28.通話
コノカさんも、少しだけ笑みを見せていました。そんな中、ふとスマホを見て表情を変えました。
「ロジャーから電話が来てる! もしもし! ロジャー!? 良かった! 無事だったんだね!」
すかさず電話に出たコノカさん。すると向こうからコータさんの声が聞こえてきました。
「お兄ちゃん!? 本当なの!?」
『ああ! 俺だ! ごめんな心配かけて!』
『悠馬さん悠馬さん! つむぎです! 無事です! ラフィオもしっかりモフモフです!』
『モフモフなのは別にいいんだよ』
『フィアナちゃんいる!? 無事!? ごめんね間違って別のモフモフ連れてきちゃった!』
『君までモフモフ言うのか』
「無事です! ユーリくんもいますよ! 魔法少女の皆さんに良くしてもらってます!」
『そっか良かったー! あのねあのね。今度こそふたりを連れ戻すから!』
『いや待った。その前に怪物の発生を止めないと』
「オールラウンドゲームクリエイターさんは今探してるところです! あ、初めまして魔法少女の神箸遥といいます!」
『これはご丁寧に! リーゼロッテ・クンツェンドルフです! 長いからリゼでいいよ!』
「リゼさん! なんかリゼさんとは仲良くなれる気がします!」
「確かに遥さんとは歳も近いですね」
『そうなんだー! 違う世界の子とも友達になれるのって、なんかいいね!』
『それに、遥もリゼも馬鹿だもんね』
「ちょっ!? ラフィオなに言ってるの!? 馬鹿じゃないもん! 勉強できないだけだし!」
『知ってるか? リゼって魔法学校を三日で退学に』
『わー! わー! 言わないで! 恥ずかしいから!』
「……ちょっと一旦、みんな静かにしてくれるかしら。話が脱線してきてる」
樋口さんに言われて、みんな静かになります。そうですね。もっと話し合うことはありますよね。
今後のこととか。
『みんな。一旦外してくれないか? 香花とふたりで話したい』
コータさんの声が聞こえます。他に優先して話し合うべき話題はあることでしょう。これからどうするかとか。
でも、誰も反対しませんでした。わたしたちは家のリビングから廊下に出ます。たぶん、向こうも同じことでしょう。
兄妹の話し合いは大事ですから。
――――
リゼたちは何も言わずに部屋を出た。スマホに似せた板を持ったコータだけが残される。
ロジャーが魔力を込めているから、近くに魔法使いがいなくても通話は継続できる。使い魔と主人はあまり長い距離を離れられないから、扉を隔ててすぐ近くにリゼはいるはずだ。
聞かれても、別に問題はない。近くに人の目がいると、なんか恥ずかしいってだけだ。
「香花。改めて、本当にごめん。俺、異世界に魂だけ召喚されたんだ」
『……本当に異世界なんだ。魔法陣らしい光と一緒に急に消えたって、お兄ちゃんのクラスメイトが言ってたよ』
「そうか」
それは知らなかった。なんにせよ、本当に向こうの世界にとっては困惑させる失踪をしてしまった。
迷惑をかけたことだろう。両親や妹以外にも、学校のみんなにも。
「ごめん」
『いいの。フィアナから聞いたよ。お兄ちゃんは悪くないって。いきなり召喚したリゼってやつのせいだって』
「ああ。そうだ」
『なんか、すごく変な人って聞いたけど。本当なの?』
「本当だ。とんでもない馬鹿なんだ。ひとりで突っ走るし、うるさいし。……一緒にいて疲れる。大変だ」
『じゃあ、お兄ちゃんはその人、嫌い?』
ああ。一度夢の中で問いかけられた質問だ。
あの頃から答えは変わってないとも。
「いや。世界一馬鹿な奴だけど、悪い奴じゃない。少なくとも、善意で行動してる。いや、してない時もあるし、逃げようとすることもあるけど。でも、俺に対する愛情は本物だ」
『……そっか。お兄ちゃん、リゼさんのことが好きなんだね?』
「そういう意味の好きじゃないかもしれない。けどまあ、好きだな。ずっと一緒にいたいと思ってる」
『こっちには戻らない?』
「肉体が無いから戻れない。戻れたとしても……こっちの生活が楽しいし。リゼは俺がいないと駄目だし。……香花や父さん母さんとの暮らしが嫌だったわけじゃない。でも、今の俺の居場所はここなんだ。ドラゴンが暴れて魔法使いが戦うこの世界で、俺は生きたい。……ごめん」
『ううん。いいの。ちょっと。ううんすごく寂しいけど。お兄ちゃんが幸せそうなら良かった。あのね、お父さんもお母さんも、すごく心配してたよ』
「ごめん」
『親には本当のこと、説明しなきゃだよね?』
「ああ。驚くだろうな」
『うん。でも、こっちには魔法少女がいること、みんな知っているから。異世界が本当にあることも。ラフィオってテレビにも出てる有名人なんだよ。お父さんたちも知ってるくらいに』
「そうなのか? そっか」
『だから。お兄ちゃんのことも納得してくれる』
「ああ。わかった」
『……よしっ! じゃあ、いなくなったこと許してあげる。お兄ちゃんは、大切な人を見つけて幸せになりました。そういうハッピーエンドなんだよね?』
「エンドではないけど。幸せだ」
『じゃあいいの! お兄ちゃんが幸せなら! ……ふふっ。この一年半のこと、教えてくれる? どんな冒険をしてたかとか。わたしのことも教えるから』
それから、とりとめのない話をした。仲のいい兄妹がする、当たり前の会話。
ふたりとも、もう二度と一緒に暮らすことは無いとわかっている。香花はこっちの世界に行きたがってたそうだけど、それも諦めたらしい。だから、少し寂しそうだ。
それでもこうして会話ができる。だから幸せでもあった。
話題が尽きた頃に、向こうの声が遠くなった。板に込められた魔力が尽きたのか。ロジャーかリゼに補充してもらえばいいだけなのだけど、なんとなくそれが会話の終わりになった。
これからのことを話し合わなきゃいけないし。




