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シャハルとハルシヤ  作者: 芳沼芳
最終章 ヘイサラバサラ
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ギリタの長話

『鈍感な世界』の続きです。アルファには投稿済み、pixivにもその内上げます。少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 ソピリヤ様は、スミドを訪れたネルガル=ヴィンラフ太子に、恭しく辞表を提出して言った。


「わたくし ソピリヤ・ヨウゼン、及びヨウゼン家一同は、セーアン地方がスミド太守国と、太守の地位を返上致します。そもそも女が太守になろうだなんて、初めから間違っていたのです」



 シャハルのカウンセリング後、叩き起こされた私はスミドに戻り、ソピリヤ様を説得した。

 最初はその内容に激怒されたソピリヤ様だったが、カルクール寺から単身戻られた義母ロミネ様と、ずっとヨウゼン邸内にいらっしゃった生母のヤシリヤ様の口添えもあり、こうしてヨウゼン家は、旧王室のヴィンラフ朝に対して全面降伏する日を迎える事ができた。


 ソピリヤ様は先頭に立ってネルガル太子に邸内を一通り案内し終えると、予め用意したスーツケースを1台引いて、颯爽とスミドを後にした。職や住居を見付けるまでは、しばらくポンチェト=プリューリで暮らす元級友、アマンの自宅でご厄介になるそうだ。


「考えてみたら、今まで全て父の敷いたレールを走って来ただけだしね。新しい仕事……庭師なんてどうかな」


 さて、私は私でまだまだ仕事が山積みだ。まず国名はスミドからスメクと変更される予定だし、ヴィンラフ朝による統治が軌道に乗るまでは、土地の事情をよく知る者達が必要ということで、秘書官として留任されることになった。


 私は王族追放後のシビル連邦に産まれた子供だから、王室関係には非常に疎く、何か失礼があっては大変だからと必死で情報を掻き集めて整理した所、ネルガル太子の上には伯父であるダリク帝という方がいらっしゃる事も最近知ったばかりだった。


 ただし、ご高齢のダリク帝に代わって今後も指揮を取るのはネルガル太子だという事で、現在ダリク帝は、妻であるアイシュア・サペリ妃のご実家である、ナルメのサペリ家に滞在中だった。


 ところでヨウゼン邸の執務室の壁には、四大美人が1人、王昭君の姿が描かれている。後世の創作ではあるが、彼女は賄賂にまつわる故事が有名だ。

 それはつまり太守ともなれば、目の前にある書面の内容を常に疑ってかかり、ゆめゆめ敵方に、誠の心を持った大人物を、自ら渡すことの無いよう強く戒めているのに違いない。



 そんな執務室に、ネルガル太子は、ポンチェト=プリューリからギリタ・ロンシュクを呼び出した。


「ああご苦労、早速だがねギリタ。私に真の忠誠を誓っているなら、今から私の質問に、全て嘘偽りなく答えて貰う。――お前はシャリムを嫌っているね。何故だい」


「何故、と申されましても。そこに行き着くまでには多大な葛藤と、私の人生についても振り返らねばなりません。そうでなければ、おそらく貴方様は、私について誤解されたままでしょうから」



 まず本音を言いましょう。我々スメク人…いえ、少なくとも私は、外国人が自分と同じ、“人”だとは思えないのです。勿論、豚や猿とは違いますよ。単に見下しているのでもありません。同じ感覚を共有することの出来ない、言うなれば絶対的な他者なのです。




 私は18で結婚しました、妻は10歳。高級官僚としては未だなりたてで、にも関わらず人材不足で誰も行きたがらないものですから、下っ端の私が留学させられました。 





 年若過ぎる妻は、私が望んだのではなく、周囲に予め決められた事でした。ホームステイ先のご婦人や、同じくホームステイ中だった都会の国からの留学生は、ひどく驚いて何くれとなく妻を気遣い、私には憎しみのこもった軽蔑の眼差しを向けました。





 そして私が22の時、14歳の妻は長男を出産しました。私は敢えて、長男にケイレブという外国かぶれの名を付けました。その後も産まれる子供達には全て海外かぶれの名を付け、あらゆる人の目を欺きながら、隠れ国粋主義者として生きて参ったのです。スメクを都会流から守る為の、防波堤として。 




 私が許せないのは、都会の国の傲慢です。私の妻の年齢を非難しておきながら、倡店街(ラパタ)で未成年者を買い漁る。どうして、しきたりに則って交わされた神聖な婚姻と、外貨の強弱成金達による悪所通いが、同列で語られなくてはならないのですか。





 私は5人の子供達を責任持って養育していますが、客達は違う。花代だけ払って、あとは野となれ山となれだ。倡店街(ラパタ)の落とし子達には何の罪もありませんが、いずれ代々のスメク人と交わり、民族の純粋性を脅かすことでしょう。我々は今、危機的状況にあるのです。

 



 私は福祉政策の立案に関わった際に、倡店街(ラパタ)の落とし子達に対しては積極的に海外養子の道を探し、一定の年齢になっても引き取り手の無い場合は、自然妊娠は不可能な去勢手術を施しました。




 しかしそれではもう間に合いません。倡店街(ラパタ)を有するポンチェト=プリューリは、いずれ国際化し、スメク人らしいスメク人の方が珍しくなるでしょう。




 ですから貴方様を、この田舎の一地方であるセーアンまでお連れしたのです。ここならまだだいぶ、スメク人としての純粋性が保たれておりますし、ナルメ出身のアイシュア妃のお陰もあって、セーアン地方一帯での王室人気は高い。




 それと貴方様は、どうやらエイダをお嫌いのようですね。無理もありません。あんな小娘、本来であれば相応しくございません。しかし私には切り札が足りないのです。




 別にエイダでなくても構いません。どうか、純粋なるスメク人の女性と、次世代に繋がる帝子を設けて下さい。ここなら沢山居ますから。






少しでも楽しんでいただけたのであれば幸いです。

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