38.お買い物
悠馬さんたちと一緒に、駅の近くのショッピングセンターへ行きます。遥さんは車椅子に乗っていて、悠馬さんがそれを押します。慣れた道なので遥さんは自力で車椅子を押せるのですけど、悠馬さんにしてほしいそうです。
これが、恋人というものなのでしょう。
わかりますよ。わたしだって、ひとりで歩けます。でもユーリくんに運んでもらう時の方が、なんか幸せですから。恋人ってこういうもの、なんですよね。
今は狼にはできないので、ユーリくんと手を繋ぎました。これも幸せです。
「なあ香花。新宿駅がダンジョンって本当なのか?」
「はい。本当です。わたしもよく迷いますよ。出口を見つけて外に出たと思ったら、道路を挟んだ向かい側に新宿駅の入口を見た時は意味がわかりませんでした」
「おおう。マジですごいな」
「知らないうちに別のビルに入ってたりもしますし。すごいですよ」
「やべえな。一度行ってみたい」
アユムさんも香花さんと打ち解けています。仲良くなれて、良かったです。
ショッピングセンターの食料品売り場には、様々な食材が並んでいます。材料だけではありません。工場で大量生産されたお菓子や料理が大量に並んでいます。お湯を注ぐだけで温かい麺類が出来るものだってあります。
海辺の街ではないのに生の魚を手軽に買えたり、甘いものが簡単に手に入る世界、すごいですね。
パンもフワフワのものばかりで、わたしたちの世界のとは全然違います。
「おお……」
ユーリくんは肉を見て目を輝かせています。この世界に多くある、パックされた肉ではありません。お皿に乗って量り売りされるやつです。ガラスの向こうの肉を、よほど気に入ったのでしょう。
狼の時なら生の肉もバリバリ食べられるユーリくんだからこそ、見るだけでも肉の質がわかるのでしょう。
思わず声が漏れるほど感動してますよ。
「肉も品種改良してるからな。高い肉は本当に美味しい」
「そうなんですか」
「どれどれ? おおう、なかなかの値段するね。でも買っちゃおう。どうせ樋口さんたちが出してくれるから!」
「大人の財布が複数あるの、いいよな」
「だねー。すいません! この肉ください! それからー」
遥さんがお肉屋さんに注文をしているのを見ながら、わたしたちは他の場所を見ます。
ケーキが売られてました。大量のクリームで覆われて、果物も乗っている。すごいケーキです。
美味しそうですね。こんなもの、向こうの世界では王様くらいしか食べられませんよ。
「買うか?」
「えっ。いいんですか」
「いいぞ。これにするか?」
わたしが見ていたケーキを悠馬さんが指差します。頷くと悠馬さんは早速財布を出しました。
ケーキがこんなに簡単に買えるなんて! この世界はなんて素晴らしいのでしょう!
「ユーリくん」
「うん」
「こんなに良い思いができるなんて、わたしたちまるで王様ですね」
「うん」
「いやいや。大げさすぎるから」
「今日はきっと、人生で一番良い日です」
「……」
「これを超える幸せな日なんて、ユーリくんとの結婚式の日くらいしかありえませんよ」
「僕も、そう思う」
「いやいや。他にもあるだろ。それは幸せでいいけど」
「今日という日を、二度と忘れないように心に刻みましょう」
「なんか重いんだよな。嬉しくはあるけど」
ケーキの箱を抱えて遥さんと合流します。パンとかチーズとか、色々買っていました。アユムさんと香花さんも、買い物カゴに色々入れてます。生の魚を米の上に乗せた、寿司という食べ物らしいです。
この世界でも、なんか高い食べ物として知られているらしいです。
その他、同じ建物に入っているお店でフライドチキンを買ったりして帰ります。車椅子の遥さんの膝に、大量の袋が乗ってますよ。それを落とさないように抱えて、悠馬さんが押します。
チームって感じがしますね。ちょっとした傾斜があれば荷物の分だけ重くなりますけど、悠馬さんは軽々と押してます。
力持ちなのはアユムさんも同じで、いくつもの袋を提げて普通に歩いています。香花さんが驚いた顔をしてます。
ユーリくんも負けてませんよ。ペットボトルの飲み物がいくつも入った袋を持っています。頑張ってますよ。ちょっと重そうですけど、しっかり持ってます。
狼化したら楽なんですけど、この世界だと駄目なんですよね。ちょっと不便です。
家に帰れば、知らない顔がいくつか増えてました。
みんな女性です。
「はじめまして。岩渕剛と言います。よろしくお願いします」
「あ。はじめまして。フィアナです」
淡い色のワンピースを着たお姉さんが握手を求めてきたので返します。
「岩渕先輩はねー。女装して魔法少女してるんだよ。ちなみに、そっちの麻美さんの彼氏」
「そうなんですね……ん?」
遥さんの説明に首をかしげます。女装? 彼氏?
「もしかして剛さん、男性ですか?」
「そうだよ。女装は僕の趣味」
「へえー」
この世界だと、こういうのも普通なんでしょうね。数多くいるというわけではなく、いたとしても受け入れられるというか。




