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ベルガモット•ティモン



ある日。

空からロリがやってきた。



「死んじゃうがいいの、にっくき勇者!!」



頭上で高笑いをしている。バカっぽい。

ひらひらの短いスカートを履いているので、中が丸見えだ。気にしていないのがバカのバカたる所以。

女と見れば見境ないシードが、彼女のスカートを覗こうとしているので、蹴飛ばしてやった。ロリもありとか、まじ引く。



「うぬ? ユズリハじゃないの。何してるの。スパイなの?」



スパイにスパイと聞くところが、バカのバカたる所以。いや、そもそもスパイじゃねえし。



「でかしたの! 非国民だと思ってて悪かったの!」


「なんだと!」


それは聞き捨てならない。



「意見を改めて、使える人間風情にしてやるの!」



一見、10歳ほどにしか見えない彼女は、小さな乳を張って叫んだ。

魔王様の側近。ベルガモット•ティモン。

頭には羊のような角が生え、ほわほわの銀髪ボブ。緑色のベアトップは、胸のなさをさらに強調している。仲間である。緑色のスカートは短すぎて、正面から見ても微妙にパンツが見える。なのに、わざわざ覗きに行ったシードに、心からの賞賛を送ろう。馬鹿め。



「このベルガモット様が来たからには、安心するがいいの! ユズリハ!」



自分のことをベルガモット様と呼ぶあたり、頭が弱そう。こんなに頭が悪そうなのに、頭が悪い。そう、見たまんまだ。ギャップという言葉から、最も程遠い位置に存在している。側近といっても、彼女は戦闘要員だ。だから、頭の良さなどいらない。魔王様にもそう言われたらしくて、すごい自慢してくる。いや、自慢になってねえからなマジで頭悪りぃのなベルガモット。



「あ、そうなの。ベルガモット様、勇者へのお言葉をしたためてきたの。せいぜい、有り難がるがいいの」


ごそごそとスカートの中を探り始めた。

そんなベルガモットに、シードの目は釘付けだ。まじもんだ。ロリコンだ。



「あったの。耳の穴かっぽじるがいいの。よく聞くの勇者。ベルガモット様が音読してやるの。

勇者!貴様は我らが魔王様…えーと、間違ったの。足りなかったの。……なんでこんな文章を書いたのか後でエリウスに怒ってやるの。

こほん。

勇者!貴様は、我らの美しく荘厳で精巧な人形かと見紛うほど麗しの君、もとい知性に満ち溢れその御心たるや神の如き魔に愛されし麗しの君、(中略)もとい我らの父代わりであり我らを作りし創世の麗しの君である魔王様をこ、…ころし、……うう、よくも魔王様をおおおおお!」



魔王様への美辞麗句だけは、難しい言葉を並べ連ねられていた。しかも、エリウスに怒ってやるだのなんだの言っていたので、それはあらかじめ書かれていたわけではなく、今ベルガモットが考えたようだ。バカなベルガモットの魔王様への深い愛を感じる。

そして、その美辞麗句を並び連ねている間に、愛が溢れて零れたらしい。紙を放り出して、地上におりてきた。


ぐしぐしと手のひらで目を拭っている。


……。

……ん?



「おいどこ行く気だよロリコン」


「女の子が泣いているんだ! ほっておけないさ!」



キラリと星を瞬かせて、シードが走った。ロリの涙のために一目散だ。

ベルガモットが、人類の敵である魔族だということなど完全に失念している。



「ぶほ!!」


駆け寄った途端、目にも留まらぬ速さでベルガモットにしばかれた。しばかれたにしては、半端ない威力。

シードが吹っ飛んで行った後には、何も残っていなかった。

さすがだな、俊腕ベルガモット!

