29.ラフィオの魔法
「ふたつの世界を繋げるゲートは、僕が作れるよ。ロジャーが書いたような不完全なものじゃない。見たところ、この世界とテラン世界は比較的容易に行き来できる」
ラフィオが、ロジャーの本や描いた魔法陣を見ながら説明した。魔力を補充した擬似スマホを通して、向こうの世界にも声が届いているはずだ。
「容易って?」
「怪物がウヨウヨしている、真っ暗闇の通路なんか通らなくていいってことだ」
「キエラが使ってた穴みたいに?」
「そう。世界と世界を直接繋げられる。穴を通ればそこが異世界だ。エデルードとテランが繋げられるなら、こことテランも繋げられるはずだ」
ラフィオが床に魔法陣を描きながら説明する。
リゼにとっても興味深い形らしく、熱心に見ていた。
「へえー。ちなみに妖精の世界とここは繋げられる?」
「……難しいね。たぶん、それは魔法陣でやった方が良さそうだ」
リゼが木の板に筆で小さく描いた魔法陣を見て、ラフィオはすぐに答えた。コータをこっちに呼び出した、使い魔召喚の魔法陣だ。
魔法使いたちが使い魔を好きなだけ連れてこられる事態にはならないらしい。良いのか悪いのかは知らない。
「なんか、リゼよりもラフィオの方が魔法に詳しい感じがするな」
「ほぁっ!? か、カイ!? そういう事は言わない方がいいよ! わたしだって優秀なんだから!」
「じゃあ、ラフィオの仕事を手伝えるか?」
「そ、それは……まあ。なんていうか? ここは男の子に華を持たせてあげるのが、年上の、大人のお姉さんとしてのやり方、みたいな?」
「そうだね。リゼには後でやってもらうことがあるから、今は休んでてくれ。頼りにしてる」
「うぇぇっ!? 本当にわたし、頼られた!? 優秀だと思われてる!?」
「いや。今のはラフィオに気を遣われただけだ。年上のお姉さんを立ててるんだよ」
「そっかー。わたし、異世界の魔法使いにも頼られちゃったかー」
「話しを聞けよ」
その間も、ラフィオは黙々と魔法陣を描いていた。
コータをこっちに連れてきた使い魔召喚のとも、ふたつの世界のゲートを繋ぐ魔法陣とも違う。リゼにも見たことがない種類のもの。
「魔法にも色々あるってことだね。僕が使いやすい方法を取らせてもらうよ。誰か、外に出て石を持ってきてくれ。拳くらいの大きさのだ」
「石?」
「何でもいいよ。大きすぎたり小さくなければ」
カイが怪訝な顔をしながら外に出た。
これが森の中なら、石なんかいくらでも見つかるだろう。けれど街中だと大量に落ちているものじゃない。カイが戻るまで少し時間が掛かったのは、そのせいかと思ったのだけど。
「外が騒がしくて、様子を探ってた」
戻ったカイが石を手渡しながら言った。
「騒がしい?」
「兵士が走り回って戦いの準備を整えてるみたいだ」
「ロジャーを探したり、次の怪物の警戒をするために?」
「それだけじゃない。街の外で、ゴブリンが大量発生しているそうだ」
「ゴブリン?」
確かにこの街の外の森にはゴブリンが生息していると聞いたことがある。
『あ。わたしも知ってます。リゼさんたちが来る前、街の柵の一部が壊れて、ゴブリンが十数体ほど街に入り込んだんです』
フィアナの声がする。そんなことがあったのか。
『柵の穴は塞がれて、今は問題ないはずなんですけど』
「森から出てきたゴブリンが多い。街の兵士が対処しているけど、数が減らないらしい」
それだけ大勢来てるということか。でも何故だろう。
「なにか強い怪物が森にいて、ゴブリンはそれから逃げてるとか?」
「街もそれを警戒していて、兵士を森の方に集めているらしい。何かあった時にすぐに動けるように。市民の街からの移動も制限されてる」
「でも良かったじゃん。ロジャーが探される人手が減って」
「まあそうだけど」
ロジャーはこの街の最高権力者の養子で、怪物騒ぎを引き起こした犯人とされている。今頃必死に探されているはずだ。
家の恥だし、他の貴族との権力争いでの弱みになりかねない。それに、せっかく大金を使って手に入れた魔法使いの血だ。失うのはもったいないと考えてるのだろう。
が、家や宿を一軒一軒強制捜索するなんて真似をする人手は無い。犯罪捜査の名目なら権力的に可能だろうけど、されてない。
それは、こっちにとって幸いなこと。
もちろん、街の危機は見過ごせないし、森から怪物が出てきて暴れるようなことがあれば対処すべきだ。だから良かったとも言い切れないな。
「出来た。ここに魔力を注いでくれ」
ラフィオがリゼとロジャーに呼びかけながら、石を魔法陣の中心に置く。そこから伸びるように、円がふたつ描いてある。
魔法使いふたりがそこに手を当てれば、魔法陣全体が輝き出す。石も紫色に光った。
「さすが反応が早いね。これならすぐに、転移の石が出来る」
「本当だねー。石を置いて作るよりずっと早い。魔法使いってすごいね!」
「えっほえっほと石を運ぶのは大変だったからね」
「でも、ラフィオと一緒だから楽しかったよ!」
「そうか。僕もだよ」
ラフィオとつむぎが謎の感慨にふけりながら、イチャイチャしてる。進んでるな小学生。
でも、魔力を注がれた石が変形しているのは確かで。
「これで、テラン世界と繋げられる。僕たちは向こうに帰れるし、ユーリとフィアナも戻れるよ。ロジャー。君も香花に会えるよ」
向こうで少しだけ歓喜の声が聞こえた。香花は、ロジャーに随分とご執心らしい。兄として思う所が無くもないが、突然いなくなった立場では口出しできない。寂しさを紛らわせて希望を与えたロジャーには感謝もしてるとも。
「俺も香花に会えるからな」
『うん! ぬいぐるみのお兄ちゃんに会うって、なんか変な気分だけど!』
香花はこっちにも喜びの声を上げた。これくらいで許してあげよう。
これで、とりあえず目的の半分は果たせる。




