19.蜘蛛退治
バーサーカーに巻きついた蜘蛛の糸を切り裂く。二本の足で地面に立てたバーサーカーは、腕を回して自由を謳歌していた。
「敵はさっきのだけ?」
「バーサーカーを縛った蜘蛛はまだ生きてるはずだ。他の怪物もいるかも」
「なるほど。さっさと片付けるわよ。外回りの約束が入ってるんだから」
「社会人も大変だな! よっしゃ! さっきの仕返しは絶対してやるからな!」
「あ、蜘蛛」
「うわあっ!?」
大げさに驚いたバーサーカーが跳び退いたおかげで、再度放たれた糸は当たらなかった。
蜘蛛は一軒家の屋根の上にいて、こちらに目を向けていた。蜘蛛って目が大量にあるんだな。知識として知ってはいるけど、巨大化したのを見るとグロいな。あと、あいつ口から糸を吐いてた気がする。悠馬の知ってる蜘蛛は尻から糸を出してたけれど、こいつは違うらしい。
「なんなんだよ!? なんでオレばっかり狙うんだ!?」
「バーサーカーが一番エロい格好してるからじゃない?」
「なんだよその理由は!? たしかにセイバーよりは胸あるけど!」
「ぐはっ!?」
「なんで自分が振った話題でダメージ受けてるんだ。ふたりとも、ふざけてる場合じゃない。バーサーカー、屋根に登ってあいつを殴れ。屋根から落とせば俺たちが加勢する。それまでは、姉ちゃんと俺で下の敵を倒す」
「おう! 任せろ!」
「縛られても、また助けてあげるから」
「縛られないけどな!」
敵の姿をよく見て、再度放たれた攻撃を一旦避けてから跳躍。真正面から戦えば負けることはないか。
悠馬も地上の敵を探した。蜘蛛のいる一軒家の敷地から、ニワトリが数体出て来た。
この家で暴れていたのか? 斬り込んでいくセイバーに続いて、敷地内に入った。
怪物を相手に素手で戦うのも気が引けるから、物干し竿なんかがないかと探したが、見当たらない。それどころか、庭には何もなかった。
どうも家自体が空っぽらしい。窓にはカーテンが無く、その中から見える中にも何もなかった。
正確には、ニワトリがそこから出てきていた。今も、割れた窓の破片を踏みしめながら数体が出てきたところ。
「ねえ悠馬! なんとなく思ったんだけど!」
「たぶん俺も同じ予想だ!」
「この家の中から怪物が出てるのよね!?」
「たぶそう! 踏み込もう!」
「ええ! ガラス気をつけて!」
一足先に踏み込んだセイバー。悠馬も土足で侵入させてもらう。
ここはリビングか。雄叫びを上げて飛び込んでくるニワトリの一撃を回避して、首を掴んでガラスまみれの床に叩きつける。その衝撃と、さらに体重をかけて奴の首を折った。
二体目が突っ込んできて、悠馬は咄嗟に跳び退いた。勢い余って庭に飛び出したニワトリの頭上に蜘蛛が落ちてきた。ニワトリよりもよほど重いそれによって、哀れにも潰されてしまう。
蜘蛛の方はダメージは大してないらしく、すぐに立ち上がった。けれどそこにバーサーカーが飛び降りる。
「おらっ! 死ね! さっきのお返しだ!」
その蜘蛛の上に乗って何度も背中をぶん殴り、硬い表皮を掴んでバリバリと剥がしていくバーサーカー。
フィアイーターと違って、奴は生物だ。傷を負えば血が出る。バーサーカーも当然汚れるけど、怒り心頭で気にしていない。
蜘蛛の方もやられっぱなしではなく、背中のバーサーカーを排除すべく手足を伸ばそうとした。どれが手なのかは知らないけど、阻止するべく悠馬は駆け寄った。体を支えている足に体当たりをすれば、蜘蛛はバランスを崩した。横転はせず、すべての足が開いて胴体が地面にドシンと落ちる。
乗っていたバーサーカーの体も大きく揺れた。
「うおっ! びっくりするだろうが!」
「ごめんって。でもバーサーカーが危なかったから」
「それは嬉しいけど! おらっ!」
蜘蛛が体勢を立て直す前に、バーサーカーは蜘蛛の足の一本を掴むと、思いっきり捻り上げた。細長い足がポキンと折れる。それで蜘蛛が立つまでの時間が稼げた。
さらに。
「おらぁ! 死ね! おらっ! 死にやがれ!」
テンションが上がると共に語彙が失われていくバーサーカーが、ちぎった足で別の足をボコボコと殴る。断面から飛び散る体液と、折れていく足。
蜘蛛が完全に立てなくなれば、バーサーカーはその頭部を掴んで思いっきり引っ張った。足と同じく、捻ればゴキリと音がして折れ、動かなくなった。
「っしゃおらぁ!」
力強い声を上げるバーサーカー。でも戦いは終わらない。
「ねえ! こっち来てくれるかしら!? 魔法陣があった!」
「魔法陣!?」
「ちょっと見てくれるかしら!」
セイバーの声が聞こえる。
見ても、魔法陣だなあとしか感想は浮かばないだろう。ラフィオなら中身を分析できるだろうけど、こちらは素人だ。それでも一応見ておきたい。写真に撮れば後でラフィオに見せられるだろうし。
再び家の中に踏み込む。ニワトリの死体がたくさん転がっていた。
セイバーは和室にいた。光り輝く和室だった。光の正体はもちろん魔法陣で、白い輝きを強く放っていた。
「ここからニワトリが出てきてるの! 今は落ち着いてるけど」
「魔法陣だなあ」
「そうだな」
感想を代わりに言ってくれたバーサーカーに頷きながら、悠馬はスマホを出す。カメラを起動するけど、光が強すぎて魔法陣の詳細を写真に収められない。
「!?」
不意に視線を感じた。セイバーもバーサーカーもこちらを見ていないのに。




