23.人違い
闇の向こうに魔法陣が見える。そっちには大量のニワトリが殺到していた。コータは探索魔法の視点をそちらに向ける。
ここが向こうの世界。コータがいた世界の、模布市という別の街。
そこで、ニワトリや蜘蛛の怪物と戦っている人影が見えた。もしかして、これが魔法少女か?
「コータ、フィアナちゃんたちはいる?」
「いない。探すから待ってくれ!」
もっと広範囲を見る。さすが日本第三の都市だけあって人の数が多い。こう多いと潰れて見えて探せない。
砂浜から特定の砂粒を見つけるようなものだ。
「……ん?」
特に人が密集している場所の上空で、プテラノドンが暴れているのが見えた。その一体が空中でもがき苦しみ、落ちていく。
まるで弓で射抜かれたように。
そちらをズームして見れば、四本脚の獣に跨った少女が弓を引く仕草をしていて。
「見つけた! と思う……」
「わかったそっちに魔法陣を持っていって!」
「おう! ……でも、なんか違うというか。なんというか……」
獣に跨って弓を放つ少女なんて、ユーリとフィアナしかありえないだろう。わかってる。でも、なんかユーリ小さくないか? 探索魔法では見る相手のシルエットしかわからない。でも、見慣れたユーリはもうちょっと大きい。あの背中に三人も乗れなさそう。
探索魔法越しだし、距離が離れてるしで歪んで見えてるのか?
「コータ! 早く! 早く連れ戻して! こっちにどんどん怪物が来てる!」
「お、おう! わかった!」
こっちの世界で現状戦えるのはカイだけだ。怪物が出続けてるなら危険だ。
ふたりの方に魔法陣を誘導すれば、揃って落ちていった。すぐに閉じて、探索魔法も解除してふたりの方を見た。
ユーリとフィアナではなく、別人がそこにいた。
――――
低い建物の上に登ったユーリくん。大都市でも、全部が高い塔ではないんですね。低い屋根も当然あります。
プテラノドンと呼ばれている鳥たちを次々に射落としていきます。数は多いですけど、ドラゴンと違って硬い鱗が無いので、当たれば刺さって飛べなくなります。
墜落してそれで死ぬなら良し。死ななくてもライナーが駆けつけて、キックで首を折って殺してくれます。
もちろん、わたしたちの近くに落ちれば自分たちで止めを刺しますよ。ユーリくんがプテラノドンの喉を噛みちぎり、動かなくなったのを蹴飛ばして屋根から落としました。
怪物の死体が市街地にどんどん増えていきます。人々は悲鳴を上げつつも、魔法少女が来てくれたことを喜んでもいました。
ユーリくんの存在も、怪物と戦ってくれていると受け入れられています。ラフィオさんが既にいるので、モフモフの獣自体は見慣れてるのでしょう。
ハンターとわたし、戦い方も似てますしね。
ラフィオさんとハンターも、市街地を駆け回りながらプテラノドンを射抜いています。魔法少女に変身することで腕力が上がっているらしく、地面から高い位置にいるプテラノドンまで矢が届いています。
だからラフィオさんも屋根に登る必要もなく、ユーリくんより自由に駆け回っています。
魔法少女というのはすごいですね。わたしも変身すればユーリくんが自由になるでしょうか。
「ゆ、ユーリくん。もしも。もしもですよ。わたしがつむぎさんのような、魔法少女の格好をしたら、似合うと思いますか?」
「ガウ?」
「い、いえ! なんでもありません! 忘れてください!」
立ち止まりって振り返って不思議そうな顔をする狼。わたしの顔、今は真っ赤でしょう。
そんなことより動いて戦わないと。ただでさえ、ハンターたちの方が動いて目立っているのに。
「……え?」
そのハンターたちに、光る魔法陣が滑るように接近していきました。
なんですかあれ。
魔法陣から、新しくニワトリが一体出てきました。かと思えば、ラフィオさんとハンターの真下で止まって。
「うわー!?」
「おいおいおい!?」
ふたりが魔法陣の中に吸い込まれていきました。
え。なんですか。なんなんですかあれ。
まさかリゼさんが何かやらかしたんじゃないでしょうね。
「ちょっ!? 何!? 何が起こったの!? ふたりどこ行ったの!?」
ライナーも混乱している様子です。そしてわたしたちの前で、魔法陣は消えていきました。
「ガウッ!」
「! そうですよね! 今は敵をなんとかしないと!」
ハンターたちは心配ですが、きっと無事です。わたしたちが無事なように。
だから今、目の前の危機をなんとかするのが優先です。
「ライナー! そっちに敵が落ちますので! 倒してください!」
「わ、わかった!」
呼びかければ、ライナーもなんとか落ち着きを取り戻して戦いを再開しました。
元々、数は多くても倒すのは難しくない敵です。すぐに、空を飛ぶ怪物はいなくなりました。
百貨店に戻ったライナーは変身を解いて、スマホで悠馬さんたちに連絡を取ります。とりあえず家に戻って、今後の方針を話し合いましょう。
向こうも新しく見つけたことがあるそうですし。
――――
魔法陣の中に吸い込まれたラフィオは、すぐに少年の姿に戻ってハンターを強く抱きしめた。この状況ではぐれるのは危険だ。
ここはどこだ? 暗闇だけど、遠ざかっていく魔法陣から漏れる光で周囲は見える。
怪物たちがうごめいていた。彼らもまた、この空間にいることに戸惑っているみたいで、じたばたともがいていた。
数体が、魔法陣の方に近づいていった。
「周りを警戒しろ! 襲ってくる敵がいれば迷わず殺せ!」
「うん!」
「大丈夫だ! きっと戻れるから! 絶対にはぐれるなよ!」
「わかってる! ラフィオ離さないでね!」
ハンターを抱きしめながら、ラフィオも周囲を見た。




