君を知る。
沙紀を家に送り届け家へ直行。沙紀は果たして家ではどのようにして過ごしているのだろうかと余計なお世話改め余計な思考を巡らせているうちに自宅に到着。ちなみに上記の余計は俺にとっての余計だ。
「ただいまー。」
靴を脱ぎ、リビングを一望。誰もいない。唯の奴まだ帰ってないのか。
俺の部屋は2階の突き当たりなので、そのまま階段を上る。うちの階段は恐ろしく急で、一歩一歩が確かな足取りになってしまう。少しは西武の監督を見習え。
階段を上り終え、さあ寝るかと意気込んでいると後ろから悟空もかくやというぐらいのオーラを感じた。はて、家族にスーパーサイヤ人なんていたかな。もしかして空から落ちてきたとか?やめてくれもうSFは間に合ってる。やるんだったらお隣りの小灰さん家の方がいいぞ。この前、息子がUFOにさらわれちゃってぇ、とかママさんがほざいてたぞ。助け出してやれ、お前そういうの得意だろ。
「...お兄ちゃん。」
おや、あっちは俺を知っているらしい。
しかも女の声でお兄ちゃんときたもんだ。まさか百〇繚乱か?おれは知らない女とキスするほど軽くはないぞ。ついでに知らない男とキスするほどのビッチともしたくない。してもいいのは、うーん...、顔だけは良い島崎さんぐらいかな。
「お兄ちゃんってばッ!!」
肩を捕まれ、強制的に振り向かされる。あ、唯発見。分かってたけどね。
「何だ、唯。」
「何だ、じゃないわよッ!今朝は急に出てっちゃうし、メールしても返信くれないし...。」
え、まじ。えーと、あ、あった。どれどれぇ。って...。
受信BOXが唯で三分の一埋まってるんだけど。しかもどのメールもコピー使わないで違う文だし。
「その...、何だ。....悪かった。」
謝るほかなかった。
流石の俺でも罪悪感を感じる。つか、こいつ優等生だったよな。なのに授業中にまでメール送ってるし...。ヤバい、これ以上考えると更に傷が深くなりそうだ。
「どうした?何か聞きたいことでもあったのか?」
なるべく優しい声色で話し掛ける。
「昨日の深夜どこ行ってたの?」
それか...。いや大体予想は出来てたけどね。
しかしなんて答えたもんだ。
「あーっとなぁ...、その...、ビデオ借りに行ってた。」
俺は馬鹿か。
「......。」
ほら沈黙だよ。何やってだよ俺。
そんな風に一人で被害者加害者を演じていると、唯の口からまさかの助け舟が。
「...Hな奴?」
さて、これは頷いていいのだろうか。俺の中枢神経は“これは悪魔の契約だ!!”と叫び回っている。んなこと分かってるよ。しかしあっちがバレるよりは数倍マシだろ。
「...そうだ。」
やはり覚悟を決めても、多少の葛藤が生まれ即答は出来なかったが答えることはできた。まあ葛藤つってもくだらないものばっかだが。例えば、これを餌にパシられたりしないかなぁとか、親にチクんないかなぁとか。しかし唯は満面の笑みを浮かべ、
「そっか、ならいいや!」
とかぬかしやがった。
「まあお兄ちゃんもお年頃だしねぇ。」
だから何なんだ?それは唯が喜ぶことなのか?またしても女との思考回路の違いがでてしまったな。これはもう全女性がそうなのだと諦め、順応した方がいいのだろうか。
「じゃもう一個質問。」
「何だ?」
「最近やけに妹さんと仲良くない?」
「ッッ!...、全然そんなことないぞ?」
ピンポーン
「沙紀だよー。××君居ますかー?」
「...お兄ちゃん?」
「ハッハッハハッハッハ。」
「ね~ぇ~、××く~んってばぁ~。」
いけないッ!唯は妹が沙紀になってる《自分で言っておいて訳分かんねェ!》ことを知らない。よって唯には妹がもう晩飯時って時間に我が家を訪問し自分のことを沙紀と呼びながら、俺を君付けで呼んでいるという摩訶不思議アドベンチャーに思えてしまうわけだ。どうしようどうしよう。「早く開けろーい。」まずは玄関のクソアマからだッ!
「唯、ちょぉ~っと待ってなさい。」
猛ダッシュで唯の前から逃走本日二回目。
「あっ!ちょっとお兄ちゃんっ!」
悪い唯よッ!今日だけは勘弁してくれ!
ドタドタドタドタ!
ガチャッ!
「あ、やっと来たッ!」
「やっと来たッじゃねェェよッ!」
珍しく喉が痛い。今日だけで一年分は叫んだな。
「こんな時間に何の用だ。」
やっとこさ落ち着いてきた俺の心。
「ご飯作りに来たよ!」
また暴れだしたよマイハート。
はぁ、これからどうなんだよ。
なぁ、答えてくれよ。
妹。