ボランティア精神ってつまるところ自己犠牲なんじゃねェの?だとしたら主人公は大抵自己犠牲野郎っつーわけだが、俺はどうだ?
餓鬼は天才。
なんだかんだあったが目下の目的は登校である。
沙紀とアメリカンなジョークを交わしながらお天道様の下を闊歩し、やがて我が寺子屋ver.高が見えてくるだろうという所で、沙紀が暴走。
彼女曰く、「何であんな待ったのに手ェ繋いだり腕組んだり押し倒してきたりしないのッ!?」とのこと。脳に深刻な障害を抱えていると思われるので至急最寄りの病院へ搬送して頂きたい。そしてそのまま入院してしまえフォーエバー。
んでもって到着。
周りの一般ピープルから不躾な視線で見られるのには何か理由があるのだろうか。俺の下半身で最も大切かつ最もデリケートな部分を社会の目から匿ってくれている社会の窓ことチャック君が珍しく仕事を忘れちゃったのかなと冷静に推測し、それを視野内に捉えてみたのだがそこにはいつもの如く仕事に生きているチャック君の姿があるだけでいやはやさっぱり解らないと首を捻るだけの結果に終わった。
しかしその謎は俺の左腕に広がる柔らかな感触であっさりとまるで幼児が作った積木造りの築30秒庭無し車庫無しローン無ししかしながらその姿だけはとても前衛的な家をただの瓦礫に戻すように容易に解けた。
胸当たってるとか。
ごほっ。
周囲にばれないよう細心の注意を払いながらその慎ましやかな丘を腕から離す。
ぎゅっ。
げほっ。
再度試みるが、まるで金剛力士像に腕を組まれているかのようにビクともしない。まあ組まれたことないから分からんが。
しょうがないのでそのまま教室へ向かった。
沙紀は順調に学校へ浸透していった。休み時間なども他の女子生徒達と談笑して過ごし、時々「沙紀まぢウケるー。」等々の沙紀への称賛の声が聞こえた。そいつの話しはそんなに面白いか?俺は殺したくなったが。俺とクラスの女子の思考回路がここまで違うとは。この様子では相互理解なんて夢のまた夢そうだ。逆に一周回って正夢になりそうなぐらいには遠い。うーん、自分で言っておいてなんだが理解不能だな。まず自分と理解し合わなければ。まあ結論、他大多数の女性がこいつらと同じ思考回路でないことを祈るばかりだ。
下校時刻という生徒の自主性を飛躍的に上昇させる逢う魔が時的な時間帯が過ぎ今俺達が歩いているのは、学校から我が家への通学路にある廃れた商店街だ。廃れた、と言ってもまだ営業している店もあるし最近コンビニも出来たしと未だに客の足は減っていない。悪いところを挙げるとすれば何故か毎回町内会長が闇金に手を出し夜逃げするという呪いめいたというか呪いがあるところか。そのせいで誰も会長に立候補しなくなったのも、この商店街の衰退化に一役買ったのだろう。
「さっきから何ぶつぶつ言ってんの?」
モノローグを読むな。いやこの場合聞くなか。俺の心を聞くな。なんとも哲学的になったが、一歩間違えればまだ日本語理解しきっていない子供の書き間違いと見做されかねない。子供の心が常に哲学的なのはこれが起因してそうだ。家でじっくり考察してみよう。
「何も言ってない。」
ぶっきらぼうに言い返し歩を速めた。すると後ろから異音同意な擬音が後をついて来た。
たったったったっ。
ぺちっぺちっぺちっ。
いやぺちって。
振り返るとそこにはやはり裸足の沙紀がいた。そんなことしたって第三次世界大戦は起こらないぞ。某げんさんだって為りたくて裸足になった訳じゃないんだぞ。
「靴は?」
端的に修飾を取り除いた一文で懐疑の意を示す。
「知らん。」
殺すぞクソアマ。
おっと、口に出すところだった。偉いぞ俺。
「予備は?」
「あるわけないじゃん。」
「殺すぞクソアマ。」
うん俺は悪くない。たとえ目の前で泣く寸前みたいな顔をした女の子がいても、たとえ足から血が滲んでいようと俺は悪くない。
んじゃあ悪くないついでに善いことも。
走って近場の靴屋へ行き、安めのビーサンを買う。そして元の位置へ原点回帰。
「ほら、これ履け。」
いやぁ、ボランティアってのは気持ちがいいな糞野郎。
あと、追尾機能付き人型足音が多少仕様を変えたようだ。
たったったった。
ぺたっぺたっぺたっ。
まるでスキップをしているかのようなゴムの破裂音。
そしてそこに真実の喜色が含まれているのは既知の事実だろう。
俺にとってはな。
そして呟く。
性に合わねェ。
先天性と後天性に差はあるのか。否、無い。