第2話:4月7日放課後
突然の闖入者に言葉を失っているボクと静音先生、ボクの耳と尻尾が見えていた筈なのに何事も無く静音先生へと向かい
「私にはあなたが必要なんです!」
禁断の愛の告白かな?いや愛の形はもう人の数程あるんだろうけれど…唐突過ぎて意味が分からない。そんな空気を破るのは
「ああ、君あれっしょ?今年のスポーツ特待生」
「あ、はい。よくご存知ですね!」
「知っているの鈴鳴!?」
「くくく…あたしの情報網を舐めてもらっては困るね…!」
闖入者の少女もちょっと驚きつつ肯定している、と言う事は新入生だろうか?よく見れば身に纏う制服も真新しい物であるのが分かる
「そういえば自己紹介が遅れました!蟹岸先輩が既に仰ってましたが、新入学生で忍者部のスポーツ特待生の霧野里乃と申します!」
「…忍者?」
「あ、はい。何でも今年の忍者部はインターハイを目指すという事でうちの里に依頼があったんですよ」
「いやちょっと待って?ボクがおかしいのかな…忍者ってガチで居るの?」
「居ますよ?ここに!ほら、どこからどう見ても立派な忍者です!」
胸を張って言い張る霧野と名乗る少女だが、どこからどう見てもごくごく普通の女の子としか思えない
「あのー、天峰先輩?言った手前なんですが、流石に一目で忍者と分かる格好している方がおかしいですよね?」
「えっ、ちょ…ボク一言も喋ってないんだけど!?あとなんでボクの名前まで…」
「そりゃあもちろん、忍者ですから!」
もはや理由にすらなってない…と言うか忍者という言葉がゲシュタルト崩壊し始めてきたよと少し眩暈を感じていると
「おぉっと、話が脱線しました!という訳で蟹岸静音先生!あなたの力が私の修行にどうしても不可欠なんです!あなたの鉄アレイ投げの腕が!」
「!?…あなた、霧野さんと仰ってましたね…どこでその話を」
霧野の言葉に、表情が一変して引き締まる静音先生。言葉は無いが力強く頷く霧野、まるで全てを察したかの様に頷く鈴鳴…っていうか
「っていうか展開も何もかも唐突すぎるわ!ああもう1つずつ分かる様に説明してよ!?」
………全員が並んで座り、1つずつ話の流れを紐解いて行くこととなる。と言ってもどうやら理解出来てないのボクだけっぽいけれど
まず、霧野里乃。彼女は特待生で入学したばかりの1年生。今年のインターハイを目指す為に忍者部の人員として入学した。元々は乗り気ではなかったけれども、静音先生が在籍していると聞いて入学を決めたそうだ
その静音先生は、実は数年前の国体で鉄アレイ投げで日本記録を保持している。また、そのフォームは他の追随を許さない程素晴らしいらしく、世界記録を狙える程の記憶と記録に残る優れた名選手とされていた。しかし突然競技界から姿を消したらしい
「なるほど…で、霧野は鉄アレイ投げの名手である静音先生にチクワ舞う中鉄アレイを投げてもらうのを希望していると」
「はい!そうです!分かっていただけましたか!天峰先輩!」
「うんうん、なるほどねー…って分かるか!?何でも頭ごなしに否定するのは良くない事だけど、流石になんの脈絡も無いよ!?後なんでボクの名前まで…」
「それは身近な肩の身辺を確認しておく必要がありましたので!…それにしても驚きです、特徴は母方のクォーターくらいでそれ以外は勉強の出来る方と聞いていた天峰先輩がそんな協力な術を身につけているとは…」
「どんな必要よ…って、術?」
「ええ、ここ最近調べてらっしゃった一週間程前に生えたと言ってたその耳と尻尾の事です」
「…もしかしてこれ分かるの!?というか、霧野にはこれ効果無いの!?」
突っ込みどころが多すぎて忘れてた、そういえばこの子直に見ている筈なのに全く惚れっぽくなってる症状が無い!どうなの?と、自分の狐耳を示しながら霧野に尋ねてみれば
「私の事は里乃で構いません!あ、それはですね…呪術に近いですね、老若男女問わず魅了する物…ですねー。ですが、忍者として腕を磨いた私の前では全く問題ありません!部の2年の先輩はダメみたいでしたけど、物憂げに部室の窓から外を眺めてました」
そういえば生えた当日囲まれた時に忍者混じってたな…
「まあ、今重要なのは静音先生の協力が必要ということです!問題無くインターハイで優勝は出来ますけれど、静音先生の手があれば私の里は安泰です!」
「え、えぇ…?」
横に座っている静音先生に目を向ける里乃、流石に気圧されている先生。里の未来が先生の文字通り双肩にかかっている…っていうか、忍者の里って本当にあったんだ…
………なんにせよ、今気になるのはボクの耳と尻尾の事。科学的に全く解明出来てない事柄が呪術方面であったとは…いや普通耳尻尾生える事も無いし、忍者も出てこない…そもそも鉄アレイ投げってなによ?
熱心な勧誘活動が目の前で繰り広げられる中、色々な思考が頭を過る
「ま、とりあえずは一歩前進じゃん?」
鈴鳴がボクの肩を叩き、微笑みかける。
…確かにね。と、今は苦笑しながら頷くしか無いのであった