27.親がいるうちに
悠馬さんたちは、コノカさんという魔法陣を描いた女の子を見つけて家で保護していたそうです。
目覚めた彼女はお腹を空かせていて、遥さんが作った料理をむしゃむしゃと食べてます。すごい勢いです。
そんな彼女は。
「コータさんの妹さん、なんですね……」
「はい。行方不明になったお兄ちゃんを探すために、魔法陣を描いて……ご迷惑をおかけしました」
椅子に座って事情を話すコノカさん。怪物を呼び出して大勢に迷惑をかけたことを後悔しているようでした。
これまでの経緯もしっかり知れました。会ったことのないロジャーさんに、ちょっと同情しています。魔法を使った理由も、納得できます。
そんなコノカさんのお兄さんが、まさかコータさんだったなんて。説明すれば、とても驚いてました。
本当に異世界に行っていたことと、ぬいぐるみの体になったことです。
「ええっと。そっか。お兄ちゃんと一緒に旅をしてくれてたんですね。ありがとうございます。……お世話になります?」
「いえいえ。コータさんにはいつも助けられています」
コノカさんの正面に座って挨拶をします。ユーリくんも隣にいますけど、特に何も言いません。ちょっとだけ頷いています。
「でもぬいぐるみの体かー。想像つかない。それに、こっちに帰るつもりもないんですか?」
「みたいです。リゼさんたちと一緒に旅をするのが楽しいと言ってました。……今回、世界を行き来する方法が見つかったので、もしかしたら戻りたいって言うかもしれないですけど」
「話してみたいです。お兄ちゃんに、また会いたい」
「そうですね」
コータさんの意思がどうであれ、会話はすべきです。寂しそうなコノカさんを見れば、そう思います。
「あなたの事情はわかったわ。でも、とりあえず今は家族に連絡しなさい」
樋口さんがきっぱりと言いました。スマホには今も、コノカさんのお母さんからの着信が来ています。
「でも……」
異世界に旅立って別れる決意をした両親。兄が消えて、ちょっと変わった両親。コノカさんにとっては、あまり話したい相手ではないのでしょう。
そういう親がいるというのは、旅の中でよく知っています。家族って、仲がいいだけじゃないんですよね。
でも。
「話すべきだ」
悠馬さんが話しかけました。
「みんながみんな、いい家族じゃない。子に冷たい親なんて、この世界にもいくらでもいる。だから断言はすべきじゃないけど。でも、親と話せる内は話した方がいい。……手遅れになってからじゃ遅いから」
「悠馬さんのご両親は?」
「事故で死んだ。俺が小学生の頃に。兄貴と一緒に」
「……そうですか」
コノカさんと向かい合う悠馬さんの顔は、わたしからは見えません。けど、きっと意志のこもった目をしていたのでしょう。
「家族は失うだけじゃない。増えもする。でも、大切な人がある日いなくなる悲しさは、よくわかるだろ? 同じ気持ちを、両親はまた感じている」
「……はい」
コノカさんも納得して、スマホを手に取りました。
樋口さんが短く言います。魔法少女と関わっていることや、兄が異世界にいることは両親に伏せておくこと。衝動的に模布市に行きたくなって、そこで怪物騒ぎに巻き込まれて連絡が出来なくなった、みたいにしなさいと。
何かあってもこっちでフォローするから安心しなさいと、付け加えました。国家権力、頼りになります。
コノカさんのご両親には嘘をつくことになりますけど、心配させないための嘘です。必要なことなんでしょう。
「もしもしお母さん? ごめんなさい。あのね、なんというか……遠くに行きたかったの。お母さんもお父さんも心配させたかったわけじゃなくて。でも、ひとりになりたいなって思って」
コータさんは両親から愛されていたのでしょう。もちろんコノカさんも同じだったはずです。でも、コータさんがいなくなって、両親はそちらにばかり向いていて、寂しかった。
コノカさんの語りかけは、単なる家出の言い訳ではないはずです。
樋口さんが電話を代わって、こっちで保護しているから問題はないが、怪物の案件で警察も人手が取られていて、少しだけこちらで保護させ続けてほしい、みたいなことを言ってました。
すぐに送り返した方がいいに決まってますけど、ひとりだけで帰して、その時に怪物に襲われて怪我でもさせたら警察の責任問題です。両親が迎えに来るべきですけど、それも怪物が危険だとか言ってます。
こうして、なんとか言いくるめて、事件解決までコノカさんをこちらに置くことが決定しました。
さすが国家権力。口がうまいです。
「さて。次にやるべきは、五条院の捜索かしら」
「見つかるあてはあるのか?」
「アトリエの周囲の監視カメラの映像から足取りを追ってる所よ。ATMから大量の現金を引き出した記録も見つけた。すぐに見つかるでしょう」
「アトリエって言い方、なんかムカつくよな」
「芸術家かオールラウンドゲームクリエイターしか使わない言葉だよね」
「オールラウンドゲームクリエイターも、芸術家の一種だと思うけどな」
「でも、今のところオールラウンドゲームクリエイターが事件に関わってる感じがしないんだよねー。魔法陣が出てきたのって、香花ちゃんとロジャーがそれぞれ描いたからでしょ? オールラウンドゲームクリエイターが出てくる所なくない?」
「ないけど、じゃあなんで逃げてるんだ?」
「わかんねぇよなー。とっ捕まえて話を聞かなきゃな」
「アユムちゃんも警察に協力してきなよ。犯人を見つけて、おらー! 逮捕だー! ってやるやつ、似合うと思うよ?」
「ちょっとやりたいかも。いやでも! やらねえからな!」
「興味はあったことに驚きだよ」
遥さんたちが、あんまり中身の無い話をしています。仲が良いのが伝わってきて、いいですね。




