないか確認している。ほっとした手つきで少女の頬を撫でてから俺へと向き直った。


「キミ、いったい何があったか、わかりますか?」

「いや……、後ろから地面が崩落したのまでは見たけど……。俺達はあそこから落ちたみたいだ」


 上を指差す。


「そう……、おじいさんはギリギリで馬車から飛び降りて逃げたのが見えました。とても速かった……。もしおじいさんがちゃんと逃げれているのなら、ここで救助を待つのが賢明ですわね。とにかく、今火をつけます」


 ボッ、という音。おっぱい戦士の手のひらから火が燃え上がり、暗闇を照らし出す。

 そうか、火のギフト持ちか。すげぇな、始めて見た。


 火のギフト持ちは希少だ。火のギフトを発動させたその多くが戦闘職として国ないしは領主、時の権力者達に召し抱えられる場合が殆どだと言う。

 ひとたび戦闘が始まれば圧倒的な攻撃力で敵をバッタバッタと薙ぎ倒して行くというのだ……。やはりこの上品そうな女性も、顔に似合わず恐ろしいまでの攻撃力を秘めているのか……。


「キミ、呆けてないで馬車の残骸を集めてくれませんこと?」

「お、おう」


 馬車の残骸なんかどうするんだろうか。そんなことを考えつつも、両手一杯まで残骸を拾い集める。


「残骸をここに積んでくださる?」


 言われた通りにする。

 山になったボロボロの馬車の残骸に、おっぱい戦士はおもむろに手を向けた。すると、おっぱい戦士の手のひらで燃えていた炎が急速に肥大化し、馬車の残骸へと燃え移る。一気に回りが明るくなった。


「おぉ……、すごい……」


 感嘆する。

 万年ソロでギフトを持たない俺は、こうした派手なギフト持ちを間近で見ることは少ない。

 羨ましく思う反面、素直に感心してしまう自分がいた。というか手から火を出しても熱くはないのか。


「あのおじいさんの速度ならきっと救助はすぐにきますわ。それまでここで待ちましょう」


 おっぱい戦士は言うや否や、フードの少女の横に腰を掛けた。


「そうだな、あのじいさん速かったもんな。新種の魔物かと思ったよ」

「……新種の魔物……?」

「そう、妖怪ダッシュジジイ」


 俺のその言葉におっぱいが一瞬キョトンとし、


「プッ……、フフフ……。アハハハハ!」

「ハ、ハハハ……」


 口元を手で隠しながら、笑った。

 その仕草だけで、こんな状況下なのになぜか俺まで嬉しくなり釣られて笑う。

 あれなんだろう?

 この胸にくる甘酸っぱい気持ち。やだ、なにこの気持ち。ねぇなんなの! こんなの始めて!


「アハハハ……フフ……、あー笑った。ワタクシはジーウですわ。ジーウ・バルーン。キミ、お名前は?」

「あ、ああ、よろしくなジーウ、俺はレリコンだ。――レリコン・ハイハ」

「ロリコン?」

「レリコンだ」


 断じて違う。


「ご、ごめんなさい。よろしくお願いします。ロ……レリコン。……今気を失ってるこの女の子は、マーシャ・リノです。目が覚めたら改めてご紹介しますわね」


 ん? マーシャ?

 はて……、確か馬車が落ちる寸前にジーウが「イルーダ様っ!」って叫んでたような気がしたが……。気のせいだったのだろうか。


 気を失っているマーシャと呼ばれた少女を見る。サラサラの黒髪に長い睫毛。小振りな顔のパーツは均等に整い、フードを被っていた時からは想像もつかない美少女だった。

 すぅすぅと、寝息をたてる度に上下する胸が、彼女が大事ないことを物語っている。美少女というのは寝ていても絵になるものだな、なんてことを考えていると、マーシャの瞼がゆっくりと開いた。


「……んっ。ここは……」


 ハッとしてジーウがマーシャに向き直る。


「マーシャ! 目が覚めたんですね! よかった……」

「んっ、ジーウ。ここは一体どこですか……?」

「上から落ちたのですわ。ほら、あそこが見えますか? あんな高さから落ちて、マーシャに大きな怪我がなくてよかった」

「ありがとう、ジーウが助けてくれたのですね……。あっ」


 ジーウと話していて、俺に気付いていなかったマーシャが俺を見るなり目を見開く。フォローするようにジーウが、マーシャの耳元へと口を近づけ何かを囁く。


「マーシャ、彼は同じ馬車に乗っていた……、胸ばかり見る例の……」


 あの! 聞こえてるんですけど! 確かに見てましたけど!


「よ、よろしくマーシャ。ジーウから名前だけは聞いている」


 内心の動揺を押し隠すように、俺はマーシャに目一杯の笑顔で挨拶をした。


「よ、よろしくお願いします……。私はマーシャ・リノと申します」

「俺はレリコンだ。レリコン・ハイハ」


 マーシャが金色の瞳に恐れの色を浮かべ聞き返してきた。


「ロ、ロリコ「レリコンだ」」


 断じて違う。

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