01出会い
「本当によろしいのですか……?」
羽の生えた少年が、同じく羽の生えた女性に話しかける。女性は静かにうなずいた。
「これしか方法がないのです。彼らに託しましょう。」
「美音!お弁当食べよう!」
呼ばれた少女は声のする方向を振り向いた。そこには、お弁当が入っているであろうふろしき包みを片手に持った少女が、美音の方にかけてきていた。呼ばれた少女はうなずいて、にっこりとお弁当を鞄の中から取り出した。
彼女の名は神山美音。いつも笑顔を絶やさない少女だ。美音の席を挟んで向かい側に座る少女は、川野詩織。いつもしっかり者で、美音の親友だ。
二人は向かい合ってお弁当を食べ始めた。今は昼休み、私立中学校のここ遠空中学校では、お昼休みと食事の時間は一緒で、50分間になっているのだ。外で遊びたい男子達は、いつも急いで食べて外に遊びに行っているため、昼休みに教室には男子数人と女子しか残らない。
「お、うまそー!」
二人が楽しく喋りながら食べていると、一人の男子が絡んできた。彼の名は南白夜。美音の幼馴染みだ。いつも騒がしい奴である。
「あげないからね-!」
美音はいつもお昼時間に絡んでくる白夜を適当にあしらう。
白夜は必ず外行く前に美音に絡むのだ。周りからは白夜が美音のことを好きなのではないかと言っているが、本人達にその気は全くない。普通の幼馴染みの関係なのだ。その様子をいつも詩織は静かに見守る。詩織には、白夜が自分に全く気がないのを知っているのだ。どうあがいても美音には敵わないことを。
白夜が外に遊びに行って少しして食べ終わった二人は、美音の提案で外をふらつくことにした。教室で喋っても良いのだが、二人で話したいのだ。ていっても、別に秘密話をするわけでもない。その日も普通に楽しく喋っていた。
学校も終わり詩織と一緒に帰っていたのだが、詩織が今日は用事があると言い、途中で別れた。ちなみに白夜も同じ方向なのだが、早く帰ってゲームがしたいと走って先に帰った。
美音は別にどこに寄るわけでもなく静かに帰っていると、突然背後から寒気がした。美音がぱっと振り返るが、そこには誰もいなかった。ホッとして前を向くと、目の前に見知らぬ少女が立っていた。
「うっ、うわぁああ!」
美音が叫び声を上げて後ずさると、少女は「人を幽霊みたいいに……」と呆れていた。その少女は高校生ぐらいだろうか。黒髪のポニーテールで腰まであった。前髪で右目を隠しており、見えている右目は真っ黒に染まっていた。まるで、光が届いていないようだった。
「えっと……私に……」
「迎えに来たわ!」
美音が最後まで言い終わらないうちに、少女は口を開いた。美音は、「は……?」と何とも間抜けな声が出てしまった。無理もない。見知らぬ少女から、「迎えに来た」なんて言われたのだから。
美音が怪訝そうに少女を見ていると、彼女は「あ、そうだったね」と何かに納得し、自己紹介を始めた。
「私はワコよ。あなたの仲間である私が迎えに来たわ!」
「はあ……?」
美音の頭の中でははてなマークが増えるばかり。ワコの言っていることが分からない。仲間?迎えに?美音は必死に考えるが、もうそろそろ頭がショートしそうになっていた。美音は限界の頭で無理矢理に答えを導き出した。
「えっと……誘拐は犯罪です」
思い当たる節はあったものの、信じたくない気持ちが勝り、その答えになった。案の定、ワコは一瞬驚いた顔をした後、呆れた顔になった。
「あなたね……わかってるでしょ!その能力のことよ!」
思い当たる節の方であっていたのだ。ワコはそう言うと、にやりと笑みを浮かべた。
「その能力で世界征服をするんだから。その強力な能力でね」
ワコの言葉を聞き、美音は固まった。思い出したくもない。あの昔のことを思い出してしまったのだ。