表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Logger -砂の城址  作者: lowpoint
砂の城址
4/4

砂の城址 04

 ねっとりとした風に背を押されて狭い浜を越える。続く急斜面はむせかえるほどに緑濃い熱帯のジャングルだ。けれど所詮はツアー用に開拓されている小島だ。細く曲がりくねった小径は平らなサンゴで補強されているし、脇には矢印のついた看板がいくつもの見え隠れしている。風雨に色褪せた文字で書かれているのは…「果ての浜」「恋人岬」「神秘の洞窟(夜間立ち入り禁止)」。どれもこれも、口にするのが恥ずかしいような名前ばっかりだ。

 俺はなるべくコンゴウの躯を揺らさないようにして、まずは島を横切って「果ての浜」とやらに向かった。どうせ大した道のりじゃない。案の定、三十分もしないで反対側の浜に出た。廃屋を模した休憩所。どう、と盛大にとどろく波の音。波打ち際には木造のボートがぽつんと一艘乗り上げていて、それっぽい風情をかもしだしている。──いいんじゃない、恋人と来るんだったら。

 乾いた砂地にどっかりと腰を下ろし、吹き出る汗を手の甲で拭う。穴蔵では見え透いたポーズにしかならないが、ここでは違う。外なのだ。俺は今、世界の姿を垣間見ているんだ。

 高揚が伝わったのか、コンゴウの両足が俺の膝頭をぐんと掴み上げる。確かめるように翼を広げ、ずしりと重い蹴りをかましてぎこちなく舞い上がる。


「どうだ、もう大丈夫か」


 我が家のペーパードライバーは飛行中に口がきけない。行って戻って、差し出した俺の腕ではなく頭に降り立つや、ぎゃあぎゃあと鳴きわめいた。


「ダイジョウブカ。ダイジョウブカ」

「うっせー。こらこら…痛ぇよ。やめろ、バカ。ハゲたらどうすんだ」

「ハゲ。ハゲ。ハゲー」

「だーかーら。やめろって」


 十一歳の俺を残して死んじまった親父はハゲじゃなかった。けど安心はできない。親父、まだハゲる年齢でもなかったろうしな。

 俺に余計な心配をさせるバカ鳥を拳で黙らせ、餌と水で懐柔する。奴が大人しくしてるほんの僅かの時間に、先ほど船でもらったパンフレットと自前のマップをつき合わせる。知られている限り、ロガーは島に二つ。一つはこのあたりだ。もう一つは洞窟の入り口だ。そっちはパンフレットの写真に写り込んでるから間違いない。


「こいつか」


 五十メートル四方程度の斜面をぐるぐる回っているうちに、最初のロガーにぶち当たった。

 うんざりするほどこいつらを見ている、なんて口に出して言うのもバカらしい。

 今の俺たちは、この膨大なロガーの上に──いや、下にか──新たな文明の絨毯を敷いてひっそりと生きているのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