……今つけたけど。



「どうにも王子な貴様には用はないの。すっこんでるの。勇者を出すの。ユズリハ」



私の行動は素早かった。


「こいつです」


「俺を売るのかいユズリハ!」


「こいつです」


「ロン!?」


「こいつです」


「ジュディー!!!」



うるさいな、とロンとジュディはうんざりとした顔をして見せた。

勇者のくせに、この人徳。恐れ多い。アンリは打ちひしがれたように私を見ている。いや、待て。なぜ私を見る。ベルガモットと知り合いだからって、あんたのために何かをしてやるつもりは毛頭ないぞ。


ふん、と顎を上げてアンリから目をそらした。

と、そこで、どふ、と鈍い音がしたと思ったら、肩を抑えたアンリがつまずくようにしてベルガモットの前に出た。その後ろで、ロンが満足げに鼻を鳴らす。どうやら、こいつがアンリの肩をど突いて、ベルガモットの前に突き出したようだ。

本当にそれで神に使えてる身なのかロンよ。


なるほど貴様が勇者なの、とベルガモットは微笑んだ。嬉しそうだ。花が綻ぶような、とはまさしくこのこと。もちろん、私もアンリを倒せるとなればそれくらいの笑みは浮かべて見せれることだろう。



「決闘を申し込むの!」


どどーん、とベルガモットが叫んだ。腰に手を当て、ない胸を張って、不遜な態度でアンリを指差す。

そんなベルガモットに、アンリはへたれた笑みで、言ってはならないことを言った。



「僕には、女の子と戦うことなんてできないよ」



やっちゃったなと思った時には、もうベルガモットはキレていた。




「はあ?死ね若造。わらわは106歳だ」





完全にキレていた。

口調も別人のようで、まとう空気が不穏すぎる。

ロリのくせに、ロリのまんまな姿を嫌っているから、ベルガモットに女の子とか言っちゃいけない。

かと言って、ババアとも言っちゃいけない。彼女は立派な女性なのだ。


ちなみに、私は昔、出会い頭にベルガモットに向かって「すっげえロリ」と言ったが、奴はロリという言葉を知らない。言いたい放題である。

そこで私は、彼女に ロリ=ステキな女性 という新たな知識を授けた。言いたい放題な上に、やつは上機嫌だ。私頭いい。



「……ふっ、ここであったが100年目。貴様を殺してやる」



少女の姿には到底似合わない、ギラギラとした目つきでベルガモットは勇者を睨みつけた。アンリは、うろたえたようにたたらを踏んだ後、ぎゅっと拳を握った。奴もやる気になったのだろうか。


「わらわを侮辱し、魔王様を亡きものにしたその罪、必ずやその身をもって償わせる」


ベルガモットはすらすらと喋ると、口元だけで微笑んだ。

すい、と手を横へかざす。すると、何もなかったはずの空間からキラキラと闇の粒子が飛び交い、いつの間にか、その手の中には髑髏のついた重厚な杖が収まっていた。

ベルガモットは、その杖をくるくると回し、息を吸った。



「死ね勇者ああああ!!」


ひゅん、と小さな音がした。

と思ったら、ベルガモットが肉薄。アンリがひらりとその足を払う。それをベルガモットが飛び跳ねて回避。そのまま回転してかかと落としを食らわせようとして、アンリに足首を掴まれる。直ぐにベルガモットがそのままの体制で、杖を突き上げると、アンリの顎に直撃した。衝撃でアンリの手がゆるまったところで逃げ出し、お互いに距離をとる。

