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シャハルとハルシヤ  作者: 芳沼芳
第一章 シャハルとハルシヤ
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シェイマスの意地

『畑の異変』の続きです。蛙にご注意下さい。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 日程をこなしたハンムラビ・ヨウゼンは、府内の自室で誰はばかる事なく寝椅子にもたれくつろいでいた。傍らには彼の秘書トビラス=イェノイェが侍り、ある提案を口にしていた。


「いかがでしょう。あの屋敷を買い取って、ソピリヤ様の学問所になさっては」


「かつて仕えた身としての発言とは思えんな。…だが妙案だ。さぞかしいい見せしめになることだろう」


せせら笑う声音に反して、その顔は浮かない。トビラスは早めの退出を願い出た。


「もう行くのか」


「はい。あなた様の気が変わらぬうちに」





「おじいちゃま、トビラスさんが来たみたい」


外で遊んでいたセウロラが窓を開け、身を乗り出して来訪者を告げた。シェイマスは筆を置いて門に向かい、トビラスを招き入れるついでに門前の人だかりを威喝した。


「来たかトビラス。あんまり遅いのでとうとう見捨てられたかと思ったが、私もまだまだ人望があるようだ」


「手土産の調達に少し手間取りまして」


「蛙。捕まえたのか」


「まさか。通りかかった子達にやらせたんですよ」


勝手知ったる元主家、トビラスが手桶片手に台所へ引っ込むと、断続的に蛙の断末魔が聞こえた。ほどなくして皿に盛られた唐揚げがシェイマスの前に置かれると、彼は嬉々としてかぶりつき、トビラスにも食べるよう勧めた。二人は行儀が悪いと承知しつつ、食べながら会話した。


「お逃げになればよろしいのに」


「悪いことを悪いと言ったまでだ。逃げればそれを認めたのと同じことになる」


「まったく…先生には敵いませんよ。気に入らなけば実の娘だって追い出すんですから」


「あれはあいつの為を思ってやったまでだ。いくら後添いとは言っても、やはり子連れは疎まれる。あちらに子が居れば尚更な」


そう言って手を拭くと、シェイマスは庭先でぴょんぴょん縄跳びをしていたセウロラを呼び寄せた。


「旅に出る。お前は連れて行けないから、トビラスの所でご厄介になりなさい」


「はい…」


セウロラは荷物を持参し、トビラスが乗ってきた自転車のかごに載せた。トビラスは彼女を抱え後部座席に座らせると、把手を握り自転車を押して進み始めた。門の所まで来るとシェイマスがかんぬきを外した。


「達者で暮らせ」


門が開き、外の人だかりが道を空けた。トビラスは自転車に跨がって漕ぎ出し、セウロラは後部座席で遠ざかるシェイマスと生まれ育った屋敷を見ていた。

角を曲がり自転車が見えなくなると、シェイマスは屋敷に引っ込んだ。やがて日も暮れ、辺り一面真っ暗闇の夜になると、門前に居た人だかりが次々と塀を乗り越え、シェイマス宅に侵入した。彼等は邸内を探し回るまでもなく、煌々と灯りのともる書斎で屋敷の主を発見した。囲まれたシェイマスは筆を置き、首領格とおぼしき男を見据えた。


「お前たち、それでも武家の端くれか。…ウラシッドの名も地に墜ちた」


「何を申されるか老学者殿」


「武家ならば武家らしく正々堂々と正面から入って来られよ。これでは物盗りとさして変わらん」


拝命を勝ち取って以来、ヨウゼン家の御為に戦い抜いてきた名誉ある武家ウラシッドの下っ端たちは、シェイマスの言に従い、生真面目にも一旦出直した。

シェイマスはこれにうなずくと、彼等に身を委ねた。



――旅は旅でも死出の旅 我は死すとも そなたを憂う






ハンムラビ・ヨウゼン

太守。ヨウゼン家家長


シェイマス

学者。ハンムラビの恩師。トビラスの元主人


セウロラ

シェイマスの孫



少しでも楽しんでいただけたのならば幸いです。

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