31.呼びかけ
これじゃあまるで。
「怪物との決戦に備えているみたいですね」
フィアナが静かに言う。
「そうね。彼はオールラウンドゲームクリエイターで、社長でお金持ち。でも戦士ではないわ。軍の指揮官でもない。それがなぜ、そんな準備をしてたのか。そして現実に現れた怪物の存在を、なんでゲームにしたのか。謎よね」
「じゃあ、聴くか。本人から。状況は?」
「五条院は酔っ払ってる。さすがに飲みすぎて目立ってしまった彼に、他の客が五条院だと気づいた。元々クリエイターとしてゲームファンからは名が知られているし、怪物関連でニュースにもなっているしね。店内が騒然として、五条院は逃げようとした。けど、引き止める者が出たり警察に知らせるべきだと主張する者がいたりして、大騒ぎになって……逃げられないと悟った五条院は店内で発砲した」
「発砲!? 銃を!?」
「ええ。お手製のね。手作りだから、どんな銃かわからない。精度がいいのか。連射はできるのか。五条院が撃ったのは一発だけ。天井に向けたから怪我人は無し。ああ、発砲音でみんな怖がって、慌てて逃げたから、転んだりぶつかったりして怪我した人はいるらしいわ」
「間抜けねー」
「そう言ってやるなよ」
「だって。自分たちで大騒ぎして五条院に絡んでいって、反撃を受けたら情けなく逃げ出したんでしょ? 怪我したら被害者ぶって大げさに騒ぐわよその人たち」
まあ、確かに好感は持てないけど。かといって五条院にも同情は出来ない。
「店の出入り口に人が殺到したから、五条院自身は逃げられなくなった。仕方なしに、逃げ遅れた女性店員を人質にして立て籠もってるというわけ」
「なるほど。だから警察が取り囲んでるのね」
「所轄の警察に逮捕させてもいいけど、魔法少女の力で解決できれば嬉しいわ」
「騒ぎが大きくなったし、街中だものね。みんな不安に思っている。魔法少女が鮮やかに解決すれば、明るいニュースに変わるってわけね」
「ええ。単に警官よりも魔法少女の方が強いから解決しやすいとか。あとは事件後に五条院から事情聴取する際に、所轄の警察よりわたしの方が優先させられるとか。そんな思惑があるわ」
「樋口さんの思惑に乗っちゃいましょう。作戦は立ててる?」
「魔法少女が突入、としか」
「それじゃあんまりねー。よし、悠馬何か考えて」
「俺の役目なのかよ。まあいいけど。陽動作戦で行こう。ユーリとライナーは俺と一緒に、外で五条院の注意を引きつけるから、姉ちゃんとフィアナで突入してくれ。樋口は警察への根回し」
外を見れば、警察の指揮官らしき男が部下と話し合いをしている。今にも突入を指示しそうな雰囲気だ。待ってもらおう。
「わたし、ユーリくんと別行動ですか?」
「というか、魔法少女じゃないフィアナちゃんを銃を持った男の前に出すのは」
「そこは姉ちゃんが守ってくれ。行くぞ。ユーリ、下に降りてくれ」
ユーリの上に乗った悠馬。覆面も被った。
自分が運ぶんじゃないのかと不満顔のライナーと共に、警官が集まる道路上に降りる。
巨大な狼の突然の登場に、警官たちは驚き銃を抜こうとするけど、魔法少女と覆面男の姿を見て動きを止めた。
「お仕事ご苦労さまです! オールラウンドゲームクリエイターの五条院さんですけど、怪物騒ぎに関係してると思うので、魔法少女のわたしたちに任せてください!」
「この騒ぎを根本から解決する鍵を奴が握ってるんだ。俺たちに確保させてくれ。あと、この狼は味方だから安心してほしい」
街の英雄の呼びかけに、警官たちは警戒を解く。上にも既に話が行ってるのだろう。
「中の状況はわかるか?」
「見ての通り、ブラインドが降ろされていて見えません」
「わかった。こっちから呼びかけてみるか」
「じゃあ、わたしがやるねー。おーい、オールラウンドゲームクリエイターの五条院さん! ええっと、下の名前なんだっけ」
「星矢だ」
「五条院星矢さん! 魔法少女シャイニーライナーです! あなたを捕まえに来ました! あなたは完全に包囲されています! もう逃げられないぞー! 年貢の納め時だー! 無駄な抵抗はやめて出てきなさーい! カツ丼食えー! 田舎のお母さんも悲しんでるぞー!」
説得というか一方的な呼びかけ。しかも内容はむちゃくちゃだ。
けど、これでいい。
「あと見て! モフモフの白い狼さんも来てるよ! 凄く大きいの! 背中に三人くらい乗れるんだから! ほらユーリくん遠吠え!」
「ワウゥゥゥゥゥ!!」
ユーリも案外ノリがいいのか、大きな声を上げた。店内の五条院にも聞こえたことだろう。
これがつむぎなら、すぐに窓を開けて飛び出すと思う。けど五条院はモフリストではなく、オールラウンドゲームクリエイターだ。それでも気になる情報ではあるだろうな。街のど真ん中に巨大な狼がいるなんて、見たいに決まってる。
実際、窓のブラインドに微かな動きがあった。
次の瞬間、中で大きな音がした。
――――
セイバーに背負われて、立て籠もり事件が起こっているビルの屋上に移動します。魔法少女って本当に力持ちですよね。リゼさんにこんなことはできません。
そこから階段を降りて二階へ行きます。
「ごめんなさいね。悠馬の作戦に付き合わせちゃって。フィアナちゃんを突入させるなんて、無茶よね」
「いえ。わたしの力が必要ということなので、嬉しいです」
「確かに。相手は銃を持ってる。こっちも飛び道具を使うっていうなら、フィアナちゃんしかいないってのは納得よ。あなたを守るために、わたしを指名してくれたのも嬉しい」
はい。セイバーも、頼られるのが本当に嬉しそうです。
「フィアナちゃんは拳銃なんか知らないわよね。弓よりもずっと速く、鉄の塊を撃ち出せる機械なの。五条院がこちらに銃を向けたら、すぐに動くか隠れるかすること」
「わかりました!」
五条院が立て籠もっている酒場の入り口の扉は閉められていました。
「普段こういう所の扉、閉まってる見ないのよね。お客さんを迎えるために開いてるものだから」
「五条院が閉めたんでしょうか」
「ええ。鍵もかかってるわね」
セイバーが剣を握り直します。