さあ、と風が吹いた。

……なにこれ。この小説、戦闘ものじゃないんだけど。



「杖を持ってるから、魔術師かと思ったよ」


へへ、と余裕そうに微笑むアンリ。

対して。


「勿論、妾は魔に名を連ねるもの。魔術や魔法は得意だ」


ベルガモットは、ふう、と年寄りめいたため息を吐いた。ごき、と肩を鳴らして、杖をくるりと振る。そして、ああ、と声を漏らした。鬼のようだった形相がくるんと変わる。


「思わず我を忘れてたの。危なかったの」


次は、ふーっと子供っぽいため息を吐いた。

普通に怖い。


「でも、ベルガモット様が勇者を消し炭にする事実は変わらないの」


あはは!とベルガモットは笑って、第一級魔術と大魔法を展開した。

その勢いに、おお…と私たちは声を漏らす。



「流石に大きい魔法陣ね。彼女は、魔界で何番目くらいに強いの?」


「…えー、5か6番目くらいじゃない?知らないけど」


「あのガキ強ぇんだな!」


「あんなナリしてても、魔王様直属の戦闘部隊で、第二部隊の隊長だからな」


「へえ、だてに106歳まで歳をとってないのね」


「……ほう。魔法とはあの様に展開する仕方もあるのか」


「ロン。あなた、穢れた魔族の魔法に手を出す気?まあ、私はどうでもいいけど」


「私使えるから、教えてやってもいいよ。神聖な僧侶様」


「…ちっ。うるさい。貴様の施しなど受けん」


「男のくせに頭かってぇなあ、おい」


「盗賊は黙ってろ締めるぞ」



私たちが世間話をしている間に。


アンリがベルガモットを縛り上げていた。



* * *



「うう…っ、ぐずっ、」


「うるっせえなあ、いい加減泣き止めよベルガモット」


「くず、ふ、ふんっ! 非国民のユズリハにベルガモット様の気持ちなんてわからないの!」


「なんだと! さっきも思ってたけど、誰が非国民だ!」


「負け犬ほど吠えるものなの。ベルガモット様は気にしないの」


「負け犬ってまさしく今のお前のことだぞちゃんとわかってんのかあんた負けたんだぞ」


「うるさいの!!黙るの非国民!」


「非国民しか言葉知らねえのかまじでバカだな! だいたい、誰に向かって言ってんだよ。私は魔王様親衛隊の隊長だぞ!」




ばたん。


「あ、アンリ!?」


「……これは洗脳これは洗脳これは洗脳これは洗脳…」


「あ、アンリが壊れたわああああ誰かああああ。……もういいかしら」


「……構わん」


「十分心配する勇者パーティの図はできたな。先行くぜ」


「というか、誰が足りない気がするんだけど、私の気のせいかしら」


「……」


「あー?いつもこんなもんだろ。てか、けっこう時間食っちまったけど、晩飯どーすんの」


「…………あ」



「「「鍋」」」






「そこでベルガモット様は修行に出るの」


「いや待て。脈絡ないし、まず亀甲縛りにされて何言ってんだ」


「…スパイなユズリハが、こっそり逃がしてくれたらいいの。ほら、ほら」


「うっぜえ。だいたい、私は魔王様に勇者についてけって言われたからここにいるの。非国民呼ばわりしたあんたに返す義理もない」


「な、なんだと!!……わかったの。ベルガモット様も勇者パーティに入るの」


「いや、待て。頭おかしいの? 私が言われたのであって、あんた関係ないんだよ?」


「関係あるの! 魔王様のことは全部関係あるの!」


「はあー?よく言えたものね!この会員番号4番!」


「はー? 自分が親衛隊長で00番だからって調子乗るななの!!」


「このロリ!」


「なんで褒めたの!?」





3日後。

ベルガモットは、アンリに逃がされて、罵倒を浴びせながら空へと旅立った。

いつの間にか合流していたシードが、泣く泣く手を振った。かと思ったら、ベルガモットの罵詈雑言に耐えきれなくなったアンリが、電撃を打って、ベルガモットに直撃。ぷぎゃ!なんて潰れた音を出しながら、ロリは森へ落ちて行った。

シードが助けに行く!と喚いたが、行きたきゃ行けば?みたいな私たちの視線に震えながら首を振った。どうにも、彼は3日前私たちに置いていかれたことが軽くトラウマになっているらしい。弱い男である。



「ユズリハ!」


「…」


「ユズリハ!ユズリハ!」


「うっせえな!!」


「これからも僕が君を守るよ!」


「黙れ!!」


「がは!」



「よくやったぞユズリハ!」


「いい右フックね」


「……ふん」



あー、もう疲れる。

早く魔王様復活してくれないかな。





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