8.違う文明
意味はわかります。後半の言語は謎ですけど。
「はい。わかりますよ。大丈夫そうです」
「良かった! 英語話せって言われたらどうしようって思ってたから! こんばんは、わたしは魔法少女シャイニーライナーです。あなたの名前はなんですか?」
「フィアナです。こっちはユーリくん」
「狼さんユーリって言うんだよろしくね! ねえモフモフしていいかないいよねやったあ! モフモフぶえっ!?」
ラフィオさんの上からジャングルジムまで走ってきたハンターがユーリくんに飛びつこうとして、後ろ足で蹴られて地面に落ちました。
「まったく。だからやめろと言ったんだ」
「だってー! モフモフしたいもん! ラフィオー!」
「はいはい」
白い獣に抱きついたハンター。
その近くに男の人も来て。
「樋口から、とりあえず俺たちの家に連れ行ってくれって指示があった。狼と、弓を振り回す女の子をさすがに見過ごせないから」
「たしかに、なんか怪しい格好してるわよねー。ファンタジーっぽいというか。明らかに、この街の住民とは違う」
「だってさ。フィアナちゃん、一緒に来てくれる? 家はすぐ近くだから。それか、フィアナちゃんにも帰る家があったりする? お父さんやお母さんに連絡はできる?」
「家はありますけど、ずっと遠くです。父も母もそこにいます。とりあえず、皆さんの家に行きますね」
どうも彼女たちは敵ではなさそうです。何者なのかは不明ですけど、魔法少女と言ってました。
魔法に関連する人たちならば、元の世界に帰る手がかりもわかるかもしれません。
「それでいいですよね、ユーリくん」
「ガウ」
静かに返事したユーリくんはジャングルジムから飛び降り、裸の少年の姿になりました。すぐにローブで体を隠します。
「えー!? モフモフは!?」
「やっぱり、人と獣の姿を行き来できるのか。ますます僕と一緒だね」
「ラフィオー。モフモフさせてー」
「……いいよ」
「えへへー」
ハンターがラフィオさんにしがみつきました。幸せそうな顔をしています。
変な子です。
魔法少女のお姉さんに抱きかかえられて、ものすごい高さまでジャンプしたりして、大きな建物の一部屋に連れて行かれました。これが魔法少女たちの部屋らしいです。
足を挫いていると言えば、ソファに座らされて、氷の入った袋を当ててもらえました。痛みはだいぶ引いてます。
え。それ氷ですよね? わたし、雪国に行った時にしか見たことありませんよ。氷の無い地域で氷を手に入れるのは、よほどの貴族にしかできないと聞いています。
なのにこの世界では、治りかけの怪我の治療に使われてしまうのですか。
テレビという板の中で人間が動いています。情報を探すための道具らしいです。こんな凄いものなのに、大した情報は無いと彼女たちはすぐに消してしまいました。スマホという、小さい板の方が情報取得には役立つそうです。小さい方が良いっていうのも、変ですね。
天井の照明にな炎の揺らめきは無く、けれど炎よりも明るく部屋を照らしています。
驚くべき世界に、圧倒されっぱなしです。
「じゃあ、教えてくれるかな? フィアナちゃんたちが何者なのか」
わたしとお喋りする担当に名乗り出た黄色い魔法少女、遥さんが正面にしゃがみました。彼女には左足がありませんが、義足をつけて普通に動いています。
ラフィオさんと青い魔法少女だったつむぎさんが、キッチンに立っています。悠馬さんとアユムさんも手伝っています。愛奈さんは綺麗に着色された金属の筒に口をつけていました。お酒の保管容器らしいです。
この世界にもお酒があって、キッチンは食事をする所。そして食事はみんなの楽しみというのは共通らしいです。
なんだか、少しだけほっとしました。彼らはれっきとした人間なんだと思えて。
なので、こちらの事情を話します。
魔法がある世界で冒険をしていて、オークとかゴーレムとかゴブリンと戦っていたと説明すれば、驚かれました。でも、受け入れはしたらしいです。
「まあ、僕も異世界出身だからね。そういうものがあるのは、理解しているとも」
作り終えた料理を運びながら、ラフィオさんが話します。
「ラフィオの生まれたエデルード世界以外にも、違う世界はあるのか?」
「直接見聞きしたわけじゃないけれど、存在は知っている。神様が色々作るわけだからね。模布市に魔力が満ちているのも、異世界での出来事が原因だ。魔法が支配的な権威となっている世界からの侵略で、この地に魔力が植え付けられた」
「美里さんが侵略を食い止めたんだよねー」
「知らなかった……」
ラフィオさんとつむぎさんだけが知っている事実らしいです。
その異世界も、わたしの世界とは別物でしょう。わたしの世界にも魔法はありますが、使える人間は少数ですから。
「異世界っていっぱいあるんだねー」
「モフモフがいっぱいの異世界もあるんでしょうか」
「あるかもね。君たちはそんな世界のひとつから、こっちに来た」
「はい。向こうには仲間もいます。戻らないと」
「なるほどね。もう少し教えてくれるかい? 向こうで何があったのか。ああ、こっちで何があったかも話すべきだね」
今度はラフィオさんたちの話を聞きます。