砂の城址 04
ねっとりとした風に背を押されて狭い浜を越える。続く急斜面はむせかえるほどに緑濃い熱帯のジャングルだ。けれど所詮はツアー用に開拓されている小島だ。細く曲がりくねった小径は平らなサンゴで補強されているし、脇には矢印のついた看板がいくつもの見え隠れしている。風雨に色褪せた文字で書かれているのは…「果ての浜」「恋人岬」「神秘の洞窟(夜間立ち入り禁止)」。どれもこれも、口にするのが恥ずかしいような名前ばっかりだ。
俺はなるべくコンゴウの躯を揺らさないようにして、まずは島を横切って「果ての浜」とやらに向かった。どうせ大した道のりじゃない。案の定、三十分もしないで反対側の浜に出た。廃屋を模した休憩所。どう、と盛大にとどろく波の音。波打ち際には木造のボートがぽつんと一艘乗り上げていて、それっぽい風情をかもしだしている。──いいんじゃない、恋人と来るんだったら。
乾いた砂地にどっかりと腰を下ろし、吹き出る汗を手の甲で拭う。穴蔵では見え透いたポーズにしかならないが、ここでは違う。外なのだ。俺は今、世界の姿を垣間見ているんだ。
高揚が伝わったのか、コンゴウの両足が俺の膝頭をぐんと掴み上げる。確かめるように翼を広げ、ずしりと重い蹴りをかましてぎこちなく舞い上がる。
「どうだ、もう大丈夫か」
我が家のペーパードライバーは飛行中に口がきけない。行って戻って、差し出した俺の腕ではなく頭に降り立つや、ぎゃあぎゃあと鳴きわめいた。
「ダイジョウブカ。ダイジョウブカ」
「うっせー。こらこら…痛ぇよ。やめろ、バカ。ハゲたらどうすんだ」
「ハゲ。ハゲ。ハゲー」
「だーかーら。やめろって」
十一歳の俺を残して死んじまった親父はハゲじゃなかった。けど安心はできない。親父、まだハゲる年齢でもなかったろうしな。
俺に余計な心配をさせるバカ鳥を拳で黙らせ、餌と水で懐柔する。奴が大人しくしてるほんの僅かの時間に、先ほど船でもらったパンフレットと自前のマップをつき合わせる。知られている限り、ロガーは島に二つ。一つはこのあたりだ。もう一つは洞窟の入り口だ。そっちはパンフレットの写真に写り込んでるから間違いない。
「こいつか」
五十メートル四方程度の斜面をぐるぐる回っているうちに、最初のロガーにぶち当たった。
うんざりするほどこいつらを見ている、なんて口に出して言うのもバカらしい。
今の俺たちは、この膨大なロガーの上に──いや、下にか──新たな文明の絨毯を敷いてひっそりと生きているのだ。