30.立てこもり事件
あとは、ロジャーの今後を考えることと、怪物の問題だ。
「ロジャーを街から出したいけど、そもそも街の出入りが無理なんだよね」
養父からの解放を目指すロジャーと、絶対に手放さないだろう養父。解決には、この街から逃げるしかない。けど探されている状況だし、ゴブリンがいるしで現状は無理。
もうひとつの課題は。
「怪物をなんとかすることだけど」
「それはいいんじゃない? いない所を通って、フィアナちゃんたち戻ってくるんだから」
「でも放置は出来ないだろ」
「そうだよ。今後も、何かの拍子に世界を移動する人間が出てくるかもしれない。偶然にも、間の空間を通る方法を見つける人間が出てきてしまうかも」
世界間の移動が当たり前になる事態を、コータは望まない。ラフィオも同じらしい。だからこの方法は公表されないだろう。
でも、方法があるなら見つける者もいるだろう。偶然なり研究の結果なりで試した結果で怪物を解き放ち、本人ばかりでなく周囲に被害が出るのは避けたい。
事態を知っている者として、始末はつける。それがラフィオの方針だ。
『それなら。対処はこっちで探るわ。ちょうど今、五条院の居場所が判明した』
さっき、好き勝手に喋るコータたちの会話を止めた、向こうにいる最年長者の声がした。樋口一葉という冗談みたいな偽名を持つ、公安の人間らしい。
魔法少女の周りにはいろんな人材がいるんだな。
『ちょっと面倒なことになっているから、みんな手伝ってちょうだい』
向こうの魔法少女たちに語りかける樋口。面倒なことってなんだ?
『市内の居酒屋で立てこもる事件を起こしてるの』
それは面倒だな。
――――
樋口が連絡を受けて、魔法少女たちに要請した。今から動くことに不満の声も上がったけど、事件解決のためだから仕方がない。
全員で行く必要もないが、ユーリとフィアナの人手は必要らしかった。それに悠馬と、魔法少女に変身したライナーで現場に向かう。アユムはお留守番だ。
「なんでだよー。オレも行きてえ」
「香花のこと、誰かが見てないといけないから」
「オレ以外の誰でもいいだろ?」
「香花は東京出身だ」
「おっ。なあ。東京ってどんな所なんだ? ここより都会なんだろ? やっぱりビルがめちゃくちゃ建ってて、空が見えないくらいなのか?」
わかりやすく食いついた。
「そういう所もあるけど、全部が都会でもないよ。下町って感じの所もある。でも、やっぱりビルは多いよね。ビルとビルとが地下で繋がってたり。駅の構造も複雑だし。迷っちゃうことあるなー」
「おおっ! やっぱり都会ってそうなんだな!」
楽しそうなアユムに留守番と香花の見張りを任せて、悠馬たちは出る。ユーリは狼化してフィアナと樋口を乗せて、屋根から屋根を飛び移って移動する。
やってることはラフィオと同じだ。
「おおおっ! ユーリくんこんなことも出来るんですね! なんか、いいですね!」
乗ってるフィアナは楽しそう。異世界ってここよりも建物は密集してなさそうだし、屋根の上を走るのも経験は無かったのかも。
悠馬もまた、ライナーに背負われて現場に向かう。
模布市最大の繁華街、布栄。多くの人が行き交う街は、夜になれば飲み屋街としての顔を見せる。そんな街のビルの屋上に、ライナーは着地。
「来たわねー。おおー。ユーリくんもいるのか。つむぎちゃんたちは無事なの? そっちの情報追えてなくて心配なのよ」
セイバーが待っていた。仕事終わりに樋口から要請を受けて、ここまで来たらしい。
「無事だよ、姉ちゃん。今向こうで、ラフィオが戻るための準備をしてる」
「じゃあ大丈夫そうね。オールラウンドゲームクリエイターさんは、今からどうすればいいの?」
「とっ捕まえて、怪物について事情を聞くわ。今、あそこにいる」
道路を挟んで向かいのビルを指差す樋口。
三階建てのビルの二階は、居酒屋になっていた。窓は全てブラインドが降ろされていて中の様子は見えない。
道路は警察が封鎖していて、一般人はビルに入ることが出来ない。機動隊が突入を準備していて、物々しい雰囲気だ。
「五条院の足取りを掴んだの。市内に彼が持っている物件に移動して、そこに潜伏していた。で、食事がしたくなったのね。居酒屋に行って、酒を飲んでたそうよ。かなりの飲酒量だったそう」
「いいわねー。不安を酒で薄める人生最高じゃない」
「別に不安を紛らわせるために飲んでたとは限らないけど」
「そうでしょ。世間から姿を消して隠れてる状態で飲酒なんて、そうとしか考えられない」
「まあ、それもそうね」
「でも潜伏ってなんのため?」
「さあ。所有物件っていうのは、ここの近くの空きビルなの。そこに、大量の武器が用意してあった」
「おおう。物々しい」
「武器ってどんなものだ?」
「ナイフや刀剣の類。ハンマー。電動ドリルに、エンジンで動くチェーンソー。それから、手製の銃に大砲」
途中まではギリギリ、なんとか工具を集めてるだけと言い訳も出来ただろうけど、銃と大砲は良くないな。
「それから、魔法について研究してた形跡もあったわ。本当に意味がある物かは知らない。自分の作り上げたモンスターに関する資料もあった」
「それは、仕事の関係資料じゃないの?」
「かもしれないわね。でも、怪物にどの程度の攻撃をすれば倒せるとか、弱点はどことか、そんな情報ばかりをまとめていたのよ」
それと武器か。




