砂の城址 01
「あーあ。どっか行きてえなぁー」
椅子の上で思いっきり伸びをすると、安い背もたれと首の骨が同じようにばきばきと音をたてた。
学校に提出する三本目のレポートはまだ白紙。けど、二本目までは期日内に提出できてるんだから、今回も何とかお目こぼししてもらえるだろう。
そろそろバイトを入れないと生活がきつい。特にコンゴウ、お前のエサ代がかさむんだ。
伸びをしてひっくり返った視界に、あざやかな山吹色の羽毛に包まれたそいつの尻が見えた。止まり木の上でさも窮屈そうに片方ずつ翼を広げ、ぶるっと腰を震わせる。俺がむっつりと見上げてるのは先刻ご承知だ。
「クソすんなよ、おい」
わざと嫌そうに言い放つのも、これ見よがしに尻を振りやがるのも、互いのストレス発散法なのだ。けれどそれも限界が近い。もう三日もこの穴蔵から出ちゃいない。太陽光集積器経由じゃない、ナマの日の光を全身に浴びたい。吹く風の匂いを嗅ぎたい。そんなことを口にすると周囲の連中は必ず「ありえねー」「信じられなーい」って顔をする。けれど俺は突っ張ってる訳じゃなく、本心からそう願ってるんだ。
とりあえず学校へ顔を出してみよう。レポートの件は学務課の担当に情けない声ですがりついて、それから学食で昼メシ食って、適当なバイトでも探すことにしよう。
叩きつけるようにペンを置くと、驚いたコンゴウが首を伸ばしてぎょえっと鳴いた。
「学校、行ってくるわ」
「ガッコ、レポート。レポート、オワンネー」
「うっせーな。まだいいんだよ」
「イインカヨ。レポート。レポート」
いつもの甲高い罵声に見送られ、俺はプライベートルームを後にした。穴蔵からトンネル経由でターミナルへ。三段下がって二段上がる。どこまで行っても穴蔵ばかりだ。確かにここは安全で、人恋しい時にはありがたい。けど、今はどうにもうんざりだ。
仏頂面のまま学校に着いた俺は、学務課のオバサンを拝み倒し、スリーA定食を五分でかっ込むと、ロジャーズの案配屋を探してグリーンコートの裏へ向かった。