第3話 「連合艦隊」の常設化
ともかく、こういった背景から、日本海軍は、対米戦に備えた軍備を調えることを目指すようになります。
更に言えば、皮肉極まりないことに、第一次世界大戦以前の米国政府は軽軍備を志向しており、日本政府が海軍の軍事費を増大してくれれば、何とか米海軍と対等な日本海軍建設が可能なように、日本海軍上層部を始めとする対米強硬派の面々には見えていたのも、(私からすれば)悪い事態を招きました。
ですが、第一次世界大戦の勃発、更には、結果的にですが、日本が煽ったと言える第一次世界大戦後の海軍主力艦の大量建造は、それこそ世界の世論から批判を浴び、又、第一次世界大戦で疲弊した大国の国力に影響を与えるまでになります。
そうしたことから、1921年に海軍軍縮条約を始めとする様々な条約に基づくワシントン条約体制が成立する事態が起きます。
そして、細かに述べだすと、数万字は掛かる話になりますが、要約すれば日英同盟は廃棄され、対米6割の主力艦が日本には認められる事態が、ワシントン条約によって起きることになったのです。
この辺り、後知恵が多々入りますが、私としては色々な意味で悪い事態を、ワシントン条約体制は結果的に引き起こした、と考えざるを得ません。
例えば、ワシントン条約締結交渉時に、英国政府は中国本土の反英活動の懸念から、日英同盟を緊急時には復活させようという動きを示していました。
しかし、日本政府は、対米海軍戦力の確保等を優先する余り、英国政府の動きを断ります。
その結果、英国政府は日本政府が日英同盟復活反対をいう以上、日英同盟完全廃棄は止むを得ない、と判断する事態が起きます。
そして、日本は単独で対米戦に備えざるを得ない事態に陥ることになりました。
ここで主力艦が対米6割というのが、悪い意味で日本海軍上層部等に影響を与えます。
6割の戦力があるのだから、それなりに工夫すれば、対米戦に勝算アリという声が湧く事態が引き起こされることになったのです。
その為に猛訓練を行うべきだ、それによる質的向上で対処できる筈だ等の暴論が起きます。
(尚、そうは言っても、日米の圧倒的な国力差から、日米戦争で日本の勝算は皆無な筈なのですが。
それこそ現時点での戦力をもってすれば勝算アリ、という暴論が起きるのも、現実世界で他のことでもよく起きるのが、何とも皮肉な現実です)
そうしたことから、「連合艦隊」を常設して、対米戦に備えた戦備を調えようと言う動きにまで、問題が広がることになりました。
更に言えば、常設化された「連合艦隊」は、これまでの経緯から、対米戦の際の艦隊決戦に勝利を収めることで、日本に勝利をもたらす為に存在する存在になってしまったのです。
更に言えば、日本海海戦の伝説的大勝利が、東郷平八郎連合艦隊司令長官によってもたらされたという神話(?)までがあったことから、「連合艦隊」は東郷元帥の権威、カリスマも相まって、神秘的といえる存在にまでなってしまいました。
そうしたことが、本来からすれば、軍令部の下部組織で、軍令部の命令に唯々諾々と従わねばならない筈の「連合艦隊」の地位上昇を引き起こします。
連合艦隊司令長官は海相や軍令部総長と並ぶ海軍三顕職の一角を占める存在になり、国民世論の間からも、連合艦隊は特別な存在になっていきます。
そうしたことが、太平洋戦争突入前後から終結直前に至るまで、連合艦隊司令部が、軍令部や海軍省に対してまでも、自分の意見をしばしば貫いて、下剋上的事態を引き起こすことになった、と私は考えています。
それこそ真珠湾空襲にしても、本来の立場、地位からすれば、「連合艦隊」は軍令部の指示に公然と逆らえない立場なのです。
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