4.街の中心
「ファイヤーボール!」
コータさんの火球がニワトリの群れの中心に直撃。奴らを黒焦げにしながら道を切り開きました。
「フィアナ、こいつらいきなり出てきたって言ったよな? 街の外からってことか?」
「いえ。それもわかりません」
「そうか。変に思ってたんだ。奴ら、どちらかと言えば街の中心部から来てるように見えた」
ですね。前進するニワトリたちに正面からぶつかってすれ違ったユーリくんは、中心部に向かっています。
そこからニワトリが発生して、街のあちこちに向かってるらしいです。ドラゴンも同じ場所から出てきたと考えるべきでしょう。
でも、街のど真ん中から怪物が出てくる理由が謎です。
「他に手がかりはないか?」
「本当にわからないんです。街の宿にユーリくんと泊まってて、ウトウトしていたユーリくんを、わたしがベッドに腰掛けて膝枕してたら、急に外から悲鳴が聞こえて」
「膝枕!? なになに? ふたりってそこまで関係進んだの!?」
「そうなんです! ユーリくんの故郷で、なんか恋人ってことになって。ユーリくんのお父さんにもそういう風に紹介してもらって。だからわたしたち、付き合ってます!」
「わー! ふたりともおめでとう!」
「えへへー。ありがとうございますリゼさん。これ、結婚まですぐやっちゃっていいんでしょうか!?」
「やっちゃえやっちゃえ! 子供が結婚しちゃいけないなんて決まりはないから! あ、でもフィアナちゃんのご両親には、ちゃんと挨拶した方がいいかもね」
「わかりました! 次の目的地が決まりましたね!」
「だね! ねえ聞いたカイ? フィアナちゃんとユーリくん付き合ったって。カイものんびりしてられないよ?」
「カイさんにもそんな話があるのですか!?」
「うん! 聞いてよ。カイの故郷に行ったでしょ? ベルって子がいたの覚えてる? あの子がねー」
「なあ! 今それどころじゃないと思うんだけど!」
カイさんが遮るように声を上げます。隠したいことなんでしょうね。後でリゼさんから聞かなきゃいけませんね!
でも、カイさんの言うとおりではあります。街の中心部から、今もニワトリが出ています。見れば、他の怪物の姿もチラホラと見えます。頭に角がついた蛇とか。トゲトゲの背びれがついたトカゲとか。それぞれ大きくて、人が襲われたら危険です。
コータさんがそれにファイヤーボールを放って黒焦げにしていますが、全部は無理です。数が多すぎます。こちらを襲ってくる敵の対処で精一杯です。
わたしもリゼさんに体を押さえてもらいながら、矢を放って敵を一体ずつ倒していますが、やはり全部は無理です。
とにかく今は発生源を突き止めて、それを塞ぐのを優先させる方針です。
「でもリゼさん。発生源ってなんですか?」
「わからないけど、召喚魔法とかじゃないかな? というか確実に魔法が関わってるね。わたしにはわかる」
「なんでですか?」
「魔女の勘です!」
得意げな顔をしながら、リゼさんは無い胸を張ります。
「リゼさん魔法に詳しくないじゃないですか。いい加減なこと言わないでください」
「いい加減じゃないんだけど!? どう考えても、こんな大きくもない街の中に大量の怪物を隠すなんて無理です! だったら魔法で召喚してるんだと思います! なんかこう、コータを召喚した時みたいに!」
「そんなの少し考えれば子供でもわかりますよ! 魔女関係ないじゃないですか!」
「うぅっ。フィアナちゃんが厳しい……」
「でも、わからないこともあります。魔法で怪物を召喚したとして、こんなに大勢出すのって可能なんですか?」
「コータひとり呼ぶのに、召喚の書を一冊消費するからね。召喚ってそれだけ魔力がいるんだよ。なにか全然知らない現象が起こってないとすれば、この魔法を使っているのは、とてつもない魔力の持ち主だろうねー」
「強敵ってことですか」
「たぶん。わたしもすごい魔力を持ってるんだけどね! えっへん!」
「なんか、急に大した敵じゃないって思えてきました」
「なんで!?」
「みんな集中しろ! あそこに強い光が見える!」
カイさんが一方向を指差して、ユーリくんがそっちに走ります。
「あそこには大きな広場があります!」
「魔法陣を描くのにはぴったりだな! 光の感じもそれっぽい!」
「魔法陣なら術式とか紋様を消せば止まるはず! 急いで! コータ! 前! なんか大きなトカゲ!」
「わかってる! おら死ね!」
体中にトゲが生えたトカゲが大口を開けて噛みつこうとしてきます。その口に巨大な火球が炸裂。上下の顎をふっとばしました。
トカゲの死体を避けながら、ユーリくんが広場に入ります。普段は市民の憩いの場で、石畳で綺麗に整備された地面は確かにお絵かきにぴったり。複数人で座れるベンチもあって、昼間は大勢の人で賑わっています。
そこにたくさんの怪物がいました。
コータさんが魔法で怪物を蹴散らしています。爆発魔法が怪物たちの足元で炸裂して、粉々にふっ飛ばしています。周囲に怪物の残骸と血が降り注ぎます。もちろん、わたしたちの服にもかかります。お洗濯が大変ですね。
その一発が、怪物ごと広場のベンチをふっ飛ばしました。同時に悲鳴があがります。
ベンチの陰に人が隠れていたみたいです。怪物が暴れる中でなんとか身を潜めていたのが、その姿が晒されました。