ぐっばいreality
「いぃや、誰も。」
俺は予め用意していた台詞を機械的に口にした。
「....ふぅん。」
あまり信じてないご様子。まあそれが普通なのだが。つまり唯が異常。
「んで、お前はどうしたんだ?」
さっさと話題を変えるべく間を開けずに話し掛ける。
「ぅん~、...まぁいいや。」
早くも諦めてくれたようだ。よかったしつこい女じゃなくて。あぁ、妹じゃなくて沙紀のが方だよ。
「そか。んじゃ、わりぃんだけどもう寝させてくんねぇかな。さっきから体調悪くて。」
これは事実だった。あの女が帰ってからやけに頭痛がする。油断したらまた吐きそうなぐらいだ。
「そ、そーなのっ!?ごっごめん気づけなくてっ!」
この反応からして、直ぐに部屋からは出てくな。良かった。
「良かったら私が看病するよっ?」
全然良くない。いやに話が上手く進むなと思った矢先にこれか。まあそんなご都合も期待しちゃいねぇけどさ。
「いや、一人で大丈夫だか...ら。」
途中に点が入った事のは別にあの女の口調が移ったからという訳ではない。何故か沙紀が、目に涙を浮かべて何かをこちらに訴えかけてきていたからだ。
「.....。」俺の沈黙。
「...。」沙紀の無言。
「.......何。」
「うるうる。」
口で言うなよ。残念度が上がって可愛さが半減すんだろ。
「.......どぉすっか。」
沙紀に聞こえない程度でぼやく。
沙紀が何を言いたいのかは勿論分かる。分かっている。皆も分かっているだろう。がしかし、それは些か危険過ぎないか。江戸幕府で例えれば、親藩大名の位置に外様大名を配置しちゃうぐらい思い切った行動だぞ。どーする。どーする俺!!
「.......ダメなの?」
「いや別に構わねぇよ。」
くっ!そんなの反則だろっ!滅多に見せない沙紀のしょんぼり顔とかベタ甘ボイスとか上目遣いとか良い匂いとかおっぱいちらちら。
「やたっ!!」
小さな挙動で大きな喜びを表現するという器用なマネを見せてくれた沙紀は、布団取ってくると言い残して家に戻っていった。
「はぁ。」
なんだか今日はドッと疲れたな。色々有りすぎた。思い出すのが面倒だから回想はしないけど。てか沙紀が泊まるって唯に伝えないと。いやでも言ったら言ったでまた喧嘩にでもなりそうだから黙っとくか。
そんなくだらない事を考えているうちに、俺はいつしか深い眠りに就いていた。
そして、
夢を見た。