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シャハルとハルシヤ  作者: 芳沼芳
第一章 シャハルとハルシヤ
14/56

約束の日

『仮初めの応え』の続きです。

サイズの都合で断念した挿絵のようなものと本文をpixivに上げました。


少しでも楽しんでいただければ幸いです。


 今日も今日とて学校が終わり、シャハルは昨日交わした遊ぶ約束を果たして貰うため、タイとスラーと一緒にスラーの自宅まで、二人の自転車を取りに行った。途中坂道に差し掛かり、スラーは、一人だけ自転車を押しながら歩くシャハルのことを気に掛けた。


「ここを登ったら、もうすぐ自分の家だから。手伝おうか、シャハル」


「あー大丈夫、大丈夫。このくらい一人で何とかなるよ」


「もっと勢い付けて乗ってくれば、途中まで自転車で行けたんだけどな。そこからは降りて押せばいいし。上手く行ったら、全部自転車で登れる」


タイは、毎朝スラーの家に自転車を置いて、そこからスラーと徒歩通学している自身の経験を元に、何となく坂道まで、喋りながら歩いて来てしまったことを残念がった。


坂道を登った先には、クルガノイの武家屋敷が軒を連ねていた。スラーはその内の一軒の前で立ち止まり、木戸を叩いた。


「はーい、只今(ただいま)


木戸が開き、その向こう側からタイの妹が顔を出した。


「兄ちゃん、スラーさん、誰」


「昨日話したろ、シャハル=イェノイェだよ。お前も今から土手に行くぞ」


タイはそう言いながら、奥に停めた自転車を取りに行くため、先に入って行ったスラーに続いて木戸を(くぐ)ろうとした。


「兄ちゃん。自転車無いよ、うちはどうやって行くの」


「しまった、お前をどう連れて行くか考えて無かった」


タイの妹は、まだ自前の自転車を持っていないらしく、さらにその後タイとスラーが押して戻って来た自転車には、籠しか付いていなかった。


シャハルはとっさに後ろの荷台にくくりつけていた鞄を外し、前の荷物籠に載せ替えると、タイの妹は後ろの荷台に乗って行けば良いと提案した。タイは賛成し、スラーは安全面を気にしていたが、タイの妹は若干戸惑いつつも、さっさと荷台に跨がった。


「それじゃ、荷台にしっかり掴まって、足は巻き込まないように気を付けてね」


シャハルは後ろの様子を確認すると、左右のブレーキを握り締め、程よく速度を落としながら、ゆっくりと坂道を下りて行った。タイとスラーの自転車二台も後に続いた。





 イェノイェの集会所前の広場では、シトナが介助も無しに一人で四輪平衡車を漕ぎ、木陰で読書中だったセウロラのところまでたどり着いていた。仲間内ではかつて無い新記録の達成に、広場に居た女の子達は、凄い凄いとシトナの偉業を褒め称えた。


「セウロラー、来て来てこっちー」


そこへ帰ってきたシャハルが、土手の上からセウロラを呼んだ。女の子達は怪訝な顔をして、シャハルと一緒に居る三人を見遣った。


「誰あれ」


「シャハルの学校の人達と、その妹だと思う」


女の子達の誰かの疑問にセウロラが答えると、その内容に、シトナはあからさまに顔をしかめた。


「じゃああれクルガノイってことなの、…みんなー、今すぐ帰ろう。セウロラも、シャハルが呼んでるから仕方ないけど、気を付けてね」


セウロラ以外の女の子達は、シトナの発言を皮切りに、クルガノイからの来訪者とのすれ違いを避けるため、回り道しながらそそくさと家に帰っていった。

後には四輪平衡車だけが残り、セウロラはそれと読みかけの本を持って土手を登ると、シャハルの横に並んで初対面の挨拶をした。


「セウロラです。初めまして」


そして挨拶もそこそこに、セウロラは本をシャハルの鞄に仕舞い、四輪平衡車は鞄の下敷きになるよう籠に入れた。


「他の皆は気にしないで。いつも同じ人同士で遊ぶから、結構人見知りなんだ」


「シャハル、気を遣わなくても良いよ。自分がクルガノイ生なのは間違いないから」


「ありゃりゃ、スラーにはお見通しだね。それとも、僕の誤魔化しが下手なだけかな」


「どっちもどっちだろ。なあ、立ち話も飽きたしどっか行こう」


タイにそう言われ、歩き出したシャハルは少し考えて、全員をれんげ草畑に案内した。れんげ草が咲き乱れる中で、突然あっと声を上げたセウロラは、小走りしながら(かが)んで、一匹の蛙を捕まえた。


