26.異世界で戦う
ニワトリ共を蹴散らし、空を飛ぶコウモリをハンターに射落とさせる。
戦いは順調だ。
「わっ!? うわっ! うわー!?」
背中のロジャーがうるさいけど。ラフィオの背中の毛をしっかり掴み、足で胴体を挟んで落ちないように必死でしがみついている。
前のハンターにしがみつかないだけ立派だ。女の子だからと遠慮があるのと、矢を放つ邪魔にならない配慮だ。人柄は伝わってくるとも。
「ラフィオ! 敵はみんな倒したよ! でもカイさんたちと合流はどうするの!?」
「あっち! あっちから火の玉が上がりました!」
「よし行こう!」
ロジャーも周りをよく見ている。あれだけ大きな火球は見逃しようもないけどね。
屋根の上を走って、リゼたちの所に。
「その格好は目立つから、人間に戻ってくれ」
「目立たないなら、こっちの方がいいね」
ラフィオは小さい妖精姿となって、変身を解いたつむぎの頭の上に乗る。
「おおー。なんかそうしてると、わたしとコータみたいだね! 使い魔って感じがする!」
「一緒にしてやるな。向こうに失礼だろ」
「どういう意味かな!?」
コータもリゼの頭に乗っている。まあ、似たようなものか。使い魔ってのがよくわからないけど。
人目につかない路地裏。しかも街の端だ。
「とりあえず、あったことを説明する。そっちも知っていることを教えてくれ。ユーリたちについても。それから……巻き込んだこと、申し訳なく思っている」
カイがリーダーらしい。丁寧に頭を下げたのをみて、こっちも恐縮する仕草を見せる。小さい妖精の姿でだ。
「こういうのはお互い様だよ。謝ることじゃない」
「仕方ないですねー。コータさんモフモフさせてくれたら許してあげます!」
「お前は黙ってろ」
「えーっ!?」
とにかく、お互いにあったことを話し合う。それぞれの背景も。コータのいた世界がテラン世界なのは間違いないらしい。つむぎが魔法少女から戻るのを見て、自分の世界に何が起こったのかも理解した。
そして、ロジャーという少年の境遇についても知った。
「なるほど。それはかわいそうだね。自分の置かれた環境に納得がいかないなら、それは逃げるべきだ。他人を巻き込んででもね」
「ラフィオも、元の世界が嫌だから逃げたんだよねー」
「そうだよ。キエラがテラン世界を滅ぼそうとしてるのもあってね。……僕がやったことに比べれば、ロジャーの逃避は大したことじゃない。たとえ街に怪物が解き放たれようとね」
「……ありがとうございます。みんな、優しい人ばかりだ」
「とはいえ、この街はロジャーを逃がそうとはしないようだけど」
カイが表通りの様子を見ながら言う。怪物が暴れる状況からは脱して騒ぎは収まったものの、街はこの事態を本格的に収拾させる気になった。
兵士を動員して、ロジャーを探しているらしい。
「外にいたら見つかる。どこか宿屋に隠れよう」
「君たち、普通にお尋ね者になってるね」
「探されてるのはロジャーで、俺たちの素性は公には知られてない。だからお尋ね者とは少し違う」
「なるほど」
探されてるし、兵士に見つかればただでは済まないだろうに。この男、なかなかの胆力だ。
「お尋ね者になるのは、わたしは慣れてるからねー」
リゼの方は気楽だな。
宿屋はカイたちを怪しむことなく迎え入れた。つむぎの洋服だけ、見慣れない格好と思われたかもしれない。けど妖精のラフィオを見せて、使い魔を連れた魔法使いだと言い張れば通った。魔法使いを見慣れてない街だから、そういう物って思われるのか。
「俺たちの目的は決まっている。今は、ふたりを元の世界に戻すことも加わった」
「それはありがたいね。転移の魔法については僕も理解がある。この世界は当たり前に魔法があって、リゼは特に豊富な魔力を持っているのだろう? 河原の石を集めて魔法石にする必要もなさそうだ。……ただし懸念事項もある」
ひとつは、向こう側に魔法に詳しい人間がいないということ。迎える準備ができないから、突然現れる魔法陣に対処が出来ない。
単に人を行き交いさせるだけなら、それでも問題はないだろう。けど、今回はそうもいかない。
「ふたつの世界の間に、怪物がうごめいていた。裂け目があって、そこから這い出ているらしい。巨大な怪物もいたよ。この裂け目を閉じたい」
互いの世界を繋いだ瞬間に、大量の怪物が双方に出てくる。向こうの悠馬たちにとっては不意打ちだ。裂け目の向こうに、昨夜のドラゴンよりも大きな影を見たし。あれが来たら危険だ。
対処も、向こうからユーリたちを送る段取りも遅れる。せめて事前に、今からどこでやると伝えたい。
そして、怪物が出る裂け目だ。
もう、互いの世界を行き来する気なんかないけど、かといって裂け目を放置するのも正しくはない。また何かの事故でゲートが開いた時に、怪物騒ぎがおこるのはまずい。
だから塞ごう。それが、魔法を知る者の義務だ。
「裂け目かー。世界を隔ててる壁に、何か異常が起こったとかかな? 魔法が不完全だったせいでね。こことも、コータのいた世界とも違う、全然別の世界なんだよね? 怪物の世界と言うべきかな」
「だね。裂け目は塞げそうかい?」
「裂け目が出来た理由がわかればいいんだけど」
「……向こうの世界で五条院から聞くしかないか」
「あの。皆さん。コノカのスマホと繋がりました」
ロジャーが握りしめた木の板を見ながら言う。
スマホに似せた黒い画面ではなく、裏面の魔法陣の方に話しかけてるのが、なんかシュールだな。
『ロジャー!? 良かった! 無事だったんだね!』
「香花!」
ロジャーが返事をする前に、コータが彼の腕に飛び乗って声をかけた。
「聞こえるか!? 俺だ! コータだ!」
『お兄ちゃん!?』
向こうから驚きの声が上がった。




