砂の城址 02
いつもの場所に彼女はいた。俺はお上品にベンチに腰掛けている彼女に近づくと、ぱんぱんとジャケットの前を払って注意をひきつけた。
「レポート、終わったのね」
「……まあ、一応」
信じているのかとぼけてるのか、ミス・タガミは黒髪のポニーテールを揺らしてうんうんと何度も頷いた。紺色の地味なワンピース、急角度の胸の上で銀のペンダントも一緒に揺れた。
「学生は学業がなにより、だもんね」
「ははは…当然っスよ」
いつかまっとうな仕事にありついたら、この年上の女性を颯爽とディナーに誘うのが俺の夢のひとつだ。小柄で童顔で、笑っても怒っても黒目のうるっとしたところが何とも可愛い。「学校に来るんだから、もっと若い格好していいんじゃないっスか? ポニーテールとか似合いそうだし」って俺が勧めたら、次からきっちりポニーテールで来るところなんかものすごく可愛い。何より声が最高に可愛い。頑張れ、俺。明るい未来はすぐそこだ。
「ひとつ、緊急の仕事があるんだけど」
「ぜひ。ぜひ」
「レポート提出が終わってるなら、お願いしても大丈夫、よね…?」
「もちろん、大丈夫」
そして俺は外へ出た。
アンドウ・タクミ、十九歳。ロジャーズ登録番号JP0M81772。バックアップは極東Cチェイン。お供は毎度のインコが一羽。
今回のログ漁りは南の無人島で、だとさ──。リゾートで宝探しとは、なかなかいいご身分じゃないか。俺は意気揚々と穴蔵を後に南の島へと旅立った。




