32.突入
ちょうどその頃、外からユーリくんの遠吠えが聞こえました。それに五条院が気を取られるか、少なくとも驚いて動きが止まった瞬間が狙い目。つまり。
「突入!」
セイバーが錠前の箇所を剣で断ち切り、扉を開けます。中に、椅子で簡易的なバリケードが作られています。
あくまで簡易的で、少し積んだだけです。人質を取りながら外を警戒しながらなので、手の込んだのを作る余裕はありません。
わざと大きな声と共に突入したセイバーは、わざと大きな音を立ててバリケードを崩します。当然、五条院も気づいたことでしょう。
扉から入ってすぐ、衝立の役割を果たす壁が見えました。その他障害物が多く、五条院の姿は見えません。
セイバーは構わず、店内をずんずんと進みます。一方でわたしには手のひらを向けて制止を指示しました。
これが悠馬さんの考えた作戦です。小さいわたしが店内に隠れながら五条院を狙撃。武器を扱えなくして人質を救出します。
セイバーが音を立てているのは、自分に注意を向けるためです。
悠馬さんの考えにちゃんと従うセイバーは、信頼しているしされてるんですね。
「こんにちは。わたしのこと知ってるかしら。魔法少女シャイニーセイバーよ。あなたは、ええっと。マルチタスククリエイター? 違ったっけ。とにかく五条院さんよね?」
相手の姿を見つけたらしいセイバーが呼びかけています。その横顔は真剣で、剣を構えているのもあって強そうです。
剣は、五条院が発砲した時に防ぐためです。わたしからは向こうの様子は見えませんが、彼はセイバーに銃口を向けているのでしょう。
「ま、魔法少女……」
「ええ。あなたも模布市民だから、よく知ってるわよね? あなたが見つかったって言うから、駆けつけました。昨日から続く怪物騒ぎ、あなたがデザインしたモンスターと同じものが暴れてるのよ。何か知らないかしら。ああそれから……人質を解放して。わたしが代わるから」
「ひ、人質は、解放できない……俺をここから逃がしてくれ」
五条院の返事は震えるような声でした。
「逃げたい、ね。それは叶えられない」
「なんでだ!? 俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんだ!」
「今のところ、無理よ。こんな事件を起こしてしまったのは周りの配慮の無さからだから、同情はする。でも放ってはおけない。警察は、あなたが怪物を呼び寄せたと思っているわ」
「違う! そんなことはしていない! あいつが、奴が! 俺を放っておかないだけだ!」
「奴って?」
話しながらセイバーが移動します。睨み合いながらゆっくりと。わたしを隠している衝立を背にして、わたしが動けるようにしました。五条院の注意もセイバーに向いていることでしょう。
姿勢を低くして動きます。酒場にはいくつもある机の下に隠れて、五条院の側面をとりました。
三十代半ばくらいの男性で、派手な髪色をしています。若作りって言うんですよね。怯えた顔は年相応な感じがします。
人質は若い女性で、五条院が肩に腕を回して動けないようです。拳銃を持った男に捕らえられ、こっちも怖がってます。
五条院の視線は完全にセイバーに向いています。片腕を伸ばして、銃口もセイバーに向けてました。向けられたらすぐに隠れなきゃなのに、セイバーは勇敢ですね。剣で防げる自信があるのでしょう。
でも、さっさと終わらせましょう。音を立てないように、でも素早く弓を構えて、放ちます。
五条院の手首を矢が貫いて、悲鳴と共に拳銃が落ちます。そんなピンと伸ばしていたら、狙いやすいに決まってますよ。
すかさずセイバーが動いて、人質に回していた腕を掴んで捻りました。また悲鳴が上がります。
「逃げて!」
人質の女性に言えば、彼女は頷いて駆け出しました。
セイバーはといえば、戦意を喪失して座り込んだ五条院を見ながら、窓のブラインドを掴んで引きちぎり、窓自体も開けました。
外には警察がいるのでしょう。
「人質が逃げるから保護して! あと覆面さん! 受け取って!」
「えっ」
呼びかけられた悠馬さんではなく、五条院の「えっ」です。セイバーに胸ぐらを片手で掴まれて、軽々と持ち上げられて窓から放り投げられる時に出る「えっ」です。
わたしも窓の外を見ます。ユーリくんが動いて五条院の落下地点に来て、悠馬さんがしっかり受け取ります。そのまま、巨大な白い狼が街を駆け出しました。現場を囲む警察が慌てて避けていきます。ライナーもそれに続きました。
これで、五条院の取り調べを、警察ではなくわたしたちができますね。
「よし。帰るわよ。あー、仕事終わったからビール飲みたい! コンビニ寄ってもいい?」
「え。いいですけど」
「やった!」
セイバーがわたしを抱えて窓から跳躍。ユーリくんと同じように現場から離れていきます。
布栄という街にはコンビニという店がいくらでもあって、その一軒でセイバーは変身を解いて買い物をしました。大量のビールを買ってます。買い物に遠慮がないです。
袋に入れられたそれをわたしが抱えて、再度変身したセイバーに抱えられて移動です。変身する直前にスマホを見た愛奈さんが、向かう先は家ではないと言いました。
じゃあどこかといえば、別の拠点として使っている家とのことです。
魔法少女たちの生活も複雑ですね。




