22.世界をつなげる
香花が心配なのはコータも同じ。向こうの世界で何があった? 魔法の事故に巻き込まれていないだろうか。こちらに来る途中で怪物に襲われたりとか、ふたつの世界の間に閉じ込められたりとか。
「これからやるべきことを整理しよう」
カイがリーダーらしく話をまとめる。
「まずはユーリとフィアナを連れ戻す。次に、コータの妹の無事を確認。そして怪物が再び出てこないようにする、最後に……ロジャーを無事に街から出して、真っ当な人生を歩ませる」
この四つ。最後に付け足されただけとはいえ、自分の希望を受け入れてくれたカイにロジャーは驚きと感動の目を向けていた。
ああ。カイはそういう奴だ。
「それで、原因を調べなきゃいけない。最初に疑うべきは魔法の不備だけど」
「ロジャー。魔法の参考にした本はどんなのだ?」
「これです。他の本は町長の屋敷に置いてますけれど」
隠れ家にもいくつか本を置いてある。香花召喚の儀式のために用意した本もだ。
それは。
「古いな……」
ボロボロの巻物本だった。綴じ本はこの世界ではまだまだ高価で、庶民が手にするの本が巻物なのは驚きではないとはいえ、あまりにも古すぎる。使い込まれているというか、経年劣化が激しいというか。
町長は金持ちなんだから、もっと良いものをと思ったけれど。ロジャーに金をかけたくなかったか。
「これ、駄目だね」
本を開いたリゼがひと目で判断した。
「早いな」
「見ればわかるよ。理論が古すぎる。まだ研究が進んでなくて、後で間違いってわかった術式や紋様が正解として描かれてる。それにたぶん、これを書いた人自体が、そんなに頭が良くないというか」
リゼに馬鹿と呼ばれるって、相当だぞ。
「たぶん、学者じゃないね。学者に憧れて真似事をして、学者にも判明していない理論を想像して体系化してみたってやつ」
「体系化なんてできないだろ。素人の思いつきなんだから」
「そう。出来てない。基礎的な知識はあったらしいから、それっぽい物はできてる。でも、それだけ。そもそも、違う世界と行き来できる魔法なんて、今でも開発されてないんだから」
魔法として不完全。思った以上に安物だったらしい。町長は魔法について素人だから、二束三文で専門書が買えたと喜んで、こんな本ばかりをロジャーに渡した。商人からすれば、タダ同然のものが売れたのだから、向こうも喜んだことだろう。
ロジャーも魔力を持っているだけで、知識に関しては素人だ。間違った本で間違った知識を学んだ。
それでも、基礎だけはなんとかなった。そして偶然から香花と会話できるようになれた。けど、声だけ届けるのと人を連れてくるのでは訳が違う。
確かにリゼは、広場に描かれた魔法陣を下手くそと言っていた。
で、間違った魔法陣で召喚の儀式を行った結果、間違った結果が起こった。
「なんなのかなー。違う世界と繋がった? でもあの魔法陣、確かにテラン世界のモフシと繋げてはいたんだよ。そのパスが別の世界にも繋がったのかな?」
「ユーリたちは連れ戻せそうか?」
「もう一度、向こうの世界と繋ぐ魔法陣を作るのは可能だよ。それで、わたしとコータの魔法で向こうの様子を見て、手を伸ばしてフィアナちゃんたちを引っ張るのもできる。向こうのコノカちゃんに手伝ってもらえなくても、こっちから一方的にパスを繋げられる。わたしの魔力があればできるよー」
「どれくらいで出来る?」
「半日あればなんとか」
早速取り掛かる……前に、みんな夜通し動いていたわけでフラフラだった。外を見れば夜が明けかけていた。
仮眠をとってから、魔法陣の構築に入る。空き家のリビングに石灰で円を描き、中に術式を書いていく。
リゼとロジャーに任せるしかない。コータは窓から外の様子を見張った。
夜にあった怪物騒ぎによって一時は混乱した街も、全て討伐されれば落ち着きを取り戻していた。
とはいえ油断は出来ない。
「街の兵士がロジャーを探してる。ここに人が来るのも時間の問題だ」
朝食の買い出しに行っていたカイが教えてくれた。
「そっかー。急がないとねー」
パンを齧りながら返事するリゼは、なんか緊張感がないな。
ここはロジャーの生家だ。手掛かりを求めて兵士がいつ踏み込んでくるかわからない。
もしそうなったら、兵士たちにでかい火球を打ち込んで逃げるしかない。ロジャーは街に怪物を解き放った重要参考人で、コータたちも匿った共犯だから。
「でーきた。よし、じゃあコータ始めよっか」
そんな緊張感の無さと共に、リゼは両手でコータを魔法陣に向ける。
魔力を込めれば、魔法陣が淡く光り出した。
「探索魔法を使って。魔法陣の向こうにある狭間の世界と、その向こうのモフシが見えるはず」
「わかった。サーチ。うおっ!?」
「なになに!? 何が見えたの!?」
「怪物たち!」
ふたつの世界の間にあるという暗闇に、大量の怪物がうごめいていた。昨日倒したニワトリみたいな奴もいるし、ドラゴンほどではないけど不気味な翼を持つ飛行型の怪物もいた。なんというか、プテラノドンっぽい。
それが、魔法陣の方を見た。そして動き出した。
「おい気をつけろ! プテラノドンが来る!」
「え、なにそれ!? テンプラ!? コータの世界の揚げ物だっけ!?」
「違う怪物だ!」
「落ち着いて! 狭間の世界にいるんだよね!? そこにコノカちゃんはいる!?」
「い、いない! 見当たらない! 怪物ばかりだ!」
「わかった! じゃあコノカちゃんは向こうの世界にいるんだ! うわっ!?」
プテラノドンの一体が魔法陣を通り抜けてこちらに来た。すかさずカイが飛びかかって、敵が羽ばたく前に床に押し付けて剣を刺す。けど、プテラノドンたちは次々にこちらに向かってくる。




