43.入れ替わり
残念ながらラフィオには出来ない芸当で、揺れるユーリに必死にしがみつきながら、時間をかけて裂け目の修復をするしかなかった。僕だって愛とか、そういうの好きなんだけどね!
裂け目の両側にしっかりと糸を絡めて、引っ張る。裂け目がだんだん狭くなり、完全に閉まった。そこにさらに魔法を放ち、糊で固めるように塞ぐ。
そこには元から裂け目などなかったような出来栄え。ラフィオの地道な努力が実を結んだ形だ。いや、形はそこに無いのだけどね。元通りの虚空が存在するだけ。
「よし完了だ。バギャウヴァを殺しに行くぞ」
「でもユーリくん、違う世界に向かってますよ」
「どっちに出ても、すぐ穴をくぐって行けるからいいけどね」
ユーリの体は異世界側へとゆっくり近づいていった。あいにく、近くに足場となる怪物の死体はない。既にみんな蹴飛ばして遠くに追いやったし、新たな死体の供給もないしね。
暗闇の中で魔法陣はひときわ輝いて見えて、そこに吸い込まれていく。初めてのことじゃないから、ラフィオも気楽にそれを迎えて世界へと出てきて。
「みぎゃー! フィアナちゃん! 戻ってきていきなりで悪いんだけど! 手伝ってください! 数が多すぎます!」
騒がしいリゼと、それも納得な戦場に相対することとなった。
空を覆うばかりに大量のプテラノドンが飛んでいる。街を守る柵なんてお構いなしに内外を飛び回り、いくつかは遠くまで行ってしまいそうだ。もちろん空だけではなく、地上にもニワトリをはじめとした怪物たちが多く暴れまわっている。
街の兵士も出動して戦っているけれど、数が多すぎるし柵の外の敵の警戒も必要だしで全力を出せないでいる。
「なんかね! 外でもゴブリンが大量に押し寄せてるらしくて! たぶん森の中の怪物が動いたんだと思う!」
「タイミング悪いね!」
「だよね! 今じゃなくていいじゃんってなるけど! とにかく頑張らないと! てかコータ頑張って!」
「頑張ってはいるんだよ!」
コータが空に手を向けてファイヤーボールを放っている。巨大な火球が、空飛ぶ怪物を数体まとめて焼き尽くした。
それは立派だけど、狙いが甘い。もっと敵の密集しているところを狙えば効率がいいのに。
「ほら! コータ! あっち! あそこ狙って! プテラノドン? が大勢いる!」
「嫌だ指さすな見たくない!」
コータは空を見つつ、なんとなく視線を逸しながら攻撃していた。そりゃ、狙いもずれるか。
「あいつの羽、コウモリみたいで苦手なんだ!」
「もー! コウモリじゃないってば! プテラノドンだよ? ほらあれだよ。コータの世界の食べ物! カツ丼とか天丼みたいなものだよ!」
「全然違うからな! 丼じゃない!」
「フィアナちゃんハンター! コータがこんなのだから、代わりになんとかしてください!」
「はいわかりました! ユーリくん行きますよ!」
「ガウッ!」
三人を乗せたユーリが駆け出して、近くの建物の屋根に飛び乗った。フィアナとハンターは弓を空に向けて、次々に矢を放って敵を落としていく。
落下したプテラノドンがぶつかりかけた兵士が悲鳴を上げた。気をつけてくれ。飛ぶ敵は殺したら落ちるんだよ。
そんな混乱する兵士に混ざって、カイの姿があった。落ちてきたプテラノドンの首を掴んで振り回し、近くにいたニワトリを三体まとめて薙払っている。
リゼがいる建物の屋上にはロジャーと香花もいた。ロジャーは手を地面に向けて、地上の敵に魔法を放ち攻撃している。香花には攻撃手段はないから、魔法の石を持ってじっとしていた。ふたつの世界を見守り、異変があれば皆に知らせる仕事かな。
魔法の石自体は知識があれば魔力の無い者も使えるから、香花にもできるわけだ。
みんな仕事をしている。そしてラフィオ自身は。
「ハンター。僕も獣になってユーリとは別行動で戦おう」
ユーリに乗ってるままだと、ラフィオに戦う手段はない。ユーリの方は、地面に降り立ちニワトリを何体も蹴散らして噛みつき、無力化していた。僕もこういう戦い方をすべきだ。
「そうだね! やっぱりラフィオのモフモフが一番だから!」
「そういう意味ではないけど。乗れ」
ユーリから降りながら獣になろうとした瞬間だ。ユーリが急に方向転換した。ニワトリが横から襲ってきたから、避けたんだな。
「うわっ!」
「うわー!?」
ハンターもフィアナもバランスを崩して地面に投げ出される。そこにニワトリが迫る。
既に獣になっていたラフィオは、そのニワトリに体当たり。細い首に噛み付いて捻れば、ゴキリと音がして折れる。
ちょうどその時、背中に重みを感じた。ハンターが乗ったか。
「よし行くぞハンター! ユーリフィアナ、僕たちは街の門の方に行く!」
そっちにもプテラノドンが多い。ゴブリンに備えている兵士を狙っているのだろう。それを援護したい。それにゴブリンや怪物についても興味があるし。
けれど。
「あの。わたしフィアナ、です」
「えっ」
ちらりと上を見た。たしかに背中にフィアナが乗っていた。
「慌てて起き上がって乗ったので、間違っちゃいました」
「そっかー」
後ろを振り返る。既に駆け出していたラフィオから見て、ハンターとユーリは遥か後方にいた。
向こうも困ってるようだった。
両者の間にニワトリどもが入り込んできたから、再合流は手間だな。状況が切迫してるのもあるし、このままやるしかない。