「ぎえええーっ」


タイの妹は、一目見るなり悲鳴を上げ、畦道(あぜみち)に遁走した。


「やっぱりね、すると思った。うわ、こっちには持って来ないで」


シャハルは、蛙を掴んだまま近寄ってくるセウロラを手で制し、タイにその様子をからかわれた。


「何だ、シャハルも怖いのか」


「違うよ、見るのは平気だから。触るのが嫌なの」






 畦道に腰かけたシャハルは、大量に集めたれんげ草の、出来るだけ花近くの茎の表面の筋に添って、親指の爪を縦に強く押し付けた。すると、水分と草の汁がにじみ出て、やがて無理矢理隙間が開いた。

シャハルは、その隙間に別のれんげ草を茎から通すと、花部分で留め、それから、通したばかりでまだ隙間の無いれんげ草に、同じ作業を繰り返して、花と花を繋げていった。


タイの妹は、退屈しのぎにそれを眺めながら、つい気になってシャハルに話し掛けた。


「そんなの誰に習ったの」


「僕に教えてくれたのは、はとこのマウラさんだよ」


「どうやって作れるようになったの」


「どうって、それは作る練習をしたからだよ。それに僕、マウラさんのことが好きだから」


「ふうん、あのお姉ちゃんとどっちが好き」


「マウラさん。好きって女の人のことだよね、だったらセウロラはえっと、マウラさんでしょう、お母さんでしょう、セウロラのお母さんでしょう、うーん、4番目位かな。シトナはマウラさんの妹だけど、あんまり似てないし…って、君はセウロラ以外知らないじゃん」


「良いもん。知らなくても面白いから」


「ああ、恋話ね。君は誰か好きな人とか居るの」


「そんなの要らない」


「へー、そう。皆が皆いる訳無いもんね。あ、花が足りない」


「待って。うちが摘んで来てあげる」


「ありがとう。じゃあ、茎が太い花を採ってきて。採る時は、出来るだけ茎を長めにね」


タイの妹は、れんげ草の茎に触れて確かめながら、シャハルの指示通りの花だけ摘み取って行った。そうして片手に花束が出来た頃、まだまだ花を摘むため、葉を掻き分けて花の根元を探っていると、指先にひやりとした感触がして、恐る恐る覗き込んだ。すると、丁度そこに隠れていた、蛙一匹と目が合った。


「ぎょえええーっ」


タイの妹は悲鳴を上げてひっくり返り、それを聞き付けた、今まで蛙捕りに励んでいた三人中、タイとセウロラが辺りを探し回った。


「あっ、でりゃーっ。よーし捕まえた。もう大丈夫だよ」


蛙はセウロラが捕獲し、散らばったれんげ草の花束は、スラーが拾い集めてシャハルのところに持って行った。タイは妹を引っ張り起こし、汚れた衣服を(はた)いて遣った。


追加の花束で、シャハルは長く繋げた花を2本作り、1本はそのまま、はみ出した茎同士で端と端を結び付けることが出来たが、もう1本はそうは行かなかった。シャハルは工夫して、結べる茎が無い方の、先端の花の手前部分の茎と結び合わせて、何とか輪っかを形作った。


そうして後は、はみ出た茎を二本ずつ、結ぶ長さが足りなくなったり、千切れるまで結び続け、シャハルはれんげ草の花冠を2つ完成させた。タイの妹は、それを嬉しげに受け取って頭に載せた。


「はい、セウロラの分」


「恥ずかしいから嫌」


「えー、せっかく作ったのに。まあいいか、お母さんにあげよう」


 シャハルは花冠を鞄に仕舞い、シャハルの意外な特技に感心していたスラーに、そろそろ帰ろうかとタイが言った。タイの妹は、来た時と同じく自転車の荷台に跨がり、頭に花冠を載せたまま、笑顔でセウロラに手を振った。


「お姉ちゃん、またねー」


セウロラも手を振り返し、今度はタイが先頭になって自転車を出発させた。行き先はまたスラーの家で、シャハルは坂道の下でタイの妹を降ろし、そこでタイ達三人に見送られ、自転車で元来た道を引き返した。



少しでも楽しんでいただけたのならば幸いです。


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