深夜が危ない理由
友達の勧めと塾の勧誘に、差などあるのか。
周囲を知るためには心許ないが、無いよりはマシだろうと思い持ってきたペンライトがここまで重宝するとは。そう感嘆の念を抱いている俺が今居るのは、近所の公園へと続く川沿いの道である。空にはまるで猛獣に噛み付かれたかのように欠けている月と数え切れないほどの星が瞬いていた。現在午前4時。もうそろそろ東の空が橙に染まってきてもいい時間だというのにその気配は一向に無い。それどころかさっきより一層闇の深さが増したように思える。そして、篠澤と落ち合う時間まであと10分。
時間は1時間ほど遡る。メールを見た俺は何かの間違いかと思い篠澤に確認のため返信を打った。しかしその返事は俺の欲していた情報とは百八十度違ったものだった。
××公園に4時過ぎ集合。誤差は±10分以内。
以上の文だけで構成された俺宛てのメッセージ。いつもなら絵文字やら顔文字やらをこれでもかと詰め込んだ象形文字かと疑いたくなるようなメールなのに、今回のは素っ気ないというかまるで機械が打ったような、そんなどことなく人間味を感じないメールだった。余談だが、一度だけ篠澤にメールが読みづらいからしなくていいかと尋ねたらマジ泣きされたことがある。しかしそれほどまでにメールに思い入れのある篠澤がこんなメールを寄越すだろうか。
いや、有り得ない。
言い知れぬ不安が俺の体を這い廻った。そして、気付いた時には俺の体は動いていた。必要最低限の物だけを手近にあったバッグに放り込み、ハンガーに掛かっていたジャケットを羽織る。その際の一分一秒さえも惜しく感じた。隣の部屋で寝ている妹〔こっちはイモウト〕を起こさないよう気をつけながらも自身最速の速さで玄関へと走る。ただしその姿はアメンボのそれを正確にコピーしたような動きでなんとも気色の悪いものだった。
玄関のドアを音もなく開閉、摺り抜けてお年玉を全額はたいて買った自慢のマウンテンバイクに跨がる。そして、漕ぐッ!一心不乱に、ただ全神経を前方へ向けて。勿論ながら途中通り過ぎた篠澤の家の電気は全て消えていた。
これでドッキリだったらどうしよう。
そんないらん不安まで考えている俺は異常なのだろうか。
公園に着いたのは4時5分。今までの人生でベストタイムだった事は言うまでもない。
そして今へと戻ってくる。回想をしているうちに5分が経過していた。そして、
「早いね。」
篠澤妹が現れた。
押し売って何が悪い。それが俺のモラルだ。