名前ねーむ
俺はこれでもかなりの小説を読んできた。
しかし、それは俺の頭の中でちゃんと肥やしになっているのか。
甚だ疑問である。
だって未だに雷がなるとテンションが上がっちゃうんだもん。
大変不思議なことに俺の名前を知っているクラスメイトはこの世に存在しない。別に隠しているわけでも、偽名を使っているわけでもない。
勿論、俺の名前を知ると死ぬなんていう某いーちゃん的な呪いが無いのは言うまでもない。
ただ単純に知らないだけ。俺に興味やら関心やらを持ってくれる人は居ても、誰ひとり例外無く俺の名前は知らない。
たとえそれ以外の事全てを知っていたとしても、だ。
すなわちそれは、俺がこの世に存在しないのと同義であろう。
名前を知らないということは、つまりそういうことなのだ。
そして俺に名前を授けた親でさえ、その名前を知らなかった。
何故。
何故誰も、俺の名前を知らないのか。
それを知るための真相は、もう深い闇の中だった。
俺は、諦観していた。
筈なのに、
「私と××の仲じゃない。」
揺らいでしまった。
俺の中の篠澤妹という存在が、揺らいでしまった。
妹は、俺の名前を知らなかった。
幼かった時はお互い名前で呼び合っていた気がしなくもないが、いつからか、知らなくなっていた。
それに気付いた時の俺は、悲しんでいた気がする。
いや、喜んでいたかな。
ハッキリと思い出せない。
つまり、その時から諦めがついていたのかもしれない。
自分の人生に。
しかし、妹だけは俺を固有名詞で呼んでくれた。
まぁ、世間一般で言うところのニックネームって奴だ。
俺は喜んだ。
表面上だけは、だが。
一応そのような事があったから、妹とは距離を置かないで交友関係を保った。
俺の中の優先順位一位が妹だったのだ。
しかし揺らいだ。
その揺れ幅は、余りに大きく、そう安々と修正できるものではなかったのだ。
だってそうだろう。
今まで俺の存在を支えてきた物が、たった一語で崩壊するなんて知りたくないじゃないか。
がしかし、事実は事実なのだ。
認めるしか道はなかった。
俺の中の優先順位に、大きな変化があったことを。
俺が、篠澤妹より、この電波発信しまくった挙げ句俺の腰に腕を巻き付けて自分でさえ忘れかけていた俺の名前を耳元で呟いてきた糞ビッチの方に惹かれている事を。
いやあ、まどろっこしいな。
ここは男らしく堂々と言おう。
つまり、
貝口沙紀に好意を抱いているという事を。
まだ、面倒くせぇな。
もっと、
簡潔に、
一言で、
貝口沙紀の事が好きになってしまったという事を。
あぁ、これだ。
この言葉だ。
まぁ、好きになった理由は少し不純かも知れないな。
妹の体+その性格のコンビネーションがマヂいいとか。
色っぺぇとか。
今胸が当たってるとか。
俺の名前を知ってるとか。
今、雷なった。
イヤッホーイ。